食物の生命編集について

@akira404

食物の生命編集について

 この文章は学術的研究に基づかない個人の意見であり、SFとかの考察に使う可能性があるくらいで、実用性はあまりない。


 この話では主に食物として生産される植物や動物について、交配による品種改良やゲノム編集などによる生命の改変をどう扱うのが合理的かを考える。あと技術の紹介みたいなこともする。倫理については扱わない。コストについてもあまり考えない。技術的にはそこそこ近い将来に多分可能になるんじゃないかな、くらいのレベルで考える。生き物として育てて食べることを前提として、培養肉や化学合成などは(発想は好きだし将来に期待しているが)扱わない。

 不完全な生産過程は不完全な結果を招くという思想のもと、基本的に生命の編集と管理については肯定的な立場を取る。

 基本的に現在の農作物や家畜は歴史の中で品種改良の影響下にある。生命の改変など許せないという人は狩猟採集(野草やジビエ、遊漁など)をどうぞ。ただし勝手にやると権利関係で怒られることもあるので気を付けて。


・生産過程ではなく結果

 塩化ナトリウムは、天日干しも岩塩由来も化学合成も、同じ塩化ナトリウムだ。生産過程は関係ない。ただし生産過程によって不純物が混ざる場合があり、これは結果の一部として気を付ける必要がある。

 食物についても同様のことが言える。ゲノムに関しては、生成方法が自然交配かゲノム編集によるものかに関わらず、生成物であるゲノムそのものを見るべきだと考える。農作物としては、ゲノムではなく収穫物が結果になる。食物としての結果は複数の観点から考えられ、味や香りなどの感覚的なもの、腹持ちなどの消化に関係する身体への影響、消化された後に吸収される物質が身体に与える影響などがある。

 消化された後の物質とはどういう事かというと、例えばコラーゲンを摂取しても消化過程でアミノ酸などに分解されるので、最初から分解されたアミノ酸などを摂取しても同じではないかという話を指している。食物繊維などは直接消化されないが、食物繊維を腸内細菌が代謝し、細菌の排出物を身体が吸収するというルートをたどる可能性もあり、これも考慮する必要がある。


・安全が確認されたゲノムのみを採用すべき

 自然交配にしろゲノム編集にしろ、ゲノムの変化は常に危険を孕む。ナタネやキャッサバ(タピオカの原材料)、カボチャなどは品種改良によって弱毒化されたものがある。下手なゲノムの変化は先祖返りによる有毒化の恐れがあるし、そうでなくても新たに毒性を獲得する可能性もある。安全が確認されたゲノムのみを採用すべきだ。生産過程ではなく結果を見るべきという話とも関連するが、自然交配だから大丈夫とかは無い。

 ゲノムが同じであれば免疫系統も同じであり、臓器などの移植も拒絶反応が出ないという利点もある。コスト的にそれをやる価値があるかどうかは別として。


・安全が確認された生産過程を遵守すべき

 ゲノムが安全でも、生産過程によって有毒化する場合もある。生体濃縮が代表的な例で、土壌が汚染された区域の植物は有毒化するし、海などの管理されていない環境では貝毒が出たり出なかったりする。他にも、アカシア(キリンとかが食べる)は自分が食べられたり周囲に食べられたアカシアがあると、その時点から有毒化する。安全が確認された生産過程を遵守すべきだ。

 肥料や飼料、薬物についても、安全が確認された物と量と手法を守ることが求められる。肥料や飼料は天然ものに顕著だが寄生虫や病原菌が紛れ込んだりすると大変なので管理にも注意したい。

 病気については完全な閉鎖環境で育てられない限りは常に危険があり、それに対抗するための薬も必要になる。植物工場などは虫が付きやすい培地から隔離され病気になりにくい。牛舎などでも定期的な掃除や消毒に加え、入る前に靴を消毒したりしている。


・不稔化(交配によって子孫を作れないようにする)すべき

 勝手な交配が起こらないようにすれば、ゲノムを一定に保つことができる。また、誤って野生環境に放ってしまっても殖えないのでその点でも安全だ。

 不稔化すると、交配以外の手段によって殖やす必要がある。

 植物を殖やすのはよく行われている。挿し木などの栄養繁殖だ。バナナやミカンなどは種がほぼできないように品種改良され、栄養繁殖で殖えている。ゲノムを保った繁殖方法としては他に自家受粉があるが、交雑させずに自家受粉の能力のみ残すことが難しい以外に、栄養繁殖に比べて種子が遠くへ運ばれやすく、野生環境で勝手に殖えてしまうリスクもあるので、自家受粉に頼るのはやめた方がいいだろう。

 動物の交配は単に不妊手術をすれば済むので、ゲノム編集で頑張る必要はない。繁殖については、人工子宮の普及までは、人工授精と代理母出産を利用することになるだろう。ホルスタインを代理母にして黒毛和牛を産んでいるのが代表例か。黒毛和牛の受精卵をどう作っているのかとか、黒毛和牛に出産能力は残っているのかなどは知らないが。不稔化した食用の種類と代理出産用の種類を別に用意することになる。子孫を残さない食用動物としてはニジマス類の三倍体が挙げられる。生殖機能に栄養が割かれない分よく肥えるらしい。こちらは交配により不稔化個体を作出する手法が確立している。交配で産まれているが、人工授精だとしてもニジマス類は卵生なので代理母は必要ない。

 ちなみに人間も進化の過程で難産化してきた動物なので、人工子宮や代理出産はそれほど他人事という話でもない。


・自然界で生存できない種について

 これは倫理寄りの話だし繰り返しになるが、自然界で生存できない品種はむしろ、野生環境を汚染するリスクが無いので優れた性質だといえる。自然界で生存できない品種としては、不稔化されたものの他に、蚕などの生存自体に人手が必要なものが挙げられる。田園生態系など、意図せず人間の活動が前提になってしまったものもあるが。また、逆に病害や天候変化などに強くなるような品種改良も行われている。


・在来種や多様性はあった方がいい

 在来種などはゲノム編集の参考資料にもなるので保存する方がいい。農作物についても、個々のゲノムの安全性を確保した上で、管理された多様性を持つ方が、病害などで全滅するリスクを減らせる。ただし、そういった問題が起きていない場合には、状況に最適化されていない品種も育てていることになるので、多様性ばかりを追い求めると収益が落ちることになる。最適化と多様性のバランスが大事になるだろう。



 以下は実際に行われてたり発展の可能性があるけどあんまり注目されてる感がない手法の紹介。


・外科的手術について

 外科的手術は比較的容易だからか一般的に行われている。植物では剪定と呼ばれているものが相当するだろう。動物では去勢手術の他に、鶏が喧嘩などで傷つかないようにクチバシや爪を切ったり、飛ばないように風切り羽を切ったりする。それで健康に影響が出ないかは確認する必要があるが、去勢や爪切りはペットでもするし大丈夫だろう。


・キメラについて

 キメラはゲノム編集ではなく後天的に生物を組み合わせたものだ。

 植物では普通にキメラの作成が行われている。接ぎ木と呼ばれ、タフな根や幹を持つ品種に、上質な実を付ける品種をくっつける。同じ幹にいくつも接ぎ木をして、一つの木で色々な品種の実をつけることもできる。

 動物のキメラは植物より難しいようで、人間の臓器移植などの例はあるが、免疫によって拒絶反応が出ることもある。


・人工物の取り込みについて

 生物を組み合わせるだけでなく、人工的な構造物を取り込むこともある。

 植物は支柱を放っておいたら取り込んでしまうことはある。人工物ではないが、マタタビは実に昆虫が寄生することで形状や成分が変化し、漢方の効用や猫への効果が高くなる。

 動物では馬の蹄鉄や人間の豊胸手術やペースメーカーなどがある。それ以外にも、型に植えた自分の軟骨細胞を腕に埋め込んで育て、それを耳に移植することで、拒絶反応を回避しながら耳の再建手術をした例もある。アコヤ貝などでは小さな丸い核を貝に入れて真珠を形成させる。



 以上です。長くなったな……。

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