第3話


「読んだけど、これがどうしたんだよ」

 何かに顔を向けるとそこに笑っていながらも、苦虫を噛み潰すように眉間に皺を寄せた姿があった。

「まずいな」

「まずいって何が」

 何かが呟いた言葉を拾い問い返す。何かがこの様な顔をする理由が世夜には分からなかった。言われるままに読んでみたが、だんだん暗くなっていくスレは、読んでいくうちに少しずつ己の気さえも暗くなっていく気がして好きではない。できるなら早いこと別のスレに映りたかった。だが、何かの指示をまたない訳にもいかなくて、彼は溜息を一つ吐いた。

「良いですか、今から一回だけ説明しますから疑問は後にして、指示に従って下さい」

 何事かを考えていた何かが顔を上げるとそんなことを言われた。

「はぁ? 何だそれ」

「いいから」

 強い口調で言われた言葉は彼の反論を封じ込める。

「この中に妖怪がいます。

 そして人びとの心を僅かにマイナスに傾けている。これをこのままにしておくと最悪の方向に転んでいく可能性が高くなります。このスレ主が自殺をしたり、これを読んでいる人の心まで腐っていく。

 それを阻止するためには妖怪を倒さなければならないのですが、スレの奥深くに潜んでいるため、あぶりだす必要があります。その為には人間である貴方の協力がいるんです。

 取り敢えず何かスレ内が明るくなるようなことを書き込んで下さい」

「はあ?」

「いいから」

 ひとしきり説明し終えた何かは即座にキーボードを世夜の手元に持ってきては打ち込むのを待っている。いつの間にか画面はスクロールしており書き込みの部分にカーソルが入っていた。

 反論をしようとしたのでさえ、さあとキーボードをさされて遮られてしまう。何かの方向に向いていた顔も無理矢理手で押さえられ画面に向く。

 これは言うことを聞くしかないとパソコンへ向かい始めた彼。

 頭を抑えた手が髪の毛越しにも分かるほどの冷たいものだったことと、そこから思い出した先ほどの異様な光景、恐怖。

 それらが彼から抵抗する気力を奪っていたのだ。キーボードの上で指先が躊躇う。

「明るくなるようなことか」

「そう。元気になるようなね」

「明るく元気にって、わかんねえ」

「なんでもいいからさ。気楽に」

「気楽ね……」

 渋面に満ちた表情。瞳の奥がぐるぐると回っている。

 少しずつキーボードを叩いた





143 名無しの権兵衛

 諦めてやるなよ

 もう少し考えてやろうぜ


 画面に出てきた文字にホッと息がはかれた。こんな言葉でさえ書くのにはとても強い緊張を強いられる。

「ありきたりですね」

「うるせ。これしか思いつかなかったんだよ」

「まあ、でも初めはこれくらいの方が良いかもしれませんね。まだ、全然ですけど」

「え」

「みてください」





144 名無しの権兵衛

 そんなこと言われてもよ……


145 名無しの権兵衛

 無理なことは無理じゃねえ……


146 名無しの権兵衛

 俺も浮気されたら許さない自信あるし……。

 自分のことも考えると余計ないわ


147 名無しの権兵衛

 だよな……




「もう一度やってください」

「おう……」



148 名無しの権兵衛

 暗くなるなって

 暗くなって何かが変わるわけでも人だし、どうしたらいいのか考えようぜ





「先よりはマシですね。やっぱりありきたりですけど」

「悪かったな。で、この後は」

「様子を見て書き込んで下さい。妖怪はこのスレに定着している頃。思い通りにならなかったら出てきます」





149 名無しの権兵衛

 そうだな。まずはどうするのか考えないとな


150 名無しの権兵衛

そうだな

 そういや、安価好きは?


151 名無しの権兵衛

 あれ、そう言えばいないな

 おーーい、安価好き


152 安価好き

 はーーい。落ち込んでた


153 名無しの権兵衛

 そうだよな

 ごめんな俺らが弱気になって


154 名無しの権兵衛

 これから頑張るからな


155 名無しの権兵衛

 俺にできることなら何でもする

 で、これからどうする?


156 名無しの権兵衛

 どうしような





「参加しないんですか」

「参加しないと行けないのか」

「いえ、とくには、でも解決には導いて貰わないと困りますから、様子を見て書き込んで下さい」

「様子見てね……。なぁ、疑問を書き込んでも良いか」

「どうぞどうぞ」




157 名無しの権兵衛

 何でAは怒ってるんだ




「それを聞きますか」

「不思議じゃね」





158 名無しの権兵衛

 そりゃあ、他の男が一緒にいたからじゃ


159 名無しの権兵衛

 だな


160 名無しの権兵衛

 でもよ、それだけで怒るのか?





「怒らないんですか」

「怒る必要あるの」

「そう言うもの何じゃないんですか。ショック受けたり」

「そうなのか」

「さあ? 私はそうなんではないかと思っていましたが」






161 名無しの権兵衛

 怒るだろ


162 名無しの権兵衛

 俺も怒る


163 名無しの権兵衛

 そういうもんか


164 名無しの権兵衛

 そういうもんだ


165 名無しの権兵衛

 でもさ、安価好きが言っていたAのスッペクみる限り優しい奴なんだろ。それがそこまで怒るってなかなかないだろ


166 名無しの権兵衛 

 そういや、そうだったけど

 優しくても浮気は怒るだろ


167 名無しの権兵衛

 そうそう


168 名無しの権兵衛

 そう言うものなのか


169 名無しの権兵衛

 そうだって


170 安価好き

 チラッ



 ……Aはとても優しい。だからあんまり怒らない。正直、今回Aが本気で怒ったのに戸惑いが隠せないでいる

 前も一回こういうことがあったんだけど、その時は怒らないでこういう事もあるって言っていただけだった


171 名無しの権兵衛

 ……


172 名無しの権兵衛

 ……え、じゃあ何で今回怒ったんだ?


173 名無しの権兵衛

 二度目はないって事か?

 

174 名無しの権兵衛

 よくわからねえ……

 ちょ、安価好きメールして聞いてみろよ


175 安価好き

 うん、聞いてみるね


176 名無しの権兵衛

 よろしくーー


177 安価好き

 返信来た。うpするね


 お前、今日は体調大丈夫なのか

 見舞いに行くけど、何か欲しいものあるか


 ……まあ色々とな



 色々って何だ。しつこく聞いてみる


178 名無しの権兵衛

 おう。頑張れーー

 つうか、返信はや


179 名無しの権兵衛

 安価好きは今日体調が悪いのか?

 大丈夫か


180 安価好き

 大丈夫。精神的な問題だから


181 名無しの権兵衛

 おい


182 名無しの権兵衛

 それ、大丈夫だけど大丈夫じゃない。

 

183 安価好き

 えっへ

 あ、返信来た。うpするね


 

 ……まあ、一緒にいたのがお前の彼氏だったからつい



 ????

 別に彼氏じゃねえけど。よく話し掛けられてはいたけどうざいだけだし。好きじゃない

 Aの方が好き


184 名無しの権兵衛

 

185 名無しの権兵衛


186 名無しの権兵衛


187 名無しの権兵衛

 え?

 

188 名無しの権兵衛

 まさかのホモーー


189 名無しの権兵衛 

 ……………………


190 名無しの権兵衛

 ……………………

 うそだろ


191 安価好き

 ちげえよ  

 そもそも俺女だぞ 


192 名無しの権兵衛

 

193 名無しの権兵衛


194 名無しの権兵衛


195 名無しの権兵衛


196 名無しの権兵衛


197 名無しの権兵衛

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