1-23 ゴブリンズ V【1】
”ゴブリンズ V(ファイブ)”
それが俺とヘルヘルが勝負をするギャンブルの名前である。
アタッシュケースに収められている10体のゴブリンの彫刻は、かなりリアルで精巧に作られていて、禍々しいオーラを発していた。
今にも動き出しそうな勢いである。
それぞれの彫刻が高さ30cmほどあり、彫刻にしてはかなりの大きさである。
ゴブリンの彫刻があるということは、この世界にはゴブリンがいるのだろうか?
きっといるんだろう。俺が想像もできないような姿のモンスター達がたくさん生息してそうである。
ゴブリンの彫刻は、縦方向に同じ種類のものが2体並び、それが横方向に5種類続いていた。
これで合計10体である。
果たしてこのゴブリン達をどんなギャンブルに使うんだろうか?
ゴブリン達の見た目のせいなのか、室内に不気味な空気が漂い始めている気がしてしまう。
「”ゴブリンズ V(ファイブ)”のルールを説明させていただきます。何か質問があれば、どうぞ勝手に口を挟んでください。
今は、1つのアタッシュケースを開けさせていただきましたが、もう1つの方のアタッシュケースにも、全く同じゴブリン達が入っております。
プレイヤーは、1人1つのアタッシュケースを使ってゲームをします」
そう言いながら、ヘルヘルは開けていなかった方のアタッシュケースをオープンした。
確かに中身は完全に一緒であり、10体のゴブリンが収められていた。
2つのタッシュケースの中身は同一のモノのようである。
「ご覧の通りに、ゴブリンは5種類あります。
左から、
Lv.1-スモールゴブリン、
Lv.2-ノーマルゴブリン、
Lv.3-ビッグゴブリン、
Lv.4-スペシャルゴブリン、
Lv.5-ゴールデンゴブリン
です。
プレイヤーは、それぞれのゴブリンを戦わせることによって勝敗を決めます。
基本的には、レベルが高いゴブリンの方が強いのです。
例えば、Lv.3-ビッグゴブリンとLv.2-ノーマルゴブリンが戦ったとしたら、Lv.3-ビッグゴブリンが勝利します。
ゴブリンのレベルが、ゴブリンの強さを表しているのです。
ただし、レベル通りの強さにならないケースがあります。
それは、Lv.1-スモールゴブリンとLv.5-ゴールデンゴブリンが戦った場合です。
この場合のみは、Lv.1-スモールゴブリンが勝利します。
Lv.1-スモールゴブリンは、最弱ながらも、最強のゴブリンにのみ勝利ができるのです」
基本的な強さは、
Lv.5 > Lv.4 > Lv.3 > Lv.2 > Lv.1
であり、例外として、
Lv.1 > Lv.5
となるということか。
ゴブリンの強さを説明された後に、ゴブリンの彫刻を改めて見てみると、それぞれのゴブリンの頭にローマ数字で、I、II、III、IV、Vとレベルが刻まれているのを確認することができた。
「それぞれのプレイヤーは、Lv.1からLv.5までの10体のゴブリンのから、5体を選びます。その際にゴブリンのレベルは被ってもいいです。
1、2、3、4、5と選んでもいいですし、3、4、4、5、5と選んでもいいですし、2、3、4、4、5と選んでも構いません。
どのゴブリンを選ぶのかは、個人の戦略次第なのです。
これはゲーム開始前に選んでしまいます。
相手がどのゴブリンを選んだのかを知ることはできません。
ゲーム開始後には、この5体を変更することはできません。
ゲーム開始後にアタッシュケースには5体のゴブリンが残っていて、アタッシュケースは二度と開かれることがありません」
ゲーム前にどのゴブリンを選ぶのかが重要になってくるのか。
そして、一度決めてしまったのなら二度と引き返すことができない。
しかし、ここまでの説明だけでは、ヘルヘルの策をどう実行すればいいのか、はっきりとはわからない。
路地裏で説明をされたヘルヘルの秘策を。
「ゴブリンを選んだ後で、ゲームを5回行います。
それぞれのゲームごとに、プレイヤーは1体のゴブリンをテーブルの上に出すのです。
ただし、このときは、ゴブリンの彫刻に布をかけておいて、まだ相手がどのゴブリンを出しているのかはわからないのです。
布をとった時点で、先ほどのゴブリンのレベル毎の強さによって、勝敗が決まります。
もし、同じレベルのゴブリンを出していたとしたら、勝敗はつかずに引き分けになるのです」
5回の勝負を行って、5体のゴブリンを出す。
選んだゴブリンを全て使い切るのである。
最後の第5ターンでは、ラスト1個の余ったゴブリンを場にだす。
ここまでのルール説明を聞いて、ようやくゲームの全容、そしてヘルヘルの策の正体が見えてきた。
「続いて勝敗条件です。
5回の勝負で、例えば3勝2敗と勝ち越したとしても、そのプレイヤーの勝利になるわけではないのです。
ギャンブルの勝敗は、第5ターン終了時に持っているチップによって決まります。
まずは第1ターン開始時に、プレイヤーはそれぞれが10枚ずつチップを所持しています。
これを第1ターンから第5ターンまで、それぞれのターン毎に賭けていきます。
チップを何枚賭けるのかの決定権は、賭ける枚数は片方のプレイヤーが持っています。
決定権は、先攻と後攻によって決まります。
それぞれのターン毎に、最大5枚までチップを賭けることができます。
まず、第1ターンでは、先攻のプレイヤーがチップを賭ける枚数を決めます。
ちなみに、チップがゲームの途中で0枚になってしまったら、ゲーム続行不可能とみなしてゲーム終了です。
0枚になったプレイヤーの即負けとなるのです。
つまりは、最悪の場合で、第1ターンで5枚、第2ターンで5枚負けてしまった場合だと持ちチップが0枚になって、第2ターンが終わった時点でゲーム終了している可能性があるのです。
第2ターンでは後攻のプレイヤーが、第3ターンでは先攻のプレイヤーと、交互にチップを賭ける枚数を決めるプレイヤーが交代します。
先攻プレイヤーは1、3、後攻プレイヤーは2、4ターンでチップを賭ける枚数の決定権があるのです。
そして、最後の第5ターンでは、そのときにチップ数で負けているプレイヤーが決定権を持ちます。
ただし、チップ数が同じだった場合は、先攻のプレイヤーに権利が渡ります。
そういった意味では、少しだけ先攻が有利ですね」
ということは、自分が勝てる自信があって、かつチップの決定権があるターンに大きく賭けることができれば、一気に勝利が近づくということだ。
一回の戦いの中で、一気にチップの枚数を増やすことができる。
逆に負けるかもと思ったら、チップを小さく賭けた方がいい。
「最後に、特殊ルールの説明です。
このままゲームをしてしまうと、Lv.2-ノーマルゴブリンとLv.3-ビッグゴブリンには、存在価値がなく誰も選びません。
プレイヤーが選ぶ手は、1、1、4、5、5か、1、4、4、5、5か、1、1、4、4、5になってしまうことが多いです。
これでは、ゲームの面白さが半減です。
しかし、Lv.2-ノーマルゴブリンとLv.3-ビッグゴブリンにも立派な選ぶ価値はあります。
それぞれのゴブリンを使って勝つことによって、追加のボーナスチップを獲得することができます。
Lv.3-ビッグゴブリンを使って勝利することができれば、賭けられているチップに追加して2枚のチップを奪うことができます。
例えば、場に3枚のチップが賭けられているとすれば、奪えるチップの枚数は3+2で、5枚になります。
続いて、Lv.2-ノーマルゴブリンを使って勝利することができれば、賭けられているチップの枚数の、なんと2倍の枚数のチップを奪うことができるのです。
例えば、場に3枚のチップが賭けられているとすれば、奪えるチップの枚数は3×2で、6枚になります。
実は先ほどの、最悪の場合で、「第2ターンが終わった時点でゲーム終了している可能性がある」というのは嘘のルール説明です。
第1ターンに、自分がLv.2-ノーマルゴブリンを出して、場に5枚のチップが賭けられていた場合は、相手から10枚のチップを奪い取ることができて、その時点で勝利なのです。
本当に最悪のケースだと、最短で第1ターンで全てが終了している可能性があります。
もちろん、「Lv.2-ノーマルゴブリン」と「Lv.3-ビッグゴブリン」を使っても非常に勝ちにくいです。
「Lv.3-ビッグゴブリン」では、相手が「Lv.2-ノーマルゴブリン」と「Lv.1-スモールゴブリン」を出してきた場合にしか勝利することができませんし、ましてや、「Lv.2-ノーマルゴブリン」を使った場合には、相手プレイヤーが「Lv.1-スモールゴブリン」を出したときにしか勝つことができません。
ハイリスクハイリターンのゴブリンだと思っていただいて結構です」
なるほど、Lv.2-ノーマルゴブリンとLv.3-ビッグゴブリンは使い方によっては、かなり強力な力を発揮することがわかった。
ただし、負ける可能性も高い諸刃の剣である。
その力を発揮する場面が来るかどうかはわからないけど。
「それでは、先攻と後攻を決めるために”模擬ゲーム”をしてみましょうか」
俺たちは場を整えて、ゲームをできるような環境を整備する。
ヘルヘルと俺は、テーブルを挟んで向かい合ってその場に立っていた。
ジェスターは俺の右斜め後ろあたりに立って、ゲームを観戦している。
俺がゲームプレイ中に何をしているのかは見えるけど、ヘルヘルのは見えないような位置である。
それぞれの後ろにあるテーブルの上には、ゴブリンが収められているアタッシュケースが置いてある。
「ゲームにはこの袋を使ってください」
俺はヘルヘルから真っ赤な袋を渡される。
「まず、この赤い袋の中に、ゴブリンを5体取り出して入れます。その後で、アタッシュケースには鍵をして開けられなくしますので注意してください。
5体以上のゴブリンを取り出したり、5体以下のゴブリンを取り出した場合は、その時点で反則負けなのです。
今回は、模擬ゲームなので1体のゴブリンだけを取り出して、袋の中に入れるのです。
そのゴブリンを使って勝敗を決めます」
俺は後ろを向いて、どれにしようかと一瞬悩み、とりあえずは最強の「Lv.5-ゴールデンゴブリン」を取り出して、袋の中に入れた。
選び終わった後では、アタッシュケースの蓋をしっかりと閉める。
「続いて、この赤い布を使います。この布に包んだ状態で、袋からゴブリンを1体取り出してテーブルの上にのせるのです。テーブルの上に乗せた時点で、それ以後ゴブリンを交換することは禁止です」
俺は指示通りに、ゴブリンを布に包んで、テーブルの上に立たせた。
ヘルヘルも布に包まれた状態のゴブリンをテーブルの上に乗せる。
それぞれのゴブリンの彫刻は、見た目や形が違ったのだが、布に包まれた状態では相手がどのゴブリンを選んだのかの種類の判別はできなかった。
「ここでチップを賭けるのですが、今回は関係ないのです」
ゴブリンの変更ができない状態で、チップの枚数が決まる。
「ちなみに、念の為に言っておくのですが、アタッシュケースも、赤い袋も布も、全てにスカイカイコの糸を編み込んだ素材を使っているので透視魔法を使うことはできません」
透視魔法なんて代物は、使いたくても使えないので、俺にとっては関係がないルールである。
いや、ヘルヘルも不正ができないと言った意味では、真面目にゲームをするんだとしたらありがたいルールかもしれない。
「それでは、ゴブリン、オープン」
ヘルヘルの掛け声と共に、お互いの布を同時にめくった。テーブルの上に乗ったゴブリンの姿が明らかになる。
俺側のテーブルの上には、俺が選んだ「Lv.5-ゴールデンゴブリン」が、ヘルヘル側のテーブルの上には、「Lv.1-スモールゴブリン」が現れた。
キン : Lv.5 < Lv.1 : ヘルヘル
この場合は、ヘルヘルの勝利である。
「ククク。最強のゴブリンを選びましたか。そんな気がしてたんですよね。幸先がいいですねぇ。それでは私が先攻になります」
俺は後攻になったことで、第2ターンと第4ターンのチップ決定権を手に入れた。
全てのゲームの説明を聞き、俺はゲームの全容を理解した。
ジェスターもまた、”ゴブリンズ V(ファイブ)”がどんなゲームかを掴んだようであった。
そして、ヘルヘルの策の正体の予測も正しかったのだと確認した。
なるほどね。これならばヘルヘルの必勝だね。
しかし、実は本当に恐ろしかったのはここからであった。
ルール説明は実はまだ終わっていなかったのだ。
この後で、俺のことを最も傷つけることになる”残酷なルール”が残されていた。
このルールによって、俺は八百長で勝敗が決まった戦いなのに、命を賭けたギャンブルをする羽目になってしまう。
ヘルヘルが、正真正銘最後のルールの説明を開始する。
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