2-16 三つ巴の戦い

「ちょっと待った。だから、ギャンブルをするのは俺だ。お前はでしゃばるな!」


 ウーロボロスは、ドラコーンのギャンブルの提案を必死になって止めている。


 2人はまた、ギャーギャーと兄弟喧嘩を始めてしまった。


 彼らはお互いに譲る気は無く、しかも借金の額までぴったりと同じなので話し合いでは解決できそうになかった。



 ジェスターは、面倒くさそうな表情になってしまっている。


 ジェスターの本心では、すぐにで帰って欲しいのだが、仮にも借金の債権者であり、彼らのことを無下には扱えないのだろう。



 彼らはこの土地を手に入れるために、とにかく3,000万Dドリームを賭けたギャンブルがしたいのだが、どちらが勝負のテーブルにつくのかを決めることができない。


 順番に2回勝負するにしても、どの順番で勝負をするのか、また揉めそうである。




「いっそのこと、「1対1対1」で三すくみの勝負をすればいいじゃないのか」



 俺は深く考えずに、ボソッとそんなことを呟いてみた。


 俺がそう言った瞬間に、兄弟の言い争いはピタッと止まり、店内で無音の時間が過ぎていく。


 店内にいる全員が俺の方を見た。




 あれっ、俺はそんなに変なことを言ったのか?




 ウーロボロスとドラコーンは、ブツブツと何かを呟きながら俯いて考え出してしまった。


 ......だとしたら、あれをああして。


 2人で何かを相談している。


 そして、考えがまとまったのか、顔をあげて宣言をする。




「ギャンブルだ。ギャンブルで勝敗を決めよう。


それが平等でいい。


行うギャンブルの名は、”クレイジーラン”だ」

 



「......グレイジーラン」


 ジェスターが小さく呟く。


 これだけでは、もちろんギャンブルの全容をつかめない。


 ドラコーンが、ギャンブルのルール説明を始める。


「ルールは単純だ。”ウーロボロスチーム”、”ドラコーンチーム”、そして、”ピエロ&ドラゴン”チームに別れてゲームをする。


各チームはそれぞれ、代表選手を3名ずつ選ぶ。


そして、ギャンブル当日、代表選手を3名ずつ計9名でレースをするんだ。


コースは、この国、リリィ王国をぐるっと一周する道だ。


全員が横一列、一斉にスタートを切って1位になった代表選手を出したチームが勝者となる。


残りのメンバーが、何位であろうとも関係がない。


とにかく1位でゴールするメンバーがでれば、その時点でレース終了である。


勝者総取りで、賭けのテーブルに載っているものを全て手に入れることができる」



 9人で一斉にスタートを切ってゴールを目指すレース。


 競馬のようなものってことか?



「賭けるものは各チーム3,000万Dドリームだ。


俺たちは、借金の借用書を賭ける。そして、ジェスター嬢、君にはこの店を買収する権利を賭けてもらう。この店と土地の売値から3,000万Dドリームを引いた金額で、店を手放してもらう。


俺たちが勝者となれば、店の土地が手に入るので万々歳だ。


そして、ジェスター嬢が勝てば借金がゼロになる。


これなら、誰にでも勝利をする可能性があるゲームであり、3チーム同時に一発勝負することができる。


このルールでギャンブルをするのはどうだ?」



 ドラコーンとウーロボロスは、このルールに納得をし、勝負をしたがっているように見える。


 つまりは、今の問いかけはジェスターに向けて行われている。


 ジェスターの意思こそが重要であり、ジュスターが首を縦に振れば、”クレイジーラン”とかいうギャンブルが開催されることになる。



「3人の代表選手は誰でもいいのね?」


「もちろん、誰でもいい。参加当日までにメンバーを揃えて、連れてきてくれればいい」


「国を一周するなのね?」


「そうだだ」


 ジェスターは、いくつかのルールを再確認していった。


「後は、当日は誰が優勝をするのかの見学者参加型のギャンブルを行おう。代表選手に1番から9番までの番号を付けて、優勝する人が当たれば賭けた者には「金」が支払われる。このギャンブルで運営が儲けた「金」もまた、1位の代表選手を出したチームに支払われることにしよう」


 いよいよ本格的に、競馬のようになってきた。


「レースの準備は我々でさせてもらう。この店にはそんな「金」も「人材」もないだろう。


心配しなくても、はしない。


俺たちではなく「俺」が勝ちたいんだ。


兄弟であろうと、こいつに勝たせるわけにはいかない。お互いで監視をし合って、フェアなレースにすることを約束しよう。


ジェスター嬢は、レース当日に代表選手さえ連れてきてくれればいい」


 ウーロボロスはそう言った。



「いいでしょう、受けましょう」



 少し黙って考えるような仕草をした後で、ジェスターはギャンブルを受けることを了承した。



「そう来なくては!」



 ウーロボロスとドラコーンは、大喜びをしている。


 きっと、彼らにはそれぞれに何か勝算があるのだろう。


 優秀な代表選手を連れてくるとか。


「レースは今日から1週間後に開催をしよう。詳しい日時はおって連絡をする」


 あれをああして、こうして...、忙しくなってきた、と2人はまたブツブツと喋りながら店からでていった。


 こういう姿勢はやはり兄弟のようである。


 白スーツと紫スーツの一行も2人に付いて行って、店から出ていく。



 突如現れて、嵐の様に場をかき乱し、そして出ていった。


 残していったのは、3,000万Dドリームを賭けた大勝負の約束であった。




 店から俺たち2人以外の誰もいなくなった後で、俺はジェスターに問い詰める。


 借金に関する件である。


「なんで隠してたんだよ」


「別に、聞かれなかったからよ」


 俺は不服であることを前面に出して、ジェスターの方を見ていると、ジェスターにはそのことが伝わった様であった。


「......ごめんなさい。言い出すタイミングを完全に逃してしまいました」


 謝罪をしてくれた。終わったことはまぁいいとしよう。


「借金は3,000万Dドリーム、3,000万Dドリームに、賭けで勝った分の500万Dドリームで、合計6,500万Dドリームで全部なのか?


これ以上、またちょこちょこと借金が出できたらたまったもんじゃない」


 その度に、物語が始まってしまう。


「そうね。これで本当の本当に借金は全部よ。今回のギャンブルに勝利することさえできれば、父の”ピエロ&ドラゴン”を建てるために作った借金は完済することができるわ」


 ジェスターはそう言う。



「そうか。じゃあ、勝つしかないな」


「そうね。勝ちましょう」


 ジェスターは、感慨深そうに言う。


「しかし、意外だったよ。ジェスターは店を賭けるようなギャンブルには、積極的じゃないと思ってた。店を絶対にギャンブルのテーブルには載せないんじゃないかって」


「そうね。でも、私も学んだのよ―――」


 ジェスターが続ける。



「―――リスクを負ったからこそ、手に入るものがあるってことを」




「もし、このギャンブルに勝つことができれば、借金は完済することができるわ。そうすれば、お金のことの心配が大きく減る。お金の悩みから解放されるの。


店でお金を生活費以上の稼ぐことができれば、店の設備費に回すことができるわ。


壊れたスロットマシーンも直したいし、新しいマットレスも引きたい。調理器具も新品にしたり、新しい道具を導入してみるのもいいわね。


キン以外の従業員を雇えば、もっとたくさんのゲームをすることができるわ。営業時間だって延ばせるかも」



 ジェスターは楽しそうに語っていく。


 この店の未来のことを。



「勝つことができれば、借金完済以上の何かが、手に入る。


勝つことができれば、店は変わる。未来が広がる。


人生が掛かった、大切なものを賭けるリスクを負ったからこそ、つかみ取れる未来があることを私は学んだ。だから―――」



 ジェスターは、俺の方を強い眼差しで見つめてきた。



「―――勝ちましょう」



 決意のこもった力強い言葉でそう言う。



「そうだな、勝とう」


 俺は、ジェスター以上に気持ちを込めて返事をした。


「じゃあ、そのためには色々と作戦会議をしなくちゃな。まずは”クレイジーラン”の代表選手を決めなきゃな」


 このギャンブルでは、代表選手の選定こそがかなり重要となってくる。


「あぁ、その件なら大丈夫よ」


 大丈夫?



「私には、このギャンブルでの”必勝の策”があるわ」

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