一章 四月編

第一話 浅井三姉妹!

私は最近――いやかなり昔から、一人っ子の奴らに言いたい事がある。

 兄や弟、姉や妹が欲しい。そんな事を思った事は無いだろうか。

 確かに兄弟姉妹がいれば、遊び相手が増えるかも知れない。

友達と一緒にいられない、家で過ごしている時間は、そいつらと過ごせば良いだろう。

しかし、こんな事が起きるのもまた事実。

テストの点数で優劣が付けられたり、同じ柄の服を買わされたり。そして最も最悪なのは、兄弟姉妹に嫌われたり、良いように扱われたりする事だ。

一人っ子の諸君。この話を聞いても、まだ兄弟姉妹が欲しいと思うだろうか。

これだけ言っても、少し伝わりづらいだろう。

なのでこれから、私の家族について話そうと思う。


※※※

 

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

「ふっ、魔界より墜ちし天使・ルシフェルを憑依。吾に力をッ!!」

 

 こんな声が、普段自室の扉を開ける度に聞こえるのだ。

 最初の叫び声が姉の浅井あざい淀子よどこ、その後の厨二っぽい台詞が妹の浅井あざい江代えよの声。

 もっと細かく言うなら、姉は訳も分からず部屋中を走り回り、妹は台詞を吐きながら木刀を構え、たまに振っている状態だ。

 どうだ、騒がしいだろう。

 

「一応今が夜六時って事を忘れてねえか?」

「うおおおおおおおおおおおおッ!!」

「喰らえ、ヘルダークフレイム!! 闇の炎に抱かれて消えろッ!!」

 

「――聞けよォォォォォォォォォォッ!!」

 

 私の叫び声の後、やっと止まる二人。

 しかし声を聞くや否や、私の方に目を向けた。

 いや違う。もっと正確に言うなら、私が手に持つプリンの箱に目を向けていた。

 

「あ、あんあん!!」

 

 思わず犬のような叫び声が口から飛び出る。

 意味はうん、これは私の餌だって具合だ。

 しかし、この狂犬共は私の話など聞きやしない。

 

「食べさせなさい、はつ。お仕置きして欲しい?」

 

 何で私が自分の小遣いで買った物に対してお仕置きされなきゃならんのだ。

 

「ふっ、無駄だ貧乳の銃士よ! 守っていた所で、吾の闇はそれを喰らう!」

 

 お腹減ってるから食べたいですって言えねえのかてめえは!

 まああげないけどな!

 

「なら、仕方ないわね」

 

 姉さんは急に赤いブレザーを脱いだ。そして瞳を窄め、私を見据える。

 

「力ずくで奪うわ」

 

 右拳を握り、腰の高さまで落とす。

 そのまま滑るように、私の所に駆け寄り。

 

「アッー!!」

 

 右拳が私の腹に突き刺さった。

 大声が街中に響いた事だろう。

 

※※※

 

 これを見た上でもう一度聞きたい。

 兄弟姉妹は欲しいか? 恐らく、答えはノーだろう。

 え、まだイケるってか? 凄いな尊敬するわ。

 じゃあこれから、そんな姉妹達と過ごした日々について語ろうと思う。

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