2.6 そして、星になる
奉仕と祈りの日々を送っていた白倉清らは縁あって団栗山高校諦念科に入学し、諦念師としての修行をはじめ、不本意な電気科との対抗戦にかりだされたあげくに、不謹慎な語を連呼させられる事態となり、心を閉ざしていた。
つねに身にまとう白い衣は邪念を遮断する聖なる古代遺物であり、首元の銀色の金具がファスナーになった開閉も自在なすぐれものである。
それを頭からかぶり、暗闇で自分との対話を続けていた清らは花織の手で急に光の元に引き出される。
「やっぱりかわいい女の子同士が組まなきゃいけませんわ」
眉間にしわを寄せる文彦を尻目に、花織は清らの白い衣を調える。
「いい生地ね、すべすべしてる。はい、よくお似合い」
満面の笑顔でせかされ、清らは首をかしげる。
「いったい、どうなっているのでしょう?」
「お気になさらないで。神さまはいつも花織の味方ですの」
清らは困惑しながらも、祈りの言葉を唱える。
乙女の祈り。
白銀の魂を持つ乙女は絶妙のプロポーションを強調しながら祈りを捧げて天の力を得て、周囲に銀色の光の雨を降らせる。
「花織、かがやいてる」
銀の光を全身に浴びて長い髪をなでると、スカートを少しめくって、白いタイツを留めるガーターベルトを外す。
タイツはくるくるとほどけていく。細い帯がひるがえり、右足からあざやかな赤いリボン、左足から青いリボンが現れる。
それらは渦巻きを描きながら上昇し、花織の背中に2枚の羽根を見せる。
先端を取って髪に編みこむ。
花のようにほほえむ。
灯里はモニターに目を走らせ分析を試みるが、数値の高まりにそれをとりやめ、残念砲を連続発射する。
「モテタ~イ」
「モテタ~イ」、「モテタ~イ」
「モテタ~イ」、「モテタ~イ」、「モテタ~イ」
期せずして同じ奇声を発しながら大量の残念弾が飛ぶ。
「花織、大人気ですわ」
晴れやかに自信に満ちて、リボンをなでる。
高らかな声を上げて、指をふる。
「
2本のリボンが交差し旋回しながら疾走する。
風を切り、地面をえぐり、土ぼこりを吹き飛ばして、赤と青がきらめく。
無数の残念弾が音もなく消滅していく。
超攻撃特化型諦念師、蝶川花織が笑う。
「数理魔法陣!」
灯里が端末を操作し、残念弾で追撃しようとする。
「
旋回する2本のリボンが灯里を飲み込んでからみあい、天に向けた円柱となる。
灯里は端末に入力を繰り返すが、まったく反応がない。
「無駄ですわ。そのリボンの内側は花織の念しか通しませんの」
メガネモニターを見る灯里の瞳が不安にそまっていく。
「
灯里の足が地面からふわりと浮き上がる。
高度を上げていく灯里を花織が目で追う。
「灯里さん、なにかおっしゃりたいことは?」
じわじわと遠ざかりながら、灯里は口をへの字に無言の抵抗を示す。
「花織さん、ごめんなさい、もうしません」
「え?」
「それで許してさしあげますわ」
学科対抗戦の趣旨と無関係な展開に、ゆたかが止めに入る。
「交流企画だから、笑って終わったほうが」
花織が指をくるりと回すと、灯里も空中でタテに回転する。
「ひいっ」
灯里のメガネ型モニターが落下して、割れる。
「花織もあなたとお友達になりたいと思ってますの」
口元で笑う花織に、灯里はがたがたとあごをふるわせた後、にらみかえす。
「バカバカバカ! うるさい! おりぼんぱんつ!」
最後の一言に花織の笑みが消える。
右手の人さし指に中指をからめ、手首を回す。
「
赤と青のリボンが激しく回転し、その中の灯里も回転する。
リボンの円柱に向けて空気が吸い寄せられる。周囲に突風が吹いて、生徒たちが悲鳴を上げる。
2色が溶け合った柱の根元がふくらみ、即座に閉じる。
圧縮された空気が噴出し、灯里が大空に打ち上げられる。
「わわわわひゃぁぁぁぁあああ!」
かぼそい悲鳴をあげ、タテヨコに回りながら昇天していく。
花織はそれに背を向ける。
「汗をかいてしまったので早退しますわ」
立ち去りながら、羊太をちらりと見やる。
羊太ははっと気づいて、その場に残る清らの呼んだ念を集める。
「スパイダーニット」
空に広げた羊毛の網に灯里が落下して何度かはずむ。
「・・・・・・こぺるにくしゅ」
灯里は学科対抗戦を通じて地球が回転しているのを身をもって学んだ。
電気科男子たちはリボンに打ち倒されたまま、灯里に力なく手を伸ばす。
「よくやった。諸君らはよくやった」
丸山先生は電球が切れたように顔色を失ったが、生徒をねぎらう。
「よし! 勝利! 完全勝利! よくやった。禍を転じて福となす、人生万事塞翁が馬、結果オーライ、すべてよし」
深見先生が手をたたいて、諦念科の生徒たちを賞賛する。
「いいぞ。諦念師は基本的に2人1組だ。あいつがしっかりしてれば楽に勝てたのにとか考えるな。反省は控えめに。人間関係を悪くすると技に影響するからな。自分も他人も甘やかせ。そういう業界だ」
深見先生が重要な注意事項を強調する。邪悪な念を残さないように電気科への挨拶も忘れない。
学科対抗戦は諦念科の勝利で幕を閉じた。
この後、白倉清らの発議により学級会が開かれ、結果として級長・神妻舟が「下ネタ制限令」を発令した。
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