第二百九十八話 オンリーイベントに行こう その四


「江代令嬢ちゃん! 会えて嬉しいよ!」

「ふっ、同人誌も買っていけよ」

「はい令嬢様!」

 

 もう一つの騒動だな。十五冊しかない同人誌を握手会終わった奴ら同士で取り合いしている。

 

「江代ちゃんの臭いプンプンの同人誌はオラのもんだ!」

「寄越せ!」

「やだ!」

「同人誌くれよお!」

「やーだよ!」

 

 竜の玉グミの取り合いみたいになっている……。

 

「すはーすはーすはー!」

「……」

 

 江代もどうしたら良いか困ってやがる!

 

「江代ちゃん何とかして!」

「さ、流石にこれはマズいな……」

 

 他の奴の同人誌目当てで来た奴、江代の握手会に阻まれている!

 

「てかこれ運営何やってんだよ!」

「江代ちゃんのサインとか貰いに行かなきゃだろ!」

 

 ダメだこのスタッフ早く何とかしないと。

 

※※※

 

 暴風雨が去った頃には、もう江代の同人誌だけが完売し、残り時間はあと三十分となった。

 

「わ、吾の勝ちだ」

 

 知ってた。

 

「また江代さんに負けてしまいした……」

 

 知ってた。

 

「売れ残った」

 

 知ってた。

 

「鬘取れた」

 

 それは知らない。

 

「やだ若ハゲバレる!」

「ぎゃあ手に鬘が!」

 

 もう一人の被害者が……。

 

「どうだイヴよ。これくらい出来なければ吾には勝てん」

「……」

 

 イヴって呼ばれてる女白目剥いてる!

 やめろ江代! 彼女から自信を奪わないであげろ!

 

「……仕方ない。貴様にはあとでラーメンでも奢ろう」

「……!」

 

 ラーメンで復活したぞこの女!

 でもナイスだ江代。やっばり友達には優しいな!

 

「ふっ、勿論三郎だ」

「大食い対決します!」

「懲りぬな貴様……」

 

 浅井家相手に大食い対決とか正気なのか……?

 

「貧乳の銃士、そんなわけでこの後はラーメンを食べに行くぞ!」

「へいへい」

 

 なんだ……普通に良い奴じゃん江代。

 

「その優しさが私に使えれば、な」

「ふっ、使わぬ」

 

 こいつ……。

 

「てか男連中は連れてかないのか?」

「今回はこんな事があったんでな……男子禁制で行こうと思う」

「よく分からんが了解」

 

 年上男子の扱いが苦手なんだろうな。

 子供とは仲良いのに。

 

「ふっ、全部マシマシをどれだけ食べられるかで勝負だ」

「望む所です!」

「私もそれで行くか」

 

 全マシを二杯以上食おうなんて女子高生……ひょっとして私達くらいなんじゃないだろうか。

 

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