第26話「閃治郎、武士道ニ物申ス」
謎のエインヘリアル、
そればかりか、
その場にいながら、みすみす義経を取り逃がしてしまったことを、閃治郎は
そして、
今、長い夜の始まるを告げるヴァルキリーたちの声が、
「なんたる失態! このヴァルハランドが
「エルグリーズ、
「敵を
そう、義経の方が一枚も二枚も上手だったのだ。
戦いの
エインヘリアルとして招かれし者たちを守護し、座に
その全てが、残らず
「はうう……それはぁ、そのぉ。でも、足利さんたちは頑張ったです! 凄くいい案だと思ったし、それに……お祭り、楽しかったです!」
「これ、エルグリーズ!」
「あう……エル、反省してます。しょぼーん」
長身の
先程まで群衆が熱狂していた
閃治郎は、隣で不安げに
肩を抱くとか、手を握ってやるとか、気の利いたことはできない。
せいぜい、強く吹き始めた風から、彼女を守るように立ち尽くす程度だった。
そして、ヴァルキリーたちの
「足利とか言ったな、サムライの! どう責任を取るつもりか!」
「そう、サムライなどという極東の剣士たちよ。お
そして、反論するでもなく、弁明するでもなく……足利はただ、黙ってヴァルキリーたちの言葉を受け止めていた。深手を負った傷は痛々しく、手当のすんだ全身の包帯が血を
そして、いつもの
「よし、腹を切ろう」
思わず閃治郎は、驚きに目を見張った。
武士として当然にも思えると同時に、それを平然と口にする足利に驚いたのである。そして、痛感する……やはり、時代が違えば武士道も違う。そして足利は、戦国時代の夜明けを生きた
平民が剣術を習って、
生まれながらに武士、生き様そのものが武士道……足利はそういう男だと感じたのだ。
そして、それを当然と受け取る者が声をあげる。
「よかろう、ワシが
「おっ、まーくん助かるぅ! じゃ、かるーく
「なに、ワシとて敗北して生き恥をさらしておる。お主が
将門だ。
彼は寂しげに笑うと、腰の
二人は共に、敗れた。
刃を交えて力を奪われ、それでも強者
あるいは、と閃治郎は戦慄に心を震わせる。
もしかしたら義経は、こういう事態すらも想定していたのではないだろうか? こうなることをわかって、将門からも足利からも命だけは奪わなかった。
侍でありながら、侍の
その有り様はあまりにも
そんなことを考えていると、真琴が顔をあげた。
「あっちゃんのバカッ! まーくんも、なんでそう変なとこだけ律儀で
そう、ここは異世界ヴァルハランド……
全ては、
再び命を
そうだと
「足利殿! 将門殿! しばし、しばし待たれよ! ――新選組局中法度!
足利も将門も、目を丸くしてしまった。
武士として腹を切る……まさに武士道に
だが、生まれながらの侍でない
それはまだ、不確かで、見つかってはいない。
それでも、探し続ける。
探してなければ、自分で作る。
今が、その時だと感じたのだ。
「二人共、無礼を承知で頼み申す! 捨てる命があるならば、この僕に……いや、真琴殿に預けてもらいたい! 命は捨てるものではない……命は、燃やすものだ!」
「そうだよ! ……ほへ? えっ、なんでわたしに!?」
「僕らの全てを、真琴殿は歴史として知っている……彼女の中に、足利殿も将門殿もいるんですよ!
自分でも、思ってもみないような大声が出た。
きょとんとしてしまったのは、足利や将門だけではない。エルグリーズも、他のヴァルキリーたちも
だが、不意に笑い声が響き渡った。
「ハッハッハ! 抜かしおる! このワシに説教か、
剣を
そして、長い黒髪を風に遊ばせながら声を張り上げる。
「
「は、はい。それは死ぬよりも
足利も、肩を
新選組は
それを否定しないが、正しくはなかったと今は思える。
それでも、閃治郎にはわかるのだ。
局長である
侍に生まれなかったからこそ、本物よりも
それを今、異世界のこの地で閃治郎は仲間とともに探す……生み出すのである。
「やれやれ、まーくんさあ……さっきのは私的にはこう、そこは止めてほしかったなあ。死ぬな、よせ、ってさ。それが『ワシが介錯してしんぜよう』て……ガチすぎるでしょう」
「なんじゃ、元から死ぬ気はなかったのかや?」
「そゆことにしといて。恥ずかしいからさ、ははは」
「うむ、まあ……お互いまずは
話は決まった。
そして、それを
緊張感がまるでない、その言葉はシャルルマーニュだった。
彼はヴァルキリーたちを眺めて目を細めた。
穏やかな笑みの、その瞳だけが笑ってはいない。
「ま、雨降って地固まる、ってことで。どうかな、ヴァルキリーのおばさんがた」
「なっ……お、おばっ!」
「無礼であろう! うら若き乙女、それも
「我らがおばさんなら、うぬとて子供ではないか!」
だが、へらりとシャルルマーニュは切り返す。
「彼らサムライは、結論を得た。問い詰めるだけで具体的な提案もない、おばさんたちと違ってね。で、僕はまあ、彼らと共に戦うつもりだけど? それでいいよね?」
そうだそうだと、他の座のエインヘリアルたちも声を上げた。
シャルルマーニュは気分良さそうに一同を振り返り、その声を手で制する。
そして、閃治郎は鋭い彼の視線で射抜かれた。
「セン、そういう訳だよ。君たちに武士道があるように、僕たちにも騎士道がある。他の座の者たちにも全て、道があるんだ。違う道がね。でも」
その先を、閃治郎ははっきりと受け取り、言の葉を
「でも、道は違えど同じ方向を向いている。同じ場所へと走っている。違いますか? シャルルマーニュ殿っ!」
「あっ、それ言っちゃう? やだなあ、僕の
その時だった。
カンッ! と舞台に
その矢が飛来した方向を、すぐに閃治郎は振り返る。
人の姿はなく、
手にして抜けば、その矢には……
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