空の上

 はるか眼下に、小さくなっていく聖都が見える。聖なる河ボアンの中州に位置する都には無数に水路が走り、郊外の大きな水路には巨大な水車がいくつも回っていた。

 竜の背の上から、リアンノンはほぅっと感嘆のため息をついてその光景を眺めている。巨大な水路は鉱石を研磨するために設けられたものだ。水車のそばには大きな研磨工場がいくつも設けられており、水の力を借りて鉱石たちを美しい姿へと変えていく。

 リアンノンが作り終えたばかりの司祭の回顧録は、ここで研磨された鉱石竜の鱗を使用しているのだ。その鉱石たちを採掘しているヴィアン鉱山へとリアンノンたちは向かおうとしていた。

 権力者の権威の象徴ともいえる鉱石が、リアンノンはあまり好きではない。けれど、巨大な運河をゆったりと回る水車を見るのは大好きだ。嫌なことがあるとリアンノンはいつも都の郊外に行っては、飽きることなく黄昏の光に抱かれた巨大な水車たちを眺めていた。

「凄いね。あんなの動かしちゃうなんて。僕のパパはここで亡くなったんだね……」

 玻璃の眼を細め、鉱石竜が悲しげに声をはっする。

 鉱石竜の言葉に、貧救院で人知れずなくなった鉱夫に想いを馳せる。彼は鉱山の落盤事故で足に大怪我を負い、それが原因で働けなくなったというのだ。どうやってこの鉱石竜と鉱夫が出会ったのか、彼らがどんな生活を送っていたのかリアンノンにはわからない。

 けれど、竜と話しているとまるでその場に亡くなった鉱夫がいるような気持にリアンノンはなる。彼が生きて、竜を通じて自分に何かを伝えようとしているかのように。

「ねぇ、あなたのパパは――」

「パーシヴァル。僕の名前はパーシヴァルだよ、リアンノンっ!」

 リアンノンの言葉は鉱石竜の弾んだ声によって遮られる。リアンノンは息を吸って、もう一度彼に語りかけた。

「パーシヴァルはどうやってパパと出会ったの? その、竜は……」

 そっとリアンノンは、パーシヴァルの背に広がる鱗へと眼を落としていた。陽光の輝きを受けて、乳白色の鱗は七色に輝いている。その光景は、まるで真珠が輝いているようだ。

 竜の鱗はこの世でもっとも高貴なものの一つに喩えられ、古くから装飾などに好んで用いられた。近年では鉱石の加工技術と共にその需要も高まり、竜の乱獲が一部の国では問題になっているほどだ。

 その影響か、近年では野生の竜を目撃することすら難しい。

「うん、僕のママは人間たちに殺された。でも、そんな僕をパパが救ってくれたんだ……」

 パーシヴァルの言葉に、リアンノンは顔をあげる。彼は懐かしむように眼を細め、言葉をつづけた。


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