2.3 白銀の乙女は雨を降らせる
神妻舟の薬指1本で電気科の機材は壊滅し、人員も試合が継続できる状態ではない。
「こわがらせたなら、もうしわけない。これからは諦念科も電気科もなかよくやっていこう」
舟の紳士的な態度にゆたかや諦念科の生徒たちは感心のまなざしを向ける。
「それでこそ、ワシらのリーダーじゃ」
太鼓を破壊されたが、大吾もうなずく。
灯里はギリギリと歯をかむ。
「よくもバカにしてー」
灯里がよろよろと立ち上がり、作業服のポケットから小型の機械を取り出す。
「数理魔法陣!」
スマートフォン状の装置に指をすべらせると、無数の緑色の図形が発現する。
「残念は十分にたまってるんだから」
灯里はポケットがたくさんついた作業服からメガネを出し装着する。レンズに情報が示されるモニターになっている。
「おお! 灯里ちゃんメガネモードだ!」
電気科の男たちも息を吹き返す。
「みんなで応援だ。ネコ耳の灯里ちゃんに蹴られたとか、パジャマ姿の灯里ちゃんに説教されたとか妄想して念を送るんだ」
「バカバカバカバカバカのバカ!」
灯里はばたばたと床を踏んでいやがる。
ちほが指でスコープを形づくる。
「新たな残念砲の念が高まっています。『テスト前だけど5分アニメならいいだろと気がついたら全話繰り返し2回もみていた』級の残念です」
「あの、個人的なことは・・・・・・ ゆたかくん!」
「は?」
「ツラーイヨォォォ!!」
すっかり油断して間抜けな顔をしていたゆたかに向けて一直線に残念砲が飛ぶ。
しかし、肩をかすめて斜めうしろの男子生徒に当たる。
「ぞげっ! 出番もないのに・・・・・・」
特に紹介もないまま、
「第二波、来ます! 『先週の日曜に・・・・・・』」
「アタタメテェェー!!!」
ちほの測定を待たず、うらみが結集した残念砲が発射され、暗い声が迫る。
「清らさん、よけて!」
清らはその場を動かず、ただ片手を挙げ、手の平で残念砲弾を受ける。
灰色の爆風が一帯を包み、生徒たちが圧力に押される。
にごった煙の中、清らは白い衣をゆらして、静かに立つ。
「人を傷つけるのは悲しいことです」
清らが瞳をくもらせると、舟が声をかける。
「まずあの装置を止めてから話し合うってことでいいかな」
「主もお許しになるでしょう」
「数理魔法陣、多重展開!」
清らと舟が組むのを見て、灯里は複数の数理魔法陣を合成し、大型の残念砲を出現させる。ぶつぶつと文句をつぶやく大男の姿が現れていく。
「なんかものすごく不満を持ってそう・・・・・・」
世音がおびえる。
清らはそれを見て、かなしげに目をふせる。
「乙女の祈り」
にぎった右手を左手でおおって胸にあて、あごをひく。
深見先生が他の生徒に指示を出す。
「よく見ておきなさい。舞踏や楽曲でなく、天に祈ることで直接に天の力を得る、白銀の魂を持つ乙女」
「乙女、いいモノ持ってましたよ」
ちほが清らに抱き寄せられた感触を思い出して後頭部をなでたのを、深見先生がにらむ。
「本来ならば、聖女様だ。会うこともできん」
清らが首元にある銀の金具を上下にすべらせると、衣が縫われたようにつながる。
純白の聖衣につつまれて、目を閉じる。
「主よ、あまねく災い満ちる世に、われこの身いつわりなく、すべてを捧げます」
祈りに続けて、空に銀色の霧がかかる。
清らが両手を開くと、白い衣が体にまといつく。
空気を抜かれた袋のように縮み、体の曲線が浮かび上がる。
衣を合わせた線が体の中心に走る。
砂時計のように、細くくびれた腰があらわになる。
「荒れ野に慈愛の雨を降らせたまえ」
霧を割って、空から光が射す。
静かに、あたたかく、銀の雨が降る。
「モウイイカモ~」
大型残念砲弾が銀の雨を浴びて、残念が浄化され崩れていく。
「天使だ」
諦念科の生徒たちからため息がもれる。
荘厳で輝かしい姿に目を奪われる。
電気科の者たちも動作を止める。
舟の術も始まらない。
静寂の中、清らが目を開くと、残念と向き合っているはずの舟と目が合う。
「あの、舟くん?」
正確には、視線は合わず、舟の目はやや下を向いている。
放心したように清らの肢体に目を奪われている。
立てた薬指から貴重な銀色の念がだらだらともれている。
舟がはっと気づく。
「あ、礫」
あわてて発射した玉はまったく見当違いの方向に消えていく。
「乳ね」
「尻よ」
世音と風貴が顔を見合わせてつぶやく。
「頭脳明晰、冷静沈着、指導力に富み、正義感強く、でも、女に弱いと」
「ヒーローに弱点はつきものです」
深見先生の分析にちほが返す。
「いや、あの、ぼくはずっと田舎で修行ばかりしていたから、その、きれいな女性は見たことがなくて・・・・・・」
「もう」
苦しいいいわけに、清らは白いほほを赤くしながら、胸元の金具にふれると、衣が空気を吸ってもとにもどる。
「乙女の祈り」は心身の消耗がはげしく、当分は戦線に復帰できない。
「はい。残念砲」
「イロイロタァイヘンダヨーーー!」
灯里の無情な攻撃が舟に直撃して転倒させる。
「だいじょうぶ?」
「まったく問題ないよ。ただ、ちょっと精神的にね・・・・・・」
舟はすぐに立ち上がるが、表情が晴れない。
「ともかく、反撃しなくちゃいけないけど、呼び手は連続して術を使えないから、時間をかせがないと」
そこで、ゆたかが前に出る。
「だいじょうぶ」
ゆたかが親指で自分の胸を指す。
「ぼくがいるじゃない」
「・・・・・・そうだね」
舟が他の生徒たちに声をかける。
「ぼくが残念砲を防ぐから、みんなはゆたかくんを・・・・・・応援して」
諦念科一同はあいまいな笑顔でうなずく。
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