魔女の憂鬱
私の名前は佐藤澪、二十二歳の大学院生だ。
今日は待ちに待った欧州チャンピオンズリーグ決勝だ。
現地で観戦したいけど、当然そんなお金なんてない。
おとなしく家でテレビ観戦だ。
ほんとは友達とわいわいテレビ観戦したいんだけどね。
残念なことに、友達にサッカー好きはいない。
寂しい。
ま、しょうがない。
そのうちサッカー好きの友達できるといいなぁ。
とか思ってたら急に真っ白な光に包まれた。
「ま、まぶしっ!」
光が収まってる感じなので目を開けてみたら、そこは知らない場所だった。
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
そんなことがあって一ヶ月。
私は城で訓練漬けの日々を送っている。
一ヶ月前、ワイン片手にテレビでチャンピオンズリーグ決勝を見ようと思ってた私が、異世界で訓練漬けの日々。
なんの冗談だって思う。
結局決勝観れなかったし。
一年で最も楽しみな日だったのに。
召喚って……。
なんなのよ英雄継承って。
魔女って肩書は悪くないってちょっとだけ思っちゃったけど。
はぁ……。
召喚された直後、私は混乱はしたが最低限の冷静さは保てていた。
だから見逃さずにすんだ。
王のあの高圧的な態度。
人を見下した態度。
値踏みするような目。
良い王ではないんだろうな、直感的にそう思った。
周りの部下?家臣?も、王があきらかにおかしなことを言っても何も言わない。
イエスマンしかいないのか、もしくは王が暴君的な感じなのか。
これは……、やばいな……。
王が魔族は悪しき存在だから滅ぼさねばならないとか言っている。
勇者たち英雄は魔王を倒す使命があるとか言っている。
魔王が元の世界に戻るための魔法を知っているとか言ってる。
なんって胡散臭いんだろう。
私の周りには、同じように召喚されたであろう人が五人いたが、誰も王の話を信じてる感じはなかった。
まぁ、当然だろう。
だけど、いくら胡散臭いと思ってもこの状態で逆らうことができないのもわかってる。
鎧を着た城の兵士っぽい人たちが何人も私達に槍を向けてるし。
私達を英雄として扱おうとしてるくせにこの扱い。
騙そうと思ってるんだったらせめて上手に騙してほしかった。
まぁいいや、召喚されたばかりだけど目的は決まった。
隙をみて城を抜け出す、必要があればこの街も抜け出す、そして地球に帰る手段を探す。
……、考えるだけで泣けてくる。
でもがんばろう!
この一ヶ月間、私はできる限りの情報を集めた。
この世界はガイアというらしい。
この国は人間の国ニーゲン王国といい、この街は王都らしい。
城や、野外訓練で城を出た時に見た街、街の外の様子、それらを見た感じここは中世ヨーロッパって感じの世界だった。
当然産業革命とかは起こってないっぽい。
でも地球とは違って魔法があったりモンスターがいたりする。
モンスターがいると聞いて最初は怖くてたまらなかったけど、私には魔女の能力が宿ってるからよっぽどの上級モンスターでもない限り私のほうが強いらしい。
だからといって、慣れるまではいちいち怖がっちゃいそうだけどね。
私たちに情報を与えたくないのか、書物がある部屋への立ち入りは禁止されていて、城の外への外出も訓練時以外は禁止されている。
露骨すぎて笑える。
城にいる人間についても調べた。
基本的に城に常駐している兵士は王の直属の兵士らしく、常に私たちを監視してるような目線を感じる。
臣下たちも私たちが何かしでかせば、ポイント稼ぎのために我先にと告げ口するだろう。
賄賂が横行し、権力争いに明け暮れているようだ。
騎士団も魔術師団もだめだ、どっちも王の犬って感じだった。
城にいる女官?っていうのかな、メイドさんのような世話係っぽい人たちは目が死んでいる。
王族の奴隷らしく、いろいろ諦めてしまってるんだろう。
もうやだこの世界……、はぁ。
ただでさえ監禁状態で訓練漬けでストレスMAXなのに、文化レベル文明レベルは中世ヨーロッパ。
ご飯もまずい。
娯楽もない。
私は猫派なので、せめて猫で癒やされたい!
そう思ったが、この世界は犬はいるけど猫はいないらしい。
絶望だ。
死にたくなった。
でもまだなんとか踏みとどまっている。
それは、心のオアシスである雫がいるからだ。
佐藤雫、私と同い年の新社会人。
黒髪のセミロングで、とても可愛らしい子だ。
聖女の能力を宿したんだけど、納得だ。
性格がすでに聖女!
とても優しい、癒やされる!
ちょっとのほほんとしすぎてて危なっかしい感じもするけど。
そしてなんとなくオカンな感じもある。
そして何より私と趣味が同じ!
サッカー好き!
しかも欧州サッカー!
私と同じく、召喚された日はチャンピオンズリーグを観ようと思ってたらしい。
最高だよ!
心の友だ!
でも男性陣の四人、この四人はダメだ。
最初、せめて召喚された日本人六人で団結できればと思ってコミュニケーションを図った。
みんな二十二歳みたいだし、協力しあえればいいなと思ったけど、とんでもない連中だった。
まず勇者の竜一、こいつは日本では半グレのリーダーだったらしい。
次に二郎、こいつは竜一の部下らしい。
次に修三、こいつは極道の若頭らしい。
そして某元テニスプレイヤーと同じような暑苦しさがある。
次に四郎、こいつは修三の舎弟らしい。
私は絶望した。
どうしてこんなやつらと一緒に召喚されなきゃいけないのか……。
どうしてこんなやつらに英雄の能力が与えられてしまったのか……。
しかもこの四人が話をしてるのをこっそり聞いたんだけど、日本でやってた悪行を笑いながら話してたわ。
最悪だった、かなり最低なことをこいつらはやってたらしい。
おまけにこいつらの私と雫を見る目が露骨にいやらしい。
いつまでもここにいたらそのうちこいつらに襲われてしまう、そう思った。
それからは極力一人きりにならず、できるだけ雫と一緒にいるようにした。
雫にも事情を話して、できるだけ一人にならないように言った。
夜も同じ部屋にいて、寝るときは交代で見張りのために起きているようにした。
睡眠時間が毎日削られるのはしんどい。
こんな生活長くは続けられない。
早く逃げ出さなきゃ。
でも、監視の目が多すぎる。
一体どうしたら……。
「ねえ、澪ちゃん」
考え事をしていたら雫が話しかけてきた。
「なあに?雫ちゃん」
「あそこにいるのって、猫じゃない……?」
「え?この世界って猫っていないんだよね?」
「うん、そう聞いたけど……。
ほら、あの木の所にいるのって、猫じゃない?」
「木の所……、あっ!
ほんとだ!猫だ!」
猫派の私は猫の姿を見ただけで疲れが一気に吹き飛んだ。
やっぱり猫は偉大だ。
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