第四百五十六話 三姉妹の絆編 その四


 ……どうしてだよ。

 何故見ず知らずの……しかもよりによってどう転んでも何かしらの方向で危ないキャラと!

 公園のベンチに二人で座っているのだろうか!

 

「……」

 

 しかも少女はどうでも良いがかなりの美少女だ。

 長い金髪に青い光のない瞳をしている。姉さんと並べるくらいのレベル。

 

 あとで淀子に報告しようかな。By作者

 

「お前やめろ」

「また独り言……本当に大丈夫ですか?」

 

 ……独り言じゃねえのに。

 

「……」

「ちょっと見ていて不安になります……どうしてそんなに独り言が多いんですか? 悩み事?」

 

 私が選択した事とは言え、少々馴れ馴れし過ぎる。

 適当にあしらうべきだ……そう判断し、立ち上がって告げた。

 

「お前に話す事じゃねえ……じゃあな」

 

 まあこう言えば、ついてくる事はないだろう。

 そう思ったが、

 

「待ってください」

 

 彼女は私の手を掴む。

 そして笑顔を作って私に言う。

 

「私と……友達になりませんか?」

 

※※※

 

「……」

 

 何でこの流れで……それはさておき。

 

「どうしました?」

「お前……さっきから何言ってんだ? 馴れ馴れしく私を捕まえた上に、いきなり友達になれだと?」

「……あの」

「冗談言う相手間違えたな。私も暇じゃねえんだ……他当たれ」

 

 もう一度歩き出そうとする。

 だが少女はその手を離さない。

 

「私は本気です。悩んでいる人を見捨てて放置するなんて、私には出来ません」

「……」

「だから私は貴女と友達になってでも、その悩みを解決してみせます」

 

 頑なに、少女はそう言葉を紡ぐ。

 

「もうそういうの、足りてんだよ」

「何言ってるんですか……友達はいくらいても良いものじゃないですか?」

「だけどな……そう軽く近付いて来るような奴を信用しろなんて無理だ」

 

 もしヤク売りだったらヤバいし。

 

「信用なんて……別に後ですれば良いじゃないですか。友達は、こうして手を握って、話し合えている時点でそうなんですよ?」

「……」

「だからお願いします。私と友達になって、他人同士という壁を壊して、その悩みを私に打ち明けてください」

 

※※※

 

 何となく……断り切れなくなって私はもう一度ベンチに腰かける。

 

「強いて言うなら、私はそうだな……まともな奴が周りにいねえんだ」

「まともな人……ですか?」

「そう。私は三つ子で、姉と妹がいるんだけど、姉さんは顔がお前くらい整ってて力が強くてスポーツ万能なんだけど、頭が悪くて力使ってカツアゲとかしてやがる……。妹は妹で、『吾は闇の騎士だ』とか名乗って、我儘で泣いてすぐお袋を呼んだりする……」

「なんか……凄い濃い姉妹ですね……」

「だろ? 別に姉妹だから皆で助け合って仲良く、なんて私は思わねえけど、迷惑は掛けねえで欲しいって思うだろ?」

「……」

「それに周りにいるのも頭おかしい奴ばっかでさ。一人は普通の地味な女の子かと思ったら、超ヤンデレで付きまとってくるし、もう一人は私に勝ちたいんだか何だか分かんねえけど、常に勝負挑んで来ていて目障りなんだよ……」

「それは……かなり苦労してますね……」

「……だろ? だから正直、これ以上変な奴に悩まされるのは御免なんだわ……」

「そうなんですね……」

 

 これだけ言えば流石に諦めるだろう……。

 

「あの……」

「なんだ?」

「私じゃ……ダメですか?」

 

 やっぱり食いついてきたか。

 

※※※

 

 もう作者にネタがないのは知っている。

 だが私はそれを承知で言う。

 

「変な奴に悩まされるのは嫌だって言ったろ? 知らねえ奴にこう付きまとえるお前をどう見れば変じゃないと思えるんだ?」

「厳しい事を言いますね……」

「出会い方が悪かったな……悪いがお前とは友達になれそうもねえ」

 

 今度こそ立ち去ろうとする。

 

「なら……私もお願いしたい事があります」

「だからお前と私は他人同士。お前がどう思おうと、変人である限り私はお前と一緒にいたくねえ」

「変人でなければ、私は貴女と友達になれるのですよね?」

「ま……まあそうなのか?」

「分かりました……では、私を貴女の友達として相応しい人間に導いてください!」

 

 そう来たか。

 

「あのな……悩みを解決する為になりたいだとか、変人じゃダメなら努力するとか、お前の何が私とそんなに仲良くなりてえと思わせてんだよ……」

「貴女が友達を必要としないのとは逆に、私は友達が欲しいから……それではダメですか?」

「友達欲しいならその性格を治せとしか言えねえな……。友達作るってそんな簡単な事じゃねえし」

「それに……」

「なんだよ……まだなんかあるのか」

「私は貴女の悩みを聞いて思ったんです。悩みを解決する為だけじゃなくて、貴女みたいな優しい人と友達になりたいと」

「はあ?」

 

 優しい?

 今の話をどう聞いたらそう思えるのか分からん。

 

「優しいと思いますよ。少なくとも私は」

「……私、今の関係を断絶したいっていう悩み抱えてんだぞ? そんな悩み持ってる奴が優しいか?」

「でも今まで、貴女は嫌がりながらもその人達とは付き合ってきた。悩みながらも」

「お……おう」

「優しくなければ、そもそも自分に人が近付いているなんて思いもしないでしょう? でも貴女は自分に人が寄ってきている事を自覚している。そしてそれに悩めてる。優しい人でなければ、そんな感情は抱けませんよ」

「……そうか」

「だから、どうかこれからはその悩み……私と共有してください。貴女一人で悩まなくて良い、何があっても、私が貴女の傍にいますよ」

「お前……」

「でももし私が変な事をしたら、その時は止めてください。貴女にとって、立派な友人になりますよ」

 

 これ以上ないくらい整った笑顔で、少女はそう願う。

 悲しいかな……私は意外と押しに弱い。

 

「勝手にしろ……」

「じゃあこれからどっか行きます? カラオケですか? それともカフェ?」

「お前の行きたい方でいいよ」

 

 態度を一変させ、嬉しそうな表情で少女は私の手を掴む。

 

「じゃあ私が勝手に決めますね!」

 

 そのまま手を引いて、全速力で駆けだした。

 

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