1-11話 撃墜

     ◆


 ダイダラが見ている前で、帝国軍と反乱軍の衝突はいよいよ熱を帯びてきた。

 艦船の数ではどうしても帝国軍に有利だが、どうやら反乱軍の機動戦闘艇は相当な腕のパイロットが多い。帝国軍の機動戦闘艇がみるみる減っていった。

 それにはもちろん、三姉妹の活躍もある。実際、アイ、マイ、ミーの三機は十機を超える数を撃墜している。

『なんだか手応えがないなぁ、そう思わない?』

『無駄口、禁止。そっちに行ったから、よく狙って』

『当たった! これで私がトップね!』

『競争じゃないっての! 戦争よ、戦争!』

 三姉妹の機体はすぐにマークされるようになった。それもそうだ、あまりに人間離れした機動を繰り返すし、狙いも正確、どう見てもエースパイロットだ。それが三機、巧妙に連携してくる。注意しない方がどうかしている。 

 もしこの戦場に三姉妹しかいなかったら、反乱軍はもっと苦しいだろうな、とダイダラは分析していた。

 帝国軍は三姉妹を押さえ込みたいところだが、それをやっていると反乱軍の機動戦闘艇が自由になってしまう。戦闘艦や駆逐艦が激しい砲撃戦をしているが、それらの艦はむしろ、砲撃で沈むよりも機動戦闘艇の奇襲にこそ弱い。

 防御フィールドを中和されたり、あるいは要所をピンポイントで狙ってくるのは、案外、うるさいものだ。

 ダイダラはゴーグルをかぶった頭を四方に激しく振り、全体像を把握しようとする。

 帝国軍の増援が来る気配、亜空間航法からの離脱の兆候がまた見え始めた。一方の反乱軍は、膠着状態に持ち込みつつあるが、当然、勝ち目はない。

 どこかで引かなくてはいけない。

「へい、ファンクル、聞こえているか?」

 宇宙戦艦ファンクルは砲撃戦に耐えつつ、じりじりと帝国軍の包囲を抜けつつある。他の艦船も、どうにか逃れようと必死だ。

『そちらの増援には助かっている』ノイズ混じりに返事が来る。『すごいパイロットだ』

「肝いりでね。亜空間航法の計算は順調か?」

『いや、計算中だ』

 それはまたのんびりしているな。

「手伝った方がいいか? とにかく急いだ方がいいと思うが?」

『指揮系統が混乱している。今、艦長が参謀と話している』

「おいおい、話し合いの段階じゃない」

 ダンダラが姿勢を変えた時、悲鳴が響いた。

 三姉妹の一人、マイだとダイダラにはすぐに分かった。

「マイ! どうした! マイ!」

 視線を彷徨わせる。いくつかの爆発の余韻が見えた。

 まさか……、あの中の、一つか?

「アイ、ミー、どうなった! 報告しろ!」

『と、父さん、マイは……』

 ミーが動揺した声で通信を送るのを、アイが素早く制した。

『お父さん、今は戦いに集中します。ミー! しっかりなさい』

 ダイダラは思わずシートに落ちるように座り込んでいた。

 マイが、死んだ? 撃墜されたのか?

 通信によるタイムラグが生死を分ける、という理屈より先に、三姉妹の強い主張により、彼女たちの情報がインストールされている端末は、それぞれの機体に組み込まれている。

 彼女たちが言うには、自分の体が欲しい、自分だけの体が欲しい、ということだったが、それを受け入れたことを、ダイダラは激しく後悔した。

 のろのろとゴーグルを外し、操縦室の端末を操作する。フィッシャーマンに搭載されている情報記録装置の履歴を確認。

 もしかしたらギリギリで、マイは自分の意識情報を転送したかもしれない。

 だが、それはダイダラの願望だった。記録装置には、マイの痕跡はなかった。

 死んだのか。

『どうした? おい? 宇宙海賊?』

 通信機から、宇宙戦艦の通信士からの声が流れてくるのを聞きながら、ダイダラは目をつむったまま、答えられなかった。


(続く)

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