クライマー

akihu

第1話旅立ち1


空が青い。ゆらゆらと雲が浮かんでいる。

遠くには水平線が見える。

ここは屋久島、黒味岳山頂。

僕は一つの山の山頂に上り詰めた。

そしてひとりその景色を眺めていた。




「打ち込める何かが欲しい。このままじゃダメな気がする。」

春山影一。19歳。影一の人生は何も方向性が定まらないままに惰性で生きていた。

とりあえず地元の工業高校を出て近くの会社に勤めたのはいいがその日々は退屈であった。

毎日同じ仕事の繰り返し。定時に出社して雑用のようなことをやらされて定時に帰る日々で友達はおらず趣味と言えるようなものは何もない。休日も家にこもりがち。ただ毎日を過ごすだけで時間を浪費していく。

一年そんな日々をただ過ごした。

だが若い影一は危機感を感じていた。

「こんな人生を過ごして何になるんだろうか?5年先の自分が何をしてるか簡単に想像がついてしまう。」

こんな日々の延長にはこんな日々しかないのは分かり切っていた。

そんな影一はなにか変えたいでも行動できない自分に苛立ちあるとき思い立った。

「そうだ旅に出よう。」

影一の会社は愛知県にある大手自動車部品メーカーでGW,盆、年末年始に長期連休がある。

GWの長期連休を利用して旅に出ることにした。

自動車免許は高校時代にとっていたので親の車を借りて愛知県から東北までドライブすることにした。


準備と言えるものはほとんど何もなかった。

一人旅など初めてだったし9日間にもなる日数を緻密にプランニングするのは疲れるし予定どうりに行くとも思えないのであまり下調べはせず行き当たりばったりの旅でもいいと思った。

なので購入したものは全日本道路地図一冊のみ。

キャンプが好きだった父親のシュラフを車に積みすべて車中泊にすることにした。


1日目はとにかく遠くに行きたかったので休憩もろくにとらず朝から下道を走り続け愛知県から東京都八王子市の道の駅まで行って車中泊した。

途中静岡のガソリンスタンドで店員のお兄さんに旅ですかと尋ねられたのが印象的だった。

「そうか旅に出たんだな。」

出発の少し前から旅のことをイメージしてきたが今一つ現実感にかけていたがこの時初めて知らない土地を旅している実感を得た。


2日目も移動に専念して栃木県の那須塩原市の千本松温泉で汗を流し近くの道の駅で車中泊した。


そんな感じで1日1日距離を伸ばし青森の大間町の本州最北端の碑まで行き旅は折り返し地点となる。

長いドライブの間影一は考えた。

常に新しい景色を見続ける毎日。

カーブを曲がった先にはまだ見たことのない景色が広がっていた。

東北の遅咲きの桜やどこまでも広がる海、人々の疲れを癒してきた温泉街...。

影一は考えざるを得なかった。

いかに普段なにも考えずに生きているかを。

そして気づいてしまう。

「このままじゃだめだ。だめなんだ。」

そして本州最北端の地で誓った。

「変わりたい。いや変わる。」




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る