野良猫ノラオ

@moga1212

第1話

「おい、やめとけって!」




「心配はいらねえよ」




 一人の男が、路地裏に入って来た。


俺はナイフを抜いて、電柱の影に身を潜めた。




「おーい、ノラ猫はどこだぁ~」




 おっさんが、俺の名前を呼んでいる。


酔っ払いか?


だったら、都合がいい。




 俺の名前はノラオ。


この近辺に住んでいて、家はない。


年は今年で18だったか?


忘れたけど、多分それくらいだ。




 子供の頃から、ずっと父親の虐待を受けていて、その内殺されると思った俺は家を出た。


それから、ずっとこの界隈に住んでいる。


狩りの仕方は野良猫の見様見真似で、エモノは動きのトロいジジイやらババア。


たまに酔っ払いなんかも狙う。


サイフをくすねて、そこら辺の店で腹を満たすのが、俺のライフスタイルだ。


その内、この界隈は俺の噂で持ち切りになった。


ノラ猫が出る、っつってな。




 いつもの要領で、身を縮めて、おっさんに飛びつこうとした時だった。




「おら、出て来いよ」




 おっさんは、コンビニのパンを地面に置いた。


俺は、ゴクリ、と生唾を飲む。


ここ何日か飲み食いしてなかったから、あんなパン一個でも喉から手が出るほど、欲しい。


罠、か?


腹がギュルルル、と鳴った。


こういう時、俺は嘘はつけない。


食いたいものは、食いたい。


溜まらず電柱から飛び出して、パンを掴むと、おっさんを睨み付けた。




「フシャーーーーッ」




「はっはっ、そういきり立つな。 おめえにやるためにそこに置いたんだよ」




「……」




 俺は、おっさんから目を反らすと、そのパンに食らいついた。


慌てすぎて、ビニールの上から噛みついたが、かんけーない。


そのままガフガフ食らいつくと、ベッ、とビニールを吐き捨てた。




「……またな」




 気が付くと、おっさんの姿はなかった。
















 その翌日、またおっさんが来た。


しかも、今度は昼間。


昨日は夜だった為、相手の容姿がよく分からなかったが、今日ははっきり見て取れる。


はげ散らかした、中年のおっさんだ。


一応スーツを着込んでいるが、こんな時間に何してやがる?


すると、また床にパンを置いた。




「ほら、食っていいぞ」




 一体、何がしたいんだ、このおっさん。


今日は、少し腹も満たされてるから、昨日みたいなみっともない姿は見せなくても済みそうだ。


俺は、電柱から姿を出して、パンを拾った。


それを、宙に投げながら、質問する。




「……あんた、何モンだよ」




「はっはっ、俺のことが知りてえか? だったら、ついてこい」




 いきなり、おっさんは歩き始めた。


ついてったら、メシ、おごってくれっかな?


そんな期待を胸に、フラフラと後に着いて行った。




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