2-4 冒険者ギルドでの一悶着
俺は現在、ランランと一緒に目的地に向かって全力疾走をしてた。
走りながらなので息も絶え絶えの状態で、ランランから事の経緯を聞き出している。
息切れしている俺と比較して、ランランはまだまだ余裕がありそうな走りっぷりであり、走る速度の遅い俺のペースに完全に合わせてくれていた。
「リンリンは私の妹で、ロンロンは兄だよ。私たちは3人で冒険者パーティーを組んでいるの。
私はロンロンと二人で一緒にいたところで、別の冒険者パーティー3人組に何か絡まれちゃったんだ。
それで、3対3でバトルしようって流れになって、リンリンを探してたんだ。
だけど、リンリンがどこに行ってるのかわからなくて困っていたところで、”ピエロ&ドラゴン”が目に入ったんだ。それでリンリンの代わりにジェスターを呼ぼうと思ったの」
「今、3対3のバトルって言ったか?言っておくが、俺の戦闘能力はゼロだぞ。魔法も使えない。バトルの戦力って言ったら、それこそ魔法が使えるジェスターの方が適任じゃないか?」
「魔法が使えないの!?じゃあ、キンは何で付いて来たの?」
「......お前が呼んだんだ」
そして、ジェスターに命令をされた。
「でも、大丈夫だ!だって、キンはジェスターに信頼された男なんだろ?友達の信用する男ならきっと信じられるさ。魔法もきっと使えるよ!」
ランランは走りながらも親指をグッと立てて、いけるよ、と合図してきた。
ジェスターからも、初対面のランランからも”信頼”という名のプレッシャーが掛けられていて息がつまりそうである。
いや、この場合はランランから信頼されているのはジェスターなんだろう。
ランランとは出会ってからまだ、1時間も経っていないのだ。
確かに、行けばなんとかなるかもしれない。
何ともなりそうになければ、帰ってしまえばいい。
俺の斜め前を走っていたランランが急ブレーキを掛けて静止する。
俺もそれに倣って足を止めた。
「さぁ、着いたぞ。ここが目的地だ」
ピエロ&ドラゴンから目的地までどれくらいの距離があるのかは知らなかったのだが、覚悟していたほどの長距離は走らずに済んだようである。
小学生がマラソン大会で走るくらいの距離であった。
そしてランランが言う目的地には、3階建てほどある大きな入り口を持った建物があった。
傷だらけの鎧を身に纏い、槍のような武器を抱えた戦闘力の高そうな一行が、今まさにその目の前の建物から出てきたところであった。
「ここって何だ...?」
「ここは、第5区の”冒険者ギルド”さ」
”冒険者ギルド”、それは異世界の物語では欠かせない大事な組織である。
一般の人たちから、モンスター討伐、薬草採取などの仕事の依頼が発注をされ、その仕事を冒険者たちへと繋いでいく仲介業者のようなものだ。
そして、冒険者と依頼主のどちらかか、両方から仲介手数料を受け取ることによって、ビジネスを成立させているのだ。
ジェスターの父親も冒険者であったように、この世界には冒険者がいるとは聞いていて、いつか見学をしてみたいな、とは思っていたが、思わぬタイミングで縁ができてしまった。
バトルの話も忘れて、少しワクワクしながら冒険者ギルドの建物の中へと足を踏み入れていく。
建物の入り口には、特に警備員などはいなくて、誰でも自由に出入りができるようになっていた。
そして、建物の中には先ほど見た”戦闘力の高そうな一行”と同じくらいか、それ以上に強そうなオーラを発している人々が何十人もいて活気が溢れていた。
エルフ、蜥蜴族、人間と、男女問わずに、いかにも冒険者といった見た目の人々がいた。
ぱっと見しただけでも目立つ大きな傷をつけた人たちも珍しくない。
戦いの勲章なのだろう。
冒険者たちは、掲示板に貼られている仕事の依頼表であろう紙を吟味していたり、ギルドの受付嬢と会話をしていたり、テーブルを囲んで何か作戦会議にも見えるような話し合いをしていたりとそれぞれの仕事を行なっていた。
さて、俺は冒険者ギルドに入って何をするのかと思っていると、ランランは一つのテーブルを囲んだ4人組の方へと向かっているところであった。
4人組と言う表現は正しくないのかもしれない。
一つのテーブルを挟んで、1対3に別れていて言い合いをしている、合計4人組という風に見えていた。
穏やかな雰囲気とはとても言えない。
近づくにつれて、徐々にその会話の内容が聞こえてきた。
「―――だから、お前が持っているその”クリムゾン・バイコーンの角”は、我ら兄妹が取ってきたものだと言っているであろうが!」
「はて、さっきからから言っていることの意味がわからねぇだよ。そんなに言うなら証拠を見せろと言っているんだよ、証拠を。理不尽な主張は通らないさ」
「理不尽なのはそっちなはずだ!」
言い合いをしている1人の方は、一見、人間のように見える”男”であったのだが、よくよく観察をしてみると腕に生えた動物の毛、そして何より人間には絶対にない部位である尻尾があった。
獣の血が混じった「獣人」である。
獣人だからといって、耳が生えているとは限らないのか。
服の上からでも、日々の鍛錬によって肉体が鍛え上げられていることがよくわかる、”筋骨隆々”と言う言葉が似合いそうな男であった。
「ロンロン!」
ランランは、その獣人の男に声をかけた。
彼こそがランランの兄である”ロンロン”であった。
「ランランか、待ちわびていたぞ」
「助っ人をつれてきたよ。彼はキン、ジェスターの男だ!」
ランランが嬉しそうに俺を紹介してくれたのだが、その紹介は色々とは大事な部分をしょりすぎていて語弊があり過ぎる。
俺はあらぬ誤解が生まれないようにと、俺はロンロンに対して必死になって訂正をする。
「ちょっと待て。ジェスターの店、ピエロ&ドラゴンで働いている男だ」
うむ。
突如現れた謎の男に対して、ロンロンは少しだけ怪訝そうに見てくる。
「ランランよ。リンリンは見つからなかったのか?」
「うん。どこにいるかわからなかったんだ」
「そうか。いや、しかしキン殿よ。わざわざ来てくれて申し訳なかった。よろしく頼むぞ」
ロンロンは、サッと自分の右手を前に差し出して握手を求めてきた。
俺は、反射的にその手を握ってします。
ロンロンは俺の目を真っ直ぐな瞳で見つめながら、グッと力を込めて俺の手を握ってきた。
握手をしただけでも、ロンロンが熱い男であることが伝わってきた。
「ところで、ランラン、それにロンロン。俺は”何となく”でここに来てしまったから、”何となく”しか事情がわかっていないんだ。一体全体、今はどういった状況なんだ」
「そうだったのであるか。事の発端は目の前にいる、こやつらである」
ロンロンは、先ほどまで揉めていた3人組の方を向く。
3人組は真ん中にパイプを咥えた小さな男、両サイドにはすらっと背が高いスーツを着た男女が、そして何よりもの特徴として、3人が3人共、お揃いの黒ハットの帽子を被っている。
如何にも、胡散臭そうな者たちである。
彼らがトラブルの原因であるらしい。
真ん中の小さな男が口を開いた。
「いやいや、ロンロン。トラブルの原因はお前たちだろうが。俺たちは平和な一日を過ごしていた小市民だぜ。わけのわからない言いがかりをつけてきて絡んでこないでくれや。俺らは忙しいんだ」
「何だと!」
ロンロンは怒りの表情を見せたのだが、これではまた同じやり取りの繰り返しになってしまうとでも思ったんだろう、怒りをこらえ、て俺へと説明を続けてくれる。
「我ら兄妹は、仕事の依頼を受けていた。”クリムゾン・バイコーン”と言う二本の赤い角を持った馬のような珍獣モンスターを狩って、角を取ってくる仕事である。
3人で何とかモンスターを見つけて、狩って、角を持って帰ってきたのが昨日のことである。
そして、今朝一番でギルドへと依頼の品を納品しようと、ランランと二人でギルドにやった来たのだが、そこでこやつらが絡んできたのだ。
我らが袋に入れていた”クリムゾン・バイコーンの角”のうちの一本が、いつの間にか、ただの真っ白な”バイコーンの角”に入れ替えられてしまっていた。
おそらくは、話しかけている隙に『転移系no.121
実際にこやつらは、その袋の中に”クリムゾン・バイコーンの角”の一本だけ持っている!」
ロンロンは小さな男に、後ろに立っている背の高い男が持つ袋を指差した。
「ロンロンよ。確かに俺らは”クリムゾン・バイコーンの角”を一本だけ持っている。だがな、これは、俺らが昨日たまたま、お前たちと同じタイミングで取ってきた角なんだぜ。もう一本は、戦っている最中に折れちまって使いもんにならなくなってしまったよ。だから、一本だけなんだ。
どうせ、お前らも一本しか取れなかったんだろう?
依頼が達成できなかったからって、人のもの奪おうだなんてタチが悪過ぎだぜ」
「そんな偶然ありえるか!サイズも完全に一緒な角をちょうど一本だけ持っていはずがない」
「そもそもお前たちの話には推測が多すぎ何だよ。
いいか、俺たち3人組は、昨日たまたまクリムゾン・バイコーンを狩猟した。そして、たまたま一本の角を破損して、一本しか角が手に入らなかった。たまたま、その角のサイズがお前らの角と同じであった。それだけの話だ。
それが嘘だって言うんなら、何か証拠でも見せな」
なるほど、ロンロンたちが揉めている理由が理解できた。
ロンロンが怒るのも最もだ。状況証拠から見て、黒ハット3人組が、ロンロンたちの手に入れたモンスターの部位を奪ったことは明らかである。
俺は隣にいるランランへと、ランランにだけ聞こえるようにこっそりと耳打ちをする。
「ここって冒険者ギルドだろ。この手のトラブルをギルドが解決してくれることはないのか?」
「ギルドは冒険者同士の揉め事には不干渉だ。中立の立場のままで絶対に動くことはないよ。勝手に何とかしろとの方針で、よほどのことが起きなければ、何もしてくれることはないさ」
なるほどね。
彼らが揉めている経緯はわかったのだが、俺が呼び出された理由がまだよくわからない。
そのことは、黒ハットの小さな男が説明をしてくれた。
「そこまで言うならばって俺たちが譲歩をしてあげたんだろう。3対3でバトルして、トラブルを解決しようぜって。頭数は揃ったみたいだな。そのキンって男が助っ人か。ギルドは見ねえ顔だが、楽しませてくれんのか?」
「あぁ、我が妹が連れてきた助っ人なんだから間違いがない。キンはきっと信頼できる男だ!」
ロンロンが俺の代わりに自信たっぷりに答えてくれた。
だから、何でみんな、そんなにすぐに俺のことを信頼しちゃうんだよ。
ランランといいロンロンといい、信頼のハードルが低過ぎやしないか?
断言できるのだが、俺はここに来てからまだ何もしてない。
黒ハットの小さな男は、満足そうな表情をして宣言をしてきた。
「いいだろう。賭けるものは俺たちが持っている”クリムゾン・バイコーンの角”一本だ。バトルと言ってもただのバトルじゃない。
バトルのような”ゲーム”さ。
「不死身の
こいつで勝負を決めようぜ!」
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