【書籍版試し読み】ゲームティーチャー斉藤太のJKプロゲーマー調教講座

ゆあん/「L-エンタメ小説」/プライム書籍編集部

プロローグ 「ダイブイン・カウントダウン・アルファ」


 視聴覚準備室は緊張感に包まれている。

 部屋の中央には長机が二つ並べられ、島のようになっている。その上には大きなPCとモニター、そして色鮮やかなマウスやキーボード。それらがこの薄暗い部屋の中、幻想的な光を放ち、生徒四人の緊張感ある表情を浮き彫りにしている。

 ここはゲーム部の部室だった。画面には、様々な有名企業のロゴが代わる代わる映し出され、ヘッドセットを被った部員達は、それを神妙な面持ちで眺めている。


「アクセス解析中」


 音声をきっかけに、ログインを促すアイコンが表示される。静かな部室の中に、マウスを操作する音だけがこだまする。

 画面上に表示される参加人数がどんどん増えていく。待機場所に表示された生徒達のキャラクターは一箇所に集い、パーティーを組んだ。予め提出してあるユーザー情報と参加者情報が一致すると、キャラクターネームがブルー表示に変わった。


「み、みんな。緊張してない?」


 画面にはローディングバーが大きく表示されていた。「ダイブインまで待機中」という表記が印象的だ。ゲームへの没入感を高める仕掛けを前にして一気に緊張したのか、灯里あかりがメンバーに様子を尋ねる。


「私は大丈夫です」


 冷静な悠珠ゆずの声に、明るい美月みづきの声が続いた。


「灯里センパイが一番緊張してそう」


「大丈夫だよ灯里、僕達は、灯里を信じてる」


 続く琢磨たくまが、モニター越しに親指を立てる。


「何があっても灯里の指示には従うから。頑張ろう」


 琢磨はそう言って、不安そうな灯里に笑いかけた。灯里の顔が紅潮し、メガネが白く曇っていく。


「参加者全員のログインを確認しました。これより、ダイブインを開始します」


 そのアナウンスによって、部室内の緊張感が一気に高まる。

 俺は顧問として、皆が集中しやすいよう、照明の明るさを一層下げた。それに合わせて、モニターに表示されるゲームの世界が鮮明に浮き上がってくる。


「ダイブイン・カウントダウン、開始。二八、二七、二六……」


 全員の画面に、大きな数字が表示され、カウントダウンされていく。


「皆。俺のボイスチャットはここまでだ。日頃の練習を思い出せ。お前達は誰にも負けない技術を身に着けた。それは俺が保証する。では、健闘を祈る」


 俺は信じている。彼らが、必ずや苦難を乗り越えてくれることを。


「ダイブイン・カウント・ゼロ。G甲子園地区予選、開始します」


 直後のアナウンスをきっかけに、俺からの音声は遮断された。


「頑張れよ、お前達」


 その言葉はきっと届かなかっただろう。


「―美月。お前ならできるさ。俺はちゃんと見てるからな」

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