3-16 足で稼ぐ

 部屋に戻ってから、俺とリンリンはいかにして自分たちの担当分の10,000枚の「Dドリームミリオンズ」をさばくのか、販売計画を立てていった。


 14日間、2人で10,000枚。完売するためには、1日1人あたり360枚ほど売らなくてはならない。


 1枚1,000Dドリームなので、売上で計算すると360,000Dドリームとなる。


 売上の目標は8割さばくことなので、1人あたり280枚とちょっと、2人で570枚ほどが実際の目指す数字である。


 1人あたり売上換算で280,000Dドリームとなる。


 どちらにせよ、なかなか大変な数字だった。普通に売っているだけでは、到達する数字なのかはわからない。


 俺たちはいくつかの作戦を考え、販売開始直前の1日を終えるのであった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売初日。


 さて、いよいよ「Dドリームミリオンズ」販売開始日を迎えた。


 俺とリンリンの”チームレジスタンス”はチームの人数が少ない代わりに、店の仕事を休んだことで、全ての時間を「Dドリームミリオンズ」販売に使うことができる。


 一方で、”本店チーム”は夜の時間にピエロ&ドラゴンの営業をこなしながら、販売をしなければいけない。どちらが有利なのかは判断が難しいところである。



 俺とリンリンは朝一で通りへと向かい、目立つ場所に簡易の店舗を構えて販売を開始した。


 朝、昼、夜と、その時間帯ごとに人が多い場所へと簡易の店舗を移していく作戦である。


 この日のために準備したはっぴを着て、登りを立てる。


 「Dドリームミリオンズ」のイメージカラーに設定をした”黄色”が、遠目からでもよく目立っていた。



「たっからっくじ〜!たっからっくじ〜!


1,000万Dドリームが当たるチャンスだよ〜っ!運が良いだけで、お金持ちに慣れちゃうよ〜っ!たったの1,000Dドリーム払うだけで、大金をゲットできるチャンス!!


たっからっくじ〜!たっからっくじ〜!


1,000Dドリームが、10,000倍の1,000万Dドリームに化けちゃうよ〜っ!!今だけの大チャンスだよ〜っ!」


 リンリンがメガホン片手に、明るく元気かつリズミカルに宣伝をしていく。突如始まった謎の”商品”の販売は、道ゆく人々の注目を集めていった。


 なんだなんだと興味を持った人が、少しずつ近寄ってくる。


 リンリンは上手に、移動式簡易店舗を開いている俺の方へと誘導をする。リンリンが呼び寄せたお客さんの相手は俺の仕事だ。


 俺は近くにきたお客さんたちに対して、当選すれば1,000万Dドリーム手に入ること、番号によって当選の可否が決まること、2週間後に当選発表があること、”ピエロ&ドラゴン”というカジノがこの宝くじを販売していることなどを説明していく。


 当選確率はどれくらいなのかなど、質問されたことに対しても、出来る限り丁寧に答える。


 早速、1枚の「Dドリームミリオンズ」が売れた。ありがたい。


 購入者は、俺やリンリンと同じくらいの年齢の商売人風の男性であった。彼に幸がありますように、と心の中で祈りを捧げる。


 最初の1枚が売れたことにより、2枚、3枚、5枚と宝くじが売れていった。出だしは順調。悪くないスタートである。


「10枚買おう」


 懐に剣をぶら下げた、冒険者風で毛むくじゃらの獣人が宝くじの購入をしてくれた。ギャンブル好きなのかもしれない。初めての複数枚を一気に買ってくれた人であった。


「たっからっくじ〜!たっからっくじ〜!」


 リンリンは楽しそうな声を上げ続ける。もちろん素通りしていってしまう人の方がはるかに多い。


 それでも人通りの多い場所を選んだおかげもあり、人の数の暴力によって、しばらくは途切れることなく人が簡易店舗へと訪れ続けてくれた。

 

 良き頃合いを見計らって、俺とリンリンは役割を交代する。


「宝くじ〜っ!1,000万Dドリーム当たるチャンスだよ〜っ!」


 リンリンのようには可愛くできないが、俺は俺なりの声の出し方によって、人々の注目を集めていく。声を出し続けるのは想像以上に大変で、疲れる仕事であることがわかった。


 2人交代では2週間持たないかもしれない。2人とも声出しをせずに販売する時間を確保した方が良さそうだ。


 昼ごはん休憩などは交代でとり、宣伝役はいなくなっても、簡易店舗に人がいなくなる時間だけは作らないようにとした。


 この日は、結局朝8時から夜10時までの計14時間、2人で「Dドリームミリオンズ」を売り続けたのであった。


 簡易店舗の場所は、1日の間で5回ほど変更をした。


 どの場所がいいのかの目星は、昨日のうちにつけておいた。人が多く、かつ、簡易店舗の移動に時間が取られすぎない場所で販売をし続けたのであった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売2日目。


 俺とリンリンは昨日と同様にして、宝くじを売り続けた。


 これはチーム対抗のゲームということになっているのだが、実際のところは”営業対決”的な意味合いが強い。営業をゲームだって捉えれば、やっぱりゲームだけど。


 頭脳も大事だが、体力がもっと大事であり、”足”で稼がなくては勝利できないのだ。


 俺とリンリンは必死になりつつも、スマイルを忘れずに販売を続けていく。


 本日も簡易店舗の場所を5回移動させる予定だ。


 そして、2度目の場所移動をしたときであった。


 俺たちが店を構えようと思っていた場所の周辺に人だかりが出来ている。何が起きているんだと気になった俺とリンリンは、その周囲に野次馬のごとく近寄っていく。


 人だかりの中央には、治安維持兵たちと彼らによって検査を受ける人々と、通行止された荷車がいた。


 治安維持兵たちは、必死になって何かを探しているような様子であった。


 近くの通行人同士の会話が耳に入ってきた。


「あいつら、何探してんだよ」


「何でも、最近”フォルヘロイン”の流通量が増えてるらしいぜ。どの密輸ルートから入ってきてるのかわからずに、神経とがらせてるんだ」


 フォルヘロイン。


 聞き馴染みのない名前である。


 リンリンも同じ会話が聞こえていたのだろう。不思議そうな顔をしている俺を見て、単語の意味説明をしてくれた。


「”フォルヘロイン”は禁止薬物だよ。麻薬の一種さ。


どっぷりとした”幸せ”を味わえるってことで、人気のドラックなんだ。


でも”フォルヘロイン”は前から密かに流通をしていたんだけど、流通量が増えてたなんてのは知らなかったね。別の密輸ルートができたのかな」


「別のって、それじゃあ1つは密輸ルートが当たり前にあるみたいじゃんかよ」


「うん、そうなんだ。この国に出回っている禁止アイテムや禁止薬物はそのほとんどが無法者たちの街、第4区から入ってくるんだ。


第4区はとにかく治安が悪くてね。


賄賂をもらった国境警備をする治安維持兵たちが密輸を許して、第4区を治める貴族も黙認してるって噂だよ」


「じゃあ、そいつらが”フォルヘロイン”の流通量を増やしたんじゃないのかよ」


 それが素直な推理である。


「多分、それが考えにくいから騒いでるんだよ。第4区以外の貴族たちも、第4区の悪事は派手過ぎないから文句を言わないんだ。


事実上の密輸制限があるらしいよ。


国の治安を揺るがすようなことをしちゃったら、流石に許されない。


だけど、今回はこんな騒ぎになってるってことは、きっと第4区以外の密輸ルートができちゃったってことだね。第4区貴族の知らないところで。


その結論に至って、”フォルヘロイン”を探してるんだね」


「なるほどね」


 リンリンの話は筋が通っていて、非常に納得感が高かった。


 禁止薬物の密輸か。まぁ、合法カジノを経営する俺たちには縁遠い話であった。



ガーッ、ガーッ、ガーッ



 頭上で大騒ぎするいつぞやの白カラスたちによって、現実に引き戻される。


 そうだ、俺たちはこんなことをしている場合ではない。「Dドリームミリオンズ」を売らなくては。


 人が多いのは、販売のチャンスな気もしたのだが、治安維持兵たちに声を掛けられても面倒だ。


 メリットとデメリットを天秤に掛け、後者の方が大きいと判断する。


 俺とリンリンは、この場所での販売を諦め別の場所へと移動をすることにしたのだった。



********



 「Dドリームミリオンズ」販売2日目、夜。


 1日目よりも要領をつかんだのか、2日目販売の手応えは初日以上である。


 俺とリンリンは、1日目と2日目で何枚の宝くじを売れたのか集計をしていく。


 宝くじは、基本的には20,000番から番号順に販売をしていた。しかし、お客さんの希望によっては好きな数字を選んでもらうことも許しているため、特定の番号が抜けてしまうこともあった。


 残った数千枚の宝くじの枚数を数えるのでは、途方もない時間が掛かってしまいやる気が起きない。


 そこで俺たちは、売上金を数えることにする。



『売上金 / 1,000Dドリーム = 販売枚数』



 簡単な方程式で、販売枚数を知ることができる。


 十数分ほどで、チームレジスタンスの1日目と2日目の宝くじ販売枚数を集計することができた。


「これは...」


 俺とリンリンは、顔を見合わせる。そこには、衝撃の結果が現れていたのであった。

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