3-18 ピンチ

 「Dドリームミリオンズ」販売5日目、夜。


 多くの店舗が閉店時間を迎え、店舗回りを終えた俺は、まだ宝くじの販売を続けるリンリンの元へと合流をする。


 そのまま夜中まで一緒になって販売をし続けた。



 店舗回りの成果はというと、知り合いの店、そうではない店に関わらず、「Dドリームミリオンズ」を置いてくれる店は思いのほか多かった。


 もっと、断られまくることを予想していたのだが、そんなことはなかった。


 多くの店が、俺の営業トークを聞いた後で、快く「Dドリームミリオンズ」を販売することを快諾してくれたのだ。


 「Dドリームミリオンズ」を店舗に置くことによるデメリットは店側にはない。経費が一切かからないのだ。


 売れた分の売上は、当然後で回収に向かう。


 売れなければ、1週間とちょっと後に返品してお終いだ。


 それがよかったのか、かなりたくさんの店に「Dドリームミリオンズ」を置いてくることができた。


 宝くじの仕組みの説明に関して、宝くじの券にできる限りわかりやすく表記しておいたことが功を奏した。


 営業時に説明をし、理解してもらったのだが、それでもわからないことがあれば、その説明文を読んでもらえればいい。


 さらに困ったことがあれば、”ピエロ&ドラゴン”に来てくれさえすれば万事解決である。


 とりあえずは1店舗あたり30枚ほど、数十店舗で代理販売をしてもらうことができたのだ。


 本店チームとの情報共有の件もあるので、俺たちはとりあえずは2日毎に販売代理店を回って売れた枚数の確認をすることにした。


 そこでかなりの枚数がさばけている店があれば、補充をすればいいのだ。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売7日目。


 情報共有の時間は終えた。


 販売勝負の6日目終了時点の各チームの結果は、以下の通りである。



―――――――――――


経過日数 : 6日 / 14日


2日間の販売枚数 :

<本店>     1,050枚

<レジスタンス> 633枚


全日程合計販売枚数 :

<本店>     2,986 / 10,000枚

<レジスタンス> 1,797 / 10,000枚


両チーム合計販売枚数 : 4,783 / 20,000枚


消化日程 : 42.9%

販売割合 : 23.9%


―――――――――――



 両チームが2日間の販売枚数で最高記録を更新、しかし販売枚数はまだまだ伸ばさなくてはいけない。


 ”チームレジスタンス”の販売代理店を使ったことによる効果はまだでていない。これから成果がでることを期待したい。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売7日目、昼。


 朝からぐずぐずとした天気であったのだが、ついに昼頃になって雨が降り始めた。


 雨が降っている間は路上販売をすることはできない。


 俺たちは、他店舗の軒下を借りる交渉をして「Dドリームミリオンズ」の販売を続けた。


 しかし、雨によって足を止めてくれる人も少ないし、そもそも外に出ている人の数自体がいつもと比較して少なかった。


 俺とリンリンは話し合った結果、雨が止んでくれることに期待をして、交代交代で早めの休憩を取ることにした。




 俺は1人で昼食を食べている。


 少し硬めのパンに紫色の野菜と甘辛くあげられた肉が挟まっているサンドイッチのような食べ物に、「Dドリームミリオンズ」のイメージカラーと同じ色の真っ黄色なスープがランチのメニューである。


 サンドイッチからは野生的な味が、スープからは健康に良さそうな味がした。


 スープは結構、量が多めである。


「よう、キン!」


 1人でいた俺に声をかけてくる人物がいた。


 グラさんとモサモ。”ピエロ&ドラゴン”の常連客の二人組であった。


「どうも」


 俺は挨拶を返す。


「ここ、いいか?」


「いいですよ」


 グラさんとモサモもご飯を食べようと思っていたのか、俺の目の前の席に座った。


「キン、ピエロ&ドラゴンはどうしたんだよ。最近見ないが。それにリンリンちゃんもだ」


「色々あったんですよ。これでも毎日ちゃんと働いてますよ。今は休憩中ですけどね。来週には復帰できる予定です。リンリンも戻りますよ」


「そうか、それはよかった」


 グラさんもモサモも嬉しそうに頷く。待っていてくれる人がいるのは、素直にありがたかった。


「2人は何してんですか?仕事はいいんですか」


「俺たちは今日は休みだ。これからカジノに行くんだよ」


 ガハハハハ。


 蜥蜴男のモサモが豪快に笑った。


「うちのカジノはまだ、営業してませんが」


「そうさ。だから24時間営業の別のカジノで勝負するのさ。がっつり稼いで、”ピエロ&ドラゴン”にもたんまり金を落としていくさ」


「....それは....期待して待ってますね」


「おう、任せろ!」


 あまり期待せずに待っておこう。


 2人は注文していたメニューが来た瞬間に、即平らげた。これから勝負に行くのであり、腹ごしらえの仕方から気合が入りまくっていた。



「お2人は、”宝くじ”に興味がありませんか?」


 せっかくのチャンスだ。「Dドリームミリオンズ」の営業をしておこう。幸い手元には、何枚かの「Dドリームミリオンズ」があった。


 たくさん購入してくれるようであれば、取りに行けばいい。



「「もう買った!」」



 2人は声を揃えてそう言うと、バッと懐から大量の「Dドリームミリオンズ」を取り出した。


 1人当たり、ざっと50枚ほどはありそうであった。


 2人は、ピエロ&ドラゴンの常連客である。本店チームから購入をしたのだろう。


 本店チームの販売枚数の数字が伸びている理由がよくわかった。カジノによく来るお客さんたちは、”ギャンブルが大好き”なのである。


 道を歩いている一般人よりも、宝くじを買ってくれる可能性が高い。


 新しいギャンブルだと聞けば、とりあえずはお試しで金を使ってくれていた。


「ありがとうございます」


 とりあえず、お礼を言っておいた。




 食事が終わったので、グラさんたちとはその場で解散をした。


 2人を見ていて、どこかに宝くじを大量購入してくれる太客はいないもんかと思ったのだが、そんなものがいたら初日から販売しに行ってるに決まっている。


 現実は甘くない。


 傘をさして考え事をしながら歩いている俺の視界に、例の白いカラスたちが入り込んできた。


 雨が降っても空を飛ぶとは、随分と元気な鳥たちだ。


 カラスたちは、1つの建物に向かって一心不乱に飛んでいっているように見える。


 餌付けしてるのか?


 最近、やたらとカラスたちを見るのは、カラスを肥え太らせるようなことをしている人たちがいるからかもしれない。


 迷惑な話である。


 さて、休憩は終わりだ。また、頑張って宝くじを売ろうと決意を新たにし、勝負に向かったグラさんたち同じように自分に気合を入れるのであった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売9日目。


 雨は結局、7日目、8日目と2日間降り続け、販売開始日から9日目になってようやく止んだのであった。


 久々の晴れた空を見上げつつ、俺は情報共有をするために”ピエロ&ドラゴン”に向かう。


 販売勝負の6日目終了時点の結果は、以下の通りである。



―――――――――――


経過日数 : 8日 / 14日


2日間の販売枚数 :

<本店>     988枚

<レジスタンス> 608枚


全日程合計販売枚数 :

<本店>     3,874 / 10,000枚

<レジスタンス> 2,405 / 10,000枚


両チーム合計販売枚数 : 6,279 / 20,000枚


消化日程 : 57.1%

販売割合 : 31.4%


―――――――――――



 雨に苦戦をしたせいで、どちらのチームを売上を落としてしまっていた。


 カジノの通常営業時でも、雨が降ると売上が落ちてしまう。


 各チームの販売枚数、全体の販売枚数共によくない数字である。


 「Dドリームミリオンズ」販売の全日程の半分を終えたにも関わらずに、20,000枚の宝くじのうちの3割しか消費ができていないのだ。


 ”チームレジスタンス”にいたっては、2割5分以下である。



 折り返し地点は超えた。


 笑っても泣いても、後6日。


 デッドラインまで残された時間は少ない。

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