別れ

「我が名はバハムート。

 竜王バハムートである」

 改めて自己紹介をと言うことで、なんとバハムートでした。

 まぁ、息子の名前がバハムルだなんて、親はバハムート以外ありえないって思ってはいたけれども!

 でもいざバハムートだと名乗られるとやっぱりびっくりする。

 俺たちも自己紹介をした。

「それにしても、天馬よ久しいな。

 しかしなぜ馬車をひくなどしているのだ?

 馬のような扱いをされるといつも暴れていただろう?」

「ヒヒーン。(あぁ、久しいな。此奴は俺が認めたやつだ、別にかまわん)」

「えっ!?

 百段ってバハムートさんと知り合いだったの?

 てか、天馬?

 ど、どういうこと?」

「む?お主、何も話しとらんかったのか?」

「ヒヒーン。(俺の力が必要になれば話そうと思っていた)」

「ヒヒーン。(でも、もうお話してもいいと思いますわ)」

「ヒヒーン。(私もそう思いますわ)」

「え、桜と椿もなの?」

「ヒヒーン。(あぁ、俺たちは本当は馬ではなく天馬、ペガサスだ。これが真の姿だ)」

 そう言うと光り輝き出す百段たち。

「え、なになに?

 なんか話してるなーって思ってたら光だしたんだけどー!?」

「なんて言ってたの~?」

「なんかね、百段たちって馬じゃなくて実はペガサスだったみたい。

 で、今本当の姿をお披露目ーって場面かな。

 なんかもう、今日は驚いてばっかりだなぁ」

「「ペガサス!?」」

 光が収まった。

 百段たちを見てみると――。

「「「おおおー!翼が生えてる!」」」

「なんと!

 百段たちは天馬だったのか!

 ボク初めてみたぞ!」

 どうやらバハムルも知らなかったみたいだ。

 目を輝かせてる。

 わかるよ、超かっこいいよね!

「せっかくだからこのまま天馬に乗って世界樹に行ったらどうだ?

 空を飛ぶのはなかなか心地よいぞ?」

「え?でも俺たち馬車があるので……」

「それぐらい我が運んでやろう」

「ヒヒーン。(俺も構わんぞ)」

「え、いいの?」

「「ヒヒーン。(私たちも構いませんわ)」」

 おぉぉ、まさかペガサスに乗って空を飛ぶ日がくるなんて!

 最高の空の旅じゃん!

「ヒヒーン。(ではしっかり掴まれ)」

「わ、わかった!」

 俺たちはそれぞれ百段たちに跨がりスタンバイオッケー。

 バサァッ!

 おぉ、浮いた!

「きゃー!すごーい!」

「高い高い高い高い怖い怖い怖い怖い!」

 そうだった、雫は高所恐怖症だったっけ……。

 それにしても……。

「そっかぁ……、百段たちは飛べたのかぁ……」

 これまでの俺たちの旅はなんだったのか。

 飛べるんだったら、今までの苦労はなんだったのか。

 いやまぁ、苦労したからこそ得たものもあるだろうし、楽しかったとも言えるんだけど……。

 認めた相手にしか正体は明かさないみたいなこと言ってたし?

 黙ってたのも理解はできるよ?

 でも、やっぱりこう言わずにはいられない。

「「「それさぁ、早く言ってよぉ~!」」」




 ペガサスモードの百段たちは速かった。

 飛べるだけじゃなくて、ほんと速かった。

 最南端の村から龍の巣まで徒歩だと二週間かかる。

 それを百段たちは、龍の巣どころか世界樹まで一気に飛んだ。

 十時間ほどで……。

 そして当たり前のように同じ速度でついてくるドラゴン親子。

 いやまぁ、バハムートさんはわかるとして、バハムル!

 お前もこんなに速く飛べたのか!

 さすが竜王の子だなぁ。


 下を見ると、とても大きな、そして神聖な感じが溢れてる大樹があった。

 もしかしなくてもあれが世界樹なんだろうね。

 地上に降りると、そこには薫子さんがいた。

 これにはバハムートさんが超驚いていた。

 馬車を下ろすとすぐに人の姿になって薫子さんに跪いた。

「まさか管理者様がいらっしゃるとは思いませんでした。

 お久しぶりでございます」

 えぇぇぇ?バハムートさん人間に変身できたの!?

 そしてバハムートさんが跪くだなんて、薫子さんつえー……。

 あ、バハムルがよくわかってない顔してる。

 わかんないけど、とりあえずバハムートさんの横でちょこんと頭を下げてる。

 空気の読める子だなぁ。

「お久しぶりですね、バハムート」

「して、管理者様がここにいらっしゃるということは、外界で何やらあったのですかな?」

「ええ、人間の国が禁忌を犯しましてね」

 薫子さんは、英雄継承の儀から今に至るまでの経緯をバハムートに話した。

「なんと!お主は管理者様の眷属であったのかジズー!」

「すごいやつだったんだなジズー!」

 ドラゴン親子が驚いている。

「しかもお主ら皆、異世界の者だったとは……。

 このような面白い出会いがあるとは、長生きもするものであるな」

 バハムートがしみじみと言う。

「さて……、澪さん、雫さん」

「「は、はい!」」

「この度は、私の星の者があなた方に多大な迷惑をおかけしてしまい、申し訳ありませんでした」

 深々と頭を下げる薫子さん。

 そして管理者、澪と雫にとっては女神様に頭を下げられてびびりまくる二人。

「そんな!とんでもないです!

 どうか頭をお上げ下さい!」

「私たちならほんと大丈夫です!

 楽しいこともあったので、そんなにお気になさらず!」

「寛大なお言葉、感謝いたします」

「いえいえそんな……」

 お互いペコペコ頭を下げあっている。

 あー、日本的風景だなぁ。

 バハムルなんかは、「あれは何をしてるんだ?」と不思議がってる。

「予定より早い到着でしたが、準備は整っています。

 いつでもあなた方を地球に、日本にお戻しすることができます」

「「――っ」」

 澪と雫が息を呑んだ。

「ですがその前にお詫びをしたいと思っています。

 私にできる範囲であれば、あなた方の願いを叶えたいと思います。

 何か希望などございますか?」

「え?」

「願い……ですか」

 考え込む二人。

 まぁ、いきなりそんなこと言われても、すぐにはでてこないよなぁ。

 二人はしばらく考えて、

「女神様、ちょーっとあちらにいいですか?」

「はい?」

 そう言って澪と雫が少し離れた場所に薫子さんを連れていった。

 ん、なんだ?

 あ……、そうか!

 人に聞かれたくない系の願いってことかな?

「なんだなんだ?

 ミオとシズクはどんなお願いをするんだ?」

 バハムルは気になってしょうがないようだ。

「どんなお願いだろう、気になるねー。

 でも、人に聞かれたくないことかもしれないからこっそり聞いたりしちゃだめだぞ?」

「も、もちろんだよ!

 ボクそんなことしないぞ!」

 そうは言うものの、薫子さんたちのほうを見てソワソワしてるバハムルくん。

 子供は好奇心旺盛だ。

「そういえばジズーよ」

 バハムートさんが声をかけてきた。

「なんですか?」

「バハムルが、ジズーたちに食わせてもらった飯が今までで一番うまかったとしきりに言っていたんだが、何を食わせてくれたのだ?

 もし高価な物を頂いてしまっていたのなら、対価を払いたいと思っているのだが」

「高価というか、狩りでとってきたものだからお金とかかかってないので大丈夫ですよ?」

「ミオとシズクからは魚をもらったぞ!

 焼いた魚はすごくうまかった!」

「ほう、魚は焼くとうまいのか?」

「焼いたほうが絶対に美味しいというわけではないですけど、焼き魚は美味しいですよ。

 生で食べてばかりだと飽きるでしょうから、たまには焼いてみるのもいいと思いますよ」

「あとね、ジズーが狩ってきたやつ!

 やばかったな!

 なんていったっけ?

 デリシャス……ミートとか、そんな名前!

 父ちゃんが言ってたやつだよな!

 あれはやばかったぞ!」

「は?」

「え?どうかしました?」

「デ……」

「デ?」

「デリシャスミートだとぉ!?」

 バハムートさんがくわっと吠えた。

 向こうにいる薫子さんたちもビクっとしてこっちを見た。

「ジ、ジズーよ……。

 お主は……、デリシャスミートを我が子に食べさせてくれたのか?」

「え、えぇ。

 たまたま見つけたので……」

「な、なんということだ……」

「あ、あのー?」

「ジズーよ、お主はなんと器の大きなやつなのだ。

 我は感動した……、このような者が存在するとは……」

「そんな、大げさですよ」

「大げさなどではない!

 あれのうまさはお主も知っておるだろう?

 あれをめぐって戦争になったことも一回や二回ではないのだ」

「え――、マジっすか?」

「マジだ。

 それを他者に分け与えるなど考えられん……」

 すげーなデリシャスミート……。

 傾国の美女みたいな存在だなぁ。

 恐ろしい……。


 それからしばらくして、ようやく薫子さんたちの話がおわったようだ。

 随分長かったなぁ。

「じゃあ頼んだよ?薫子さん」

「ほんとによろしくお願いね~?」

「うん、任せてよ!」

 あれ、なんかめっちゃフランクになってるし。

「なんかすごく打ち解けてるね?」

「あ、うん。

 話してたら自然にね」

 薫子さんにとっては初の同性の友達かもしれない。

 ニヤニヤが隠しきれていない。

 そして、澪と雫が帰る前にみんなで食事をということになった。

 旅は終わったし、デリシャスミートの残りを全部使った。

 せっかくなのでドラゴン親子にも振る舞った。

 もちろん百段たちにはフルーツ盛りを。

 バハムルはうめーうめーとはしゃいで、バハムートさんは感激して泣いていた。

 澪と雫もはしゃいでる。

 薫子さんも楽しそうだ。

 もちろん俺も楽しい、楽しいんだけど……。




 そして楽しい時間も終わり、別れの時が来た――。

「ジズー、あなたのおかげで無事に日本に帰ることができるよ。

 ありがとう」

「私からもありがとう。

 ジズーちゃんがいてくれて、本当に心強かったよ~」

 二人の言葉を聞くと、俺は堪えきれなくなり涙が溢れ出した。

「よ゛がっだよ゛おおおお!

 二人が無事に帰ることができてえええ!」

 号泣する俺を見て、二人も涙を流す。

「泣かないでジズー」

「ほら、笑ってお見送りしてよ~」

「ごめ゛ええん。

 でも、寂しくなるなと思って……」

「ジズー……」

「ジズーちゃん……」

 それから少しの間、泣き続けた。

「ごめん、湿っぽくなっちゃって」

「ううん、むしろ嬉しいよ~?」

「そうだよ、泣いてくれるなんて嬉しいに決まってるよ」

「そっか……」

「ジズー」

 澪が俺を抱き上げる。

「ありがとう」

 そう言って俺の鼻先にキスをした。

「ジズーちゃん、ありがとう」

 雫もキスをした。

 そして、薫子さんを見て頷く。

「では、転移いたします」

 薫子さんがそう言うと、澪、雫、薫子さんの三人が光りだした。

 思わずまた泣きそうになったが、なんとか堪えた。

 笑顔で送り出さなきゃいけない。

「澪!雫!

 元気でね!」

 二人も笑顔を向けてくれる。

「ジズー!」

「ジズーちゃん!」

「「またいつか!」」

 そして光とともに三人は消えた。




 こうして俺たちの旅は、終わった。

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