異世界カジノの経営日記
王都王
第1章 はじめてのカジノ経営
プロローグ
1-1 金に踊らされた人生にさよなら
「金」に縛られ続けた人生だった。
千葉県の船橋市にあった実家はごくごく平凡なものであった。
父親は誰もが名前を聞いたことがあるような大企業に勤めていた。
家の収入は悪くはなかったはずである。
ただし、兄妹がなんと4人もいたせいで家計に余裕はなく、万年金欠、何かあるたびに両親の二言目の話題は「金」の話であった。
やれ学費だの、生活費だの、食費だの「金」のことばかり口にしていた。
父親も母親も、本当に四六時中「金」のことばかり考えていたのだろう。
家族そろって旅行に行った記憶は一度しかない。
両親に対して決して不平不満があったわけではない。
苦しい苦しいと言いながらも、大学卒業まできちんと育ててくれたことには心の底から感謝をして尊敬をしている。
立派な親だったんだと本気で思っている。
それでも、「金」のことばかりを考えている”かっこ悪い大人”にはなりたくないと願ってしまった。
大学生活も終盤に差し掛かり、俺はふとした好奇心で手を出した投資で、そこそこの「金」を手にすることに成功をする。
ニュースアプリか何かで「これからは副業の時代」とかなんとか、怪しい特集記事を読んだのがきっかけだったと思う。
どうやら自分には投資の才能というものがあったらしい。
子供の頃から算数が得意で計算速度が早かったことにも何か関係があったのかもしれない。
バイトで稼いだ小さな「金」で、しばらく投資を繰り返しているうちに、投資の”コツ”のような何かを掴み、ロールプレイングゲームのように所持金が増えていった。
気づけば大学の勉強をそこそこにして金儲けに熱中をしていった。
テレビや雑誌にでてくるような投資で大成功して億単位の「金」を稼ぐ”ネオヒルズ族”ほどの収入はなかったが、それでも日本の平均年収は大きく超えるような「金」を手にしていた。
二十歳そこそこの若造にとっては出来過ぎなぐらいに出来過ぎていた。
車も買った、酒も飲んだ、女も買った。
一人暮らしで住んでいたマンションの家賃は二十万円を超えていたと思う。
一財産築いたことで、自分の”才能”に自惚れて、自分は他の人とは違う”特別な人間”であり、バラ色の人生が待っていると信じこんでしまったいた。
そして、自分は両親とは違って「金」のことを考えなくても生きていけるようになると、小さく思った。
通帳に刻まれた数字の膨らみを見て自信をつけてきたところで、何かもっと大きなことをしてみたいと思い始める。
数字を増やすだけのゲームにも少し飽きを感じ始めていたんだと思う。
そんなときに、友達の知り合いという人物から投資話を持ちかけられる。
何でも新たに立ち上げる個人向け通販サイトに出資してくれる人を探しているらしい。
最初はうさんくらいと思っていたのだが、ビジネスプランだの会社のミッションだのを熱心に語る彼の言葉を何度も聞いているうちに何だかいけそうな気がしてきてしまう。
今考えてみるとバカな話だったが、彼と直接目と目を合わして話したときに生じた魔力にまんまとやられてしまったのだ。
俺はその話を信じきっていた。
結局、その会社の取締役として名を連ねて500万円の「金」をつぎ込むことになる。
俺は、彼と一緒に何度も徹夜をしてサイトを作り続けた。
将来の自分たちが作り上げるであろう未来のことを熱く語ったこともある。
もし、万が一上場するような企業になったとしたら、俺はいくらの「金」を手にするんだろうとノートで計算してほくそ笑んでいた。
しかし、いざ事業を始めると、俺は現実の厳しさにすぐに気付かされる。
ウェブ関連の知識の乏しかったことも原因で、思いのほかに多い雑務や起き続けるトラブルに苦戦をし本業に集中することができない。
ユーザーの数も全く伸びずに、赤字が続き、ビジネスプランがハリボテだったと確信したところで彼が消えてしまった。
結局は、未知なることへの挑戦はただただ「金」を浪費する結果で終わった。
それでも、そこまでショックを受けていない自分がいた。
確かに「金」と時間は失ったが経験という財産は手に入れた。
それに、失った「金」は本業の投資で取り戻せばいい。
人生はまだ長い、ゼロになったと思ってやり直せばいい。
そんな風に思ったところで悪夢がやってきた。
世界規模の金融危機が起こってしまう。
それなりの価格の下落なら乗り切れると思っていたのだが、歴史にその名が刻まれるような規模の金融危機では、規模も速度も今ままでの経験とは桁違いであった。
俺が過去に手にしたと思っていた投資の”コツ”とやらも一切通用しない。
荒波に完全に飲まれて、教科書に載るような投資失敗談を経験してしまうことになる。
住んでいた部屋の家賃が四万七千円まで落ちたところで、俺はついに敗北を認めた。
投資の本質はギャンブルであり、俺はたまたまいい目をだして調子に乗ったバカな若者であった。
才能なんてなかったんだ。
多少の「金」を稼いだところで俺の心の「芯」の部分は何も変わっていなかったのだ。
このときばかりは、「経験という財産を手に入れた」と強がることはできなかった。
ある夜、布団の中に入って目を閉じたところでふと思う。
もうすでに、”子供”とは言えない年齢である。
気付けば、俺は両親のように四六時中「金」のことばかりを考えている大人になっていた。
しかも、両親は俺たち兄妹を育てるために愛を持って「金」のことを考えていたのに、俺の考える「金」の裏には俺しかいない。
俺のために「金」を稼ぎ、俺のために「金」を使う。
両親なんかと比べ物にならないくらいに汚く醜悪な大人になってしまっていた。
最高に”かっこ悪い大人”だった。
なんて「金」に縛られて、踊らされた人生なんだろう。
そして、薄れゆく意識の中で考えてしまう。
もしも人生をやり直すことができるのなら、次は「金」ではない何かのために生きて見たいなと。
投資家とか金貸しとか、「金」に関わる仕事なんて絶対にしたくはない。
剣と魔法のファンタジー世界でチート能力を持って、綺麗な嫁さんと一緒に田舎でのんびり畑を耕す人生とかね。
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