舟待人

 小舟でかまわなかった

 それで大事なひとは みんな

 いっしょに行けたのに


 夢は狂気のとなりにあった

 僕はしずかに ほんとうにしずかに

 ひとつずつ失くしていった


 ここには扉がないのだ

 夜空は満ち足りた 星だ

 もうつかめないと思うとさびしい


 大きなガラクタが腐れていく

 船出を待つことなく 喜劇のように

 僕はそれを見ることしか


 見ることしかできなかった

 黒い服の使者が通りすぎた 僕は祈る

 まだこんなに若いのだから


 いいじゃないか若いのだから

 殺される準備はできているし 歌は

 まだまだつくり足りていないのだ


 それでも もうお別れか

 せめて運命という札を貼らないでくれ

 さびしいときはそっと泣いてくれ


 僕はそばにいる

 かもしれないし いないかもしれないが

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