3-6 Dミリオンズ

 「宝くじ」とひとまとめで呼ぶのだが、宝くじにも種類がたくさんある。


 俺たちは様々な形式の宝くじを検討した。



 最もポピュラーなものとして、「番号式の宝くじ」がある。


 組・番号などがあらかじめ決められた宝くじであり、購入するとき、購入した後でプレイヤーが特にできることはない。


 「連番」と「バラ」のどちらで購入するのかとか、どこの宝くじ売り場で購入するのかを選ぶとか、購入後の宝くじを神棚に飾っておくとかくらいである。


 この行為に、数学的な意味合いは何もなく、オカルト的な儀式に過ぎない。


 「番号式の宝くじ」は、純粋な運ゲーである。


 胴元視点で考えると、宝くじを売った後で当選番号を発表する仕組みが非常に素晴らしい。


 頑張って販売をすれば、在庫を抱えたまま当選発表日を迎えるリスクが軽減される。



 宝くじを削って当たり、ハズレを判別する「スクラッチくじ」もある。


 これは、「番号式の宝くじ」が発表日が最初から決まっているのに比べて、すぐにその場で当選したかどうかがわかる特徴がある。


 あとは、削っていく楽しみを味わうことができる。


 ディーラー側、売り手として「スクラッチくじ」を採用するメリットは、売れ残りがないことである。


 「スクラッチくじ」は極端な事を言えば、10年間完売に時間がかかろうとも、売り切ることができれば店の儲けは確実に得られる。


 ただし、今回の場合はピエロ&ドラゴンでは「スクラッチくじ」を採用することができない。


 俺たちは、1人が当選金を総取りの宝くじを販売することにした。


 「スクラッチくじ」にしてしまうと、最悪の場合、1枚目の購入者が当選をしてしまう可能性がある。


 それ以後のハズレくじしかない「スクラッチくじ」は、誰も購入をしてくれることはないだろう。


 これは、当たりの数を増やしたとしても同じことだ。


 もっと大規模に、それこそ数十万枚とか、数百万枚とかの販売をして、1等から6等までの当たりを設定するとかしないと、大赤字になる危険性がある。


 というわけで、「スクラッチくじ」は却下である。



 あとは、数字を自分で選ぶタイプの「数字選択式宝くじ」がある。


 例えば、1〜37までの数字の中から好きなものを7つ選んでみたり、1〜43までの数字の中から6つを選んでみたりとする。


 当選者は複数人でる可能性があり、当たった人全員で賞金を山分けすることになる。


 「数字選択式宝くじ」は、自分で数字を選び、勝負をしている感覚を味わうことができるのが魅力であろう。


 ディーラー視点で考えると、この宝くじはどの数字の組み合わせで何枚売れたのかを記録しておかなければいけない。


 そうしなければ、賞金の金額が決まらずに支払いをすることができない。


 非常に手間がかかり、ミスをしてしまうリスクも生じる。


 「数字選択式宝くじ」はプレイヤーに楽しんでもらえて魅力的なのだが、今回は却下となった。



 あとは、代表的な宝くじとしては「スポーツくじ」があげられる。


 スポーツなどの競技の結果に賭けるギャンブルである。


 俺たちが行った”クレイジーラン”も、このギャンブルに該当するのだが、これは宝くじと呼んでいいのか微妙なところである。


 スポーツの結果に賭けるという、運以外の要素がかなり大きなゲームである。


 ”クレイジーラン”のときは、他の人たちが運営してくれたのでよかったのだが、自分たちでスポーツイベントを開催、くじを発券するとなると、とんでもない手間と経費がかかることになってしまう。


 というわけで、「スポーツくじ」も却下した。



 思考を一周させたことによって、やはりそれ以外の選択肢はないとの結論に達し、俺たちは「番号式の宝くじ」を作ることになった。


 宝くじの番号は10,000番から29,999番まであり、完成した20,000枚の宝くじが今日、ついに届いたのである。


 宝くじの名前は、ジェスター発案の「Dドリームミリオンズ」で決定をした。


 それぞれの宝くじには、その名が大きく刻まれている。


 宝くじの製作費用は50万Dドリームかかったそうである。料金の支払いは宝くじの販売終了時まで待ってもらえるそうだ。


 具体的な金銭が動いてしまった。


 これでもう後に引くことはできない。


 販売期間は2週間であり、今日から3日後に販売を開始、販売終了後には大々的に当選番号の発表会をする予定だ。


 賞金を用意しておき、当選者には即日で支払いをできるようにとしておく。



 ジェスターが優秀だったおかげで、準備はスムーズに進行をし、多少のゆとりを持った状態で、販売開始の日を待つことができるようになった。


 早めに売り始めてもいいかも、とも思ったのだが、宝くじの券には販売期間を書いてしまっていたために先行販売は諦めることになった。



********



 5人で「Dドリームミリオンズ」の販売計画を立てた。


 昼間はランラン、リンリン、ロンロンたちには早めに出勤をしてもらい、誰かが外での営業を行う。


 もちろん、店の準備もしなくてはいけないので、営業班を3人、店の準備班を2人に分ける。


 そして、営業班の3人は自分自身が簡易の店舗になって、宝くじを国内のあらゆる場所で販売していく。


 「Dドリームミリオンズ」の宝くじの名前、「1,000万Dドリーム当たるチャンス」のキャッチコピー、「ピエロ&ドラゴン」の店名などが書かれたのぼりの旗を持ち、声を張り上げながら販売を行っていく。


 人々は高額賞金が当たる宝くじに馴染みがないそうなので、宝くじについてゼロからしっかりと説明しなくてはいけない。


 宝くじの仕組みに関しては、宝くじの券にもできる限りわかりやすく表記をしておいた。


 ピエロ&ドラゴンの場所の地図も書かれているので、何かあれば店に来てくれれば対応をすることができる。


 宝くじの販売は、そのまま店の宣伝にもなるので、カジノの来客人数を増やす広告効果も見込むことができた。


 夜間はカジノの営業があるので、主には店内で宝くじを販売することになる。


 こちらでの売れ行きにも期待をしたいところだ。


 誰か1人くらいは、店の前に販売スペースを作っての営業をしてもいいかもしれない。


 店内でしか買えないのと、店の外でも買えるのとでは大違いだ。


 販売スペースは昼間からずっと、常設し続けるとかね。



********



「―――と、販売計画の全容はこんな感じになったかな」


 俺は、5人で立てた販売計画をまとめて、全員に情報共有をした。


「2週間で20,000枚、1日あたりで1,400枚販売できれば完売できる。とりあえずは、8割の販売、2週間で16,000枚を目指そう。1日あたりで1,100枚だ。これだけ売れれば十分すぎるほどに金を稼ぐことができる」


 皆が頷き、同意をしてくれた。


「私は国中を走りまくって売るよ。走るのは得意だからね!ついに、私の足の本気の力をキンの前で披露するときがきたね。魔法の力を使っちゃうよ!」


 リンリンはやる気いっぱいである。


「そいつは頼もしいな」


「リンリンが全力で走ったら、物売るどころはないでしょ。キンはリンリンを甘やかしすぎだよ」


 ランランが厳しめのツッコミを入れる。


 リンリンは少しムッとした表情をした。


 また、姉妹の言い争いが始まるのか、と少し構えたのだが、その心配は杞憂に終わった。


 2人はフンっと顔を背けて、互い違いの方向を向いてしまった。


 この双子は本当は仲が悪いのか?俺の観測範囲内では、特に最近、小競り合いをしている回数が多い気がする。



「我も気合いを入れて売りまくるぞ。魔法で土の龍に、土の虎を召喚して、宝くじを売ってもらうとかはどうだ?人手が一気に2人分も増えるぞ」


「そんな器用なことができるのか!」


 俺が驚いたリアクションをとると、即座にランランが否定をした。


「ロンロンの土の龍に、土の虎は、周りのものに手当たり次第攻撃して、破壊しまくるだけでしょ。あたり一面を更地にすることはできても、宝くじの販売なんてありえない。


お客さんに大怪我させておしまいだよ」


 ランランの主張は正しかったのか、妹に怒られたロンロンはシュンとしてしまっていた。


 ロンロンの魔法は戦闘や破壊に特化した物が多そうであった。


 ロンロンには、魔法を使わずに頑張ってもらうことにしよう。



「私の魔法は、時間を操ることができるから、国中の時間を操っちゃうわ。2週間を2倍の4週間に引き延ばしちゃうわよ」


 ランランが胸を張ってそういう。


「そんな恐ろしい魔法があるのかよ!!」


 そんな力を持ってるのなら、大魔導師だ!


 宝くじの販売なんかをしている場合じゃない!


 世界を救う冒険とかに向かったほうがいい。


「見栄っ張りの大嘘付き」


 姉に対して、リンリンがボソッとそう言った。


 残念ながら、ランランに時間を引き延ばすことなどは流石にできずに、ランランが言ったのは軽いジョークであったらしい。


 ランランにも、魔法を使わずに、持ち前の愛嬌を生かして、宝くじの販売を頑張ってもらうことになりそうだった。


 兄妹は、皆がただのお調子者なだけであった。


 3人とも、魔法を使わなくても十分な戦力になるのだ。素の自分で頑張ってもらいたい。


 そんなこんなで、面白可笑しな話も交えながらも、「Dドリームミリオンズ」販売の準備は進行をしていった。



「私は念動力でパフォーマンスをして、周りの注意を引きながら、宝くじを販売しようかしら」


 ジェスターが真面目なトーンでそう言った。


「...うん、そうだな」


 ジェスターは、全くボケていないので、つっこむポイントはどこにもない。


 ジェスターには、魔法を使いながら頑張ってもらえればと思う。

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