3-17 途中経過

 「Dドリームミリオンズ」販売3日目。


 朝一で、俺は”ピエロ&ドラゴン”へと向かう。この2日間でどれほどの成果が出たのかを”本店チーム”と共有するためだ。


 リンリンには昨晩聞いてみたところ、行かない、との返答であった。


 チームのどちらか1人が行けば十分であり、俺はリンリンの意思を尊重する。勝負の相手、ランランと顔を合わせたくないようだ。


 リンリンは先に「Dドリームミリオンズ」を簡易店舗で売っているとのことであり、俺たちはリンリンが行く先で合流することとして別れた。




 さて、俺は店に到着をした。


 店の前には、宝くじの販売スペースが作られていた。今はまだ無人だが、昼頃から、この場所を使って「Dドリームミリオンズ」の販売を行なっているのだろう。


 店舗の外に販売スペースを作ることは、5人がまだ全員揃っていた頃の販売計画の話し合いのときに出た意見であり、”本店チーム”がそれを採用したのであった。


 まだ、ちょっと前の話なのに、あの頃のことを懐かしく感じてしまう。


 店の中へと足を踏み入れる。



 店の中には、ジェスター、ランラン、ロンロンが勢揃いであった。俺とリンリンが部屋を使っているので、ランランとロンロンには行き場がない。


 2階に泊まっているのだから、出かけてない限りは来ればいるに決まっていた。


「おはよう」


 俺は3人に向かって、普通の挨拶をする。


「おはよう」


「よっ」


「うむ」


 ジェスター、ランラン、ロンロンは三者三様の挨拶を返してきた。

 

 空元気だとしても、元気そうで何よりである。


 特に雑談することもなく、俺たちは情報の共有を始める。本店チームはジェスターが話をしてくれるようであった。



「本店チーム、「Dドリームミリオンズ」の1日目と2日目の合計販売枚数は、912枚だったわ」



 912枚。


 この数字は残念ながら、いい数字ではない。


 各チームが2日間あたりで、完売ペースだと約1,400枚の販売を、発券枚数の8割を販売するように目標値を設定するペースだと約1,100枚の販売をしなければならない。


 912枚は、そのどちらにも届いていなかった。


「そうか」


 俺はただそう言っただけであった。


 1,400枚と1,100枚のラインはジェスターたちも知っている。この数字が良くないことは、俺が何も言わなくても理解をしているはずだ。


「本店チームはどうやって「Dドリームミリオンズ」の販売をしてたんだ」


 俺の質問に対して、今度はロンロンが答える。


「昼間は店の前に設置した販売スペースで、夜は販売スペースと店内の両方で売っていたぞ。


外の販売スペースでは商店街に来た買い物客を相手に、店内ではカジノを来たお客さんを相手にしていたんだ」


「夜も販売スペースをやってたのか」


「うむ」


「交代で、常時1人が売っていた」


「じゃあ、カジノの中を回していた人数は...」


「2人だね」


 ランランがそう言う。ランランたちが入る前の体制に完全に戻ってしまっていた。


「他の場所での販売は......まぁ、無理か」


「そうだね。店の準備もあるから、”ピエロ&ドラゴン”の営業を続けるんだとしてら、これ以上の人数を店外での「Dドリームミリオンズ」の販売にあてるのは厳しいかな」


 ランランがごもっともなことを言う。


 本店チームの数字を伸ばす方策は、対戦相手の俺が考えるべきことではない。ジェスターたちに任せよう。


「で、チームレジスタンスはどうなのよ?」


 ジェスターが当然の疑問を口にする。


 いよいよこのときが来てしまった。


「俺たちの合計販売枚数は―――」


 俺はたっぷりと間をとり、その数字を告げた。



「―――542枚だ」



 場の空気が固まった。全員が驚きの表情を浮かべている。


 それはそうだろう。この数字を見たときに、俺とリンリンだって驚いた。


 悪い。悪すぎる。


「え?」


 ジェスターは自分の聞き間違い、もしくは俺の言い間違いじゃないかと聞き直してきた。


「542枚だ」


 俺はその残酷な数字をもう一度告げた。


 ”チームレジスタンス”は、1,400枚と1,100枚の目標ラインに到達するどころか、その半分すら達成ができていなかったのである。



「キン一応言っておくんだけど」


「......なんだよ」


「この店には「Dドリームミリオンズ」の賞金1,000万Dドリームの現金がないわ」


「そんなことは知っている」


「売上をあげてそのお金を即賞金に当てる、自転車操業をしてるの」


「わかってるよ」


「だから、最悪の最悪。賞金分の売上1,000万Dドリーム、宝くじを20,000枚中、10,000枚は売れなかったら―――」


「売れなかったら?」


「いろんなものを”売る”ことになるわ」


 いろんなもの。


 それは店のあらゆる財産のことを指している。備品の数々から始まって、それでも足りなければ建物や土地を借金の担保にすることになってしまう。


 また、借金生活に後戻りだ。


 ジェスターから、そんな脅しをかけられるほどに、俺たちの数字は悲惨だったのだ。


「頑張るよ」


 俺はふてくされたような口調でそう言う。


「なら、いいわ」


 ジェスターはそう言った。


「これでお互いのチームの情報共有は終わり。私たちもキンたちを責められるほどの数字じゃないしね。両チームともにまた頑張りましょう。


次は、2日後にまたここで」


 ジェスターの言葉によって、この会は閉められたのであった。




Dドリームミリオンズ」販売勝負の現状は以下のようになった。



―――――――――――


経過日数 : 2日 / 14日


2日間の販売枚数 :

<本店>     912枚

<レジスタンス> 542枚


全日程合計販売枚数 :

<本店>     912 / 10,000枚

<レジスタンス> 542 / 10,000枚


両チーム合計販売枚数 : 1,454 / 20,000枚


消化日程 : 14.3%

販売割合 : 7.3%


―――――――――――



 本店チームがリードしていると言うことは、これはランランの勝利が近づいたということだ。このままいけば、ランランが”ピエロ&ドラゴン”に残り、リンリンが去る。


 結果を聞いたランランの表情をうかがってみると、特段嬉しそうにはしていない。


 ゲームはまだまだ続くのだ、油断しないとの意志の現れだろう。


 やるべきことを全て終えた俺は、一刻も早くリンリンと合流して「Dドリームミリオンズ」の販売を開始するために、急いで移動するのであった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売5日目。


 3日間と4日間の合計の販売枚数の数字がでた。


 必死になって売ったのだが、結果は芳しくない。


 店へと向かう足取りは必然的に重くなってしまう。リンリンは前回同様に行かないそうなので、朝、俺は1人で”ピエロ&ドラゴン”に向かうのであった。



 販売勝負の4日目終了時の結果は、以下の通りである。



―――――――――――


経過日数 : 4日 / 14日


2日間の販売枚数 :

<本店>     1,024枚

<レジスタンス> 622枚


全日程合計販売枚数 :

<本店>     1,936 / 10,000枚

<レジスタンス> 1,164 / 10,000枚


両チーム合計販売枚数 : 3,100 / 20,000枚


消化日程 : 28.6%

販売割合 : 15.5%


―――――――――――



 どちらのチームも、2日間での販売枚数は増加をしていた。


 ”本店チーム”は1,000枚の大台を突破した。しかし、まだ目標ラインには到達していない。


 ”チームレジスタンス”に関しては、更なる”頑張り”が求められていた。


 このままでは、ダブルスコアも見えてきてしまう。売上目標には全然到達せずに敗北だ。


 情報の共有を終えた俺は大急ぎでリンリンの元へと向かう。



 このままでは、まずい。


 その思いは2人とも同じであった。自分の進退がかかっているリンリンは、俺以上の焦りを感じているだろう。


 「Dドリームミリオンズ」自体は順調に売れている。しかし、目標には届いていない。


 ここで俺は厳しい現実に気付かされる。


 2週間の販売期間が短すぎたのだ。


 倍の4週間とかであれば、今のペースでも十分に目標に到達できる。


 短期決戦を決めた自分自身の判断ミスを呪いたくなってくる。


 しかし、宝くじ当選の日程は告知してしまっているので、もう変更はできない。


 とにかく、残り10日間であらゆる方策を使い、売って、売って、売りまくるしかないのである。




 俺たちは他店舗に対して、「Dドリームミリオンズ」を置いてもらえるようにと交渉をすることにした。


 八百屋だろうが、雑貨屋だろうがどんな店でも構わない。


 ある程度のまとまった枚数を店に置き、販売を代行してもらう。


 もちろんタダではない。1,000Dドリームの売上のうちの3割を、販売代理店側に納めてもらう。


 俺たちは売れた枚数、1枚あたりで700Dドリームを受け取る。


 この金額ならば、賞金を差し引いて十分に黒字になるのだ。


 ”ピエロ&ドラゴン”で馴染みのお客さんの店から、初めて行く店への飛び込み営業まで、あらゆる手段を使うつもりである。


 明日は、俺が店舗回りをしていき、ランランが1人で路上販売を行う。その役割分担で決定をした。



 なんとしてでも、目の前の数字を伸ばさなければいけない。


 胃がキリキリとする日々は、まだまだ続くのだ。

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