第二章 部活動始動! 斉藤太《さいとうふとし》の鬼畜な指導法
① FPSというジャンル
「さて、それではいよいよ、本格的な部活動を開始しようと思うのだが、その前に少し話しておきたいことがある」
全員のログインが終わった後のことだ。長机を二つくっつけて島にして、生徒達が内側に向かってPCに相対している。部屋奥に立つ俺から見て、右手手前から灯里、その奥に美月、左手に琢磨、その奥に悠珠となっている。自然とこうなったわけだが、下級生が入り口側にいるということで、上座下座とか日本文化の罪深さを連想するのは俺だけだろうか。
「ゲーム部は部活動であって、同好会じゃない。部活動である以上は、技術の向上はもちろんだが、何よりも楽しみながら、そして勝ちにいくという姿勢が大切だ。よって俺は、お前達に勝てるゲームプレイを教えていく。そのための練習もな」
俺は最初に方針を説明した。団体において目的の共有は大切なことだ。
「まず最初に、STORMというサイトに会員登録をしてもらう。今からそのURLを送るから、クリックしてみてくれ」
ピョーンという効果音と共に、各々のPCにポップアップウィンドウが表示された。
「わ、なんか出た」
「そこに表示されたURLをクリックすると、STORMのページにジャンプするようになっている。そこで会員登録をする。一応言っておくが安易なパスワードには絶対にするなよ」
「はぁーい」
やる気のない返事の主は美月だ。
そしてその向かい側で素晴らしい挙手をしているのが悠珠。守ってあげたい。
「先生、作業内容はわかりました。ところでこのサイトはどんな目的のサイトなのでしょうか」
俺としたことがうっかりしていた。目的を教えずに個人情報を入力させるなんて、振り込め詐欺よりたちが悪い。
「すまない、このSTORMというサイトは、ゲーム販売・配信の世界最大手サイトなんだ。ちょっとした無料ゲームから大作ゲームまで揃ってる。ほら、ダイバスもあるぞ。今回、競技ゲームの基本的な技術の向上のためにプレイしたいゲームが、このサイトで配信されている、というわけだ」
「なるほど。こういう販売方法もあるのか……」
顎を触りながら感心しているのは琢磨だった。
「あの、先生……」
灯里が申し訳なさそうに挙手をしていた。角度的に上目遣いになり、それがイイ雰囲気を演出している。細かいことはあえて述べない。
「わたし、アカウント持ってるんですけど……新しく作った方が、いいですか?」
「ああ、そうだな、そうしてくれ。これはあくまで部活動で行うものだから、スコアを無視したプレイをすることもあるし、それが個人のアカウントに反映されると困るだろう。あとは競技ゲーム甲子園でのアカウントの管理方法についてまだ情報がないからな。そういう意味で、部活専用のアカウントを持っていた方がいいと思う」
「わかりました……すみません」
灯里は赤面してモニターに向かっている。いちいち謝る必要はないんだぞ、と言いたかったが、注目されることは嫌がるだろうと思われたので、それは別の機会にしておいた。
そうして皆のアカウント登録が完了し、STORMを利用できるようになった。そのアカウントへ、俺の部活用アカウントよりプレゼントを送る。
「何か、来ましたね」
「それが本日から行いたいゲームのダウンロードリンクだ。代金は部費から支払ってあるから、クリックするだけで自動的にインストールまでされるようになっている。どうだ、できたか?」
皆の返事を確認する。ココらへんまではさすがに問題なさそうだ。
「では、インストール完了までにそれなりに時間がかかるから、ここで今日プレイするゲームの説明をしておこうと思う」
そういって俺は立ち上がり、「それ」を壁に貼り付けた。わざわざ事前に印刷しておいたA3ポスターには、暗闇を見つめる現代戦士と破壊された都市、そして多数の血痕が描かれている。
「『Scene of Commanders、通称SoC』、ジャンルはFPSだ」
おおお、と、ちょっとだけ教室が沸き立った。そのビジュアルからいかにも本格的ゲームの香りがするので、いよいよ部活らしくなってきたという喜びだろう。
「太センセ、FPSって何?」
説明するより早く美月が反応する。なかなかの応答速度だ。マウスでいうと感度がいい、だ。深い意味はない。
「FPSはファーストパーソン・シューターの略で、一人称視点型シューティングゲ
ーム、まぁ簡単に言うと、まるで自分が見ているかのような景色が映る画面を操作して、敵を銃で撃ち倒していくゲームだ」
「それはアクションゲームとは違うんですか?」
間髪を容れずに聞いてきたのは琢磨だ。彼はダイバスを始めとしたアクションゲームをプレイするようなので、その違いが気になるようだった。FPSも大局的に言うならアクションなので、その感性は間違っていない。
「まぁ、見てもらえばわかる。ただ先に言っておくと、最大の違いは、自分のキャラクターが画面に映っていない、ってことなんだ」
そうこうしているうちにインストールが完了したらしい。
「FPSは競技ゲームの定番でな、今日まで大会で採用され続けてきた実績のあるゲームジャンルだから、競技ゲーム甲子園でも採用される可能性が極めて高い。というわけで、今回はレクチャー編だな」
手早く説明し、まずは四人で、二対二をやってみることにした。
「わ、本当だ! なにこれ、すご」
「きれいだなー……まるで現実みたいだ」
この『SoC』は数あるFPSの中でもビジュアルに拘った作品で、画質はもちろんのこと、現実的な描写が話題となっている。町中のマップなんて現実と勘違いしてしまう程だ。
「まず操作について説明する。キャラクター、つまり自分を動かすのは、主に左手で行う。ポジションはキーボードのここ。AキーとDキーにそれぞれ薬指と人差し指を置いて左右移動、そして中指でWキーの前進とSキーの後退ができる」
これだけ作り込まれたマップだと、散策しているだけでも楽しい。生徒達も俺が説明している途中からキャラクターを動かしている。好奇心を持ってくれている証拠だろう。これが何より嬉しい。
「そして右手はマウスを持つ。マウスを動かすと自分の向いている方角、つまり画面に映し出される景色を変えられる。まずはこれを使って自由にマップを歩いてみてくれ。応用すれば、カニ歩きのように右を向きながら真っすぐ走ったり、上空を見たりすることもできるぞ」
FPSは、キャラクターを最も人間的に動かせるジャンルだと言われている。人間的な立ち回りは現実的な駆け引きを生み、戦いに深みをもたらす。
そしてそれを可能にしているのが、マウス+キーボードという操作形態というわけだ。
「さて、それでは操作に慣れたところで、ここからが特訓だ」
俺は各机を回り、それぞれのキャラクターの持つ武器を削除し、ナイフだけにした。
「今日は、六○分耐久鬼ごっこをやってもらう」
部員達のざわめきが一瞬で消える。
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