第2話 後見人
うっ・・。なんだ・・?
気持ち悪い・・!。
「ようやく気がついたようだな・・。」
轟が目を開けると、目の前には二人の男が座りこちらを見ていた。
・・・そうだ!! 確か俺は鎧を着た男に殺されそうになって、それで・・。
「こ、ここは・・! うっ! おえぇ・・。」
「はははははっ! ここは私の魔導車ディードイルの中だ。馬車よりも早いのだが揺れがひどくてな・・。初めて乗る者は総じてそなたのように気分を害するのだ。」
二人の内、轟の前に座る男が笑いながら水の入ったグラスを手渡す。
あれ、この声・・。
そうか! 気を失う前に俺を殺そうとした奴から助けてくれた・・。
「そ、そうなのですね・・。」
「それよりも先ほどは命を助けて頂きありがとうございました。」
轟の言葉に、男は少し驚いた表情を浮かべると、再び大きく笑いだす。
「ハハハハハッ! 流石はブルトワ子爵家、その年でこうも丁寧に感謝されるとはな。」
「・・ブルトワ子爵家?」
なんだ?? この人が言ってることが全く分からない・・。
しかもよく見ればどう見ても日本人じゃないよな・・?
「・・もしやそなた、何も覚えていないのか??」
轟の表情を見た男が静かに尋ねる。
「はい・・。何故私が襲われたのか、ここがどこなのかも全く・・。」
「なるほど・・。いや、あのようなことがあった後だ、無理もない。」
「ウェスター、書類を。」
男の言葉で隣に座っていたもう一人の髭の生えた初老の男が紙を手渡した。
「そなたの名はリリアン・ブルトワ。ブルトワ子爵家の一人息子だ。貴族は全員が貴族院に登録されているからな、勝手だがそれを使い調べさせてもらった。」
男は轟の首に掛けてあるネックレスの先を指さす。
なんだこれ?? 気が付かなかった・・。
それにネックレスに付いてあるこの金属板は・・。
「それはいわば身分を証明する物だ。貴族に子が生まれると、魔導士によってそれが作られ、肌身離さず身に着けることが義務付けられる。しかも一つとして同じものはない。私も持っているがどうだ? 少し違うだろう??」
男はそう言うと、鎧の中からネックレスを取り出し先の金属板を見せる。
確かに似ているが少し違う・・。
「そしてそなたがいたあの場所がブルトワ子爵家の屋敷だ。先日私の元に敵襲を受けたため救援を求める魔通信が入ってな・・。最短距離で駆けつけたのだが一歩遅かった。」
「襲った者達の装備から恐らく帝国が攻めて来たのだろう・・。」
「残念なことにそなた以外のブルトワ子爵家の者は全て死亡が確認された。他の者を救うことが出来ず、申し訳ない・・・!」
男は頭を下げ謝罪する。
「あ、頭をお上げください。私はあなたに助けられました。お礼を言わなければいけないのはむしろ私の方で・・。」
それに家族って言われてもなー・・。
俺にとっての家族は田舎で畑仕事をしてる両親だしな・・。
だがこれで帝国と呼ばれる国家の存在は確認できたな。
「そう言ってもらえるとこちらとしてもありがたい。」
「そうだ、自己紹介がまだであったな! 私はゴルバルト・バーリントン、一応伯爵家の当主を務めている。」
「隣にいるのが我が家に仕えているウェスターだ。」
ゴルバルトの言葉で、ウェスターは轟に頭を下げる。
伯爵家・・・? 貴族の爵位だと確か子爵家よりも高位・・!
「こ、これは申し訳ありません! 知らぬこととはいえ伯爵様にご無礼なことを・・!」
「ハハハハハ、よい! 子供は子供らしくすればよいのだ。それにブルトワ家は今でこそ子爵家だが、元は王室にも連なる名門。その様な気遣いは無用だ。」
王室・・。貴族と聞いて薄々思っていたが、やはりここは王国なのか。
でもこの人の服装や武器は中世~近世だが、この乗り物どう見ても初期の自動車に近いよな・・。
うーん、まったく分からない・・。
ガタンッ・・。しばらくすると車体が大きく揺れ、
「伯爵様、屋敷に到着致しました。」
「そうか。ご苦労であった。」
「兵達にはゆっくり休むように伝えよ。」
ガチャ・・。 扉が開現れた男にゴルバルトはその様に伝えた。
「さぁ、そなたも降りよ。我が屋敷に招待しよう。」
ゴルバルトがウェスターに目配せをすると、ウェスターは轟側の扉を開く。
なんてでかい屋敷なんだ・・!!
俺がいた屋敷も大きかったが、ここは桁違いだ!!
轟は魔導車ディードイルから降りると、目の前に広がる広大な屋敷に言葉を失った。
「では参ろううか。」
ゴルバルトは大きく笑い声を上げ進み始めると、轟もそれに続き屋敷へと歩き出した。
『お帰りなさいませ、伯爵様。』
ギィィィ・・・。 ゴルバルトの二倍はありそうな扉がゆっくりと開くと、十人以上のメイドたちが出迎えていた。
「あなた、お疲れ様です。」
「お父様ー!! お帰りなさい!!」
メイド達の先頭には美しい金髪の女性と、12~3歳と思われる女の子がゴルバルトを出迎える。
「おぉミリア、留守にして悪かったな。私がいない間、変わったことはなかったか??」
「えぇあなた。屋敷の者全て変わりなく。」
ゴルバルトが女性に駆け寄り矢継ぎ早に尋ねると、女性は笑みを浮かべながら答えた。
「もぉ!! いつもお父様はお母様ばっかり!!」
「ハハハハハ、すまんな。マリーも変わらぬようで何よりだ。」
「あはははは、くすぐったい!」
ゴルバルトは頬を膨らませるマリーを抱き上げ、出発する前には無かった髭をその頬に当てた。
「そうだ、今日はお前達に会わせたい者がおるのだ。」
「リリアン、こちらへ。」
ゴルバルトの言葉で轟は扉の後ろからゆっくりと姿を見せる。
「きゃぁぁ!! 何この子、可愛い!!」
「うわぁぁぁ!!」
マリーはその姿を見るやいなや、轟へと飛びついた。
痛ってぇぇ・・!!
でもこの当たっている感触は・・!
轟は自身の顔を埋める柔らかい感触に全神経を注ぐ。
「あなたこの子は・・?」
「ああ、ブルトワ子爵家のリリアン・ブルトワだ。彼以外の者は既に・・。」
「そう・・。」
ミリアはゴルバルトの言葉を聞くと、目の前に倒れている男の子をじっと見つめた。
「さぁ、そこまでにしなさいマリー。お客様にご迷惑ですよ?」
「えぇー・・。分かりました・・。」
マリーはミリアに振り返るが、その顔を見てゆっくりと轟から離れる。
おっと・・、残念・・。
いやいや、助かったようやく息が出来る・・!
「さぁさぁ、全員無事に帰ってきたことです。食事の準備も出来ていますから広間へ参りましょう。」
「あなた、子供達を先に案内して?」
「かしこまりました、奥様。」
ミリアに指名されたメイドの一人は頭を下げると、轟とマリーを連れ屋敷の奥へと進んでいった。
「あなた、あの子はこれからどうなるのですか?」
轟達がいなくなるのを確認したミリアがゴルバルトへ尋ねる。
「リリアンにはもう後見人となる親がおらん。そうなるとどこかの貴族の養子となるのが通常の流れだ。」
「リリアンはあのブルトワ家の血を引いている。養子にしたがる貴族は多くいるだろう。だが・・。」
「あなた? 正直に言ってください。もうお心は決めておられるのでしょう??」
ゴルバルトはミリアの言葉に驚いた表情を浮かべた。
「・・・ハハハハハ。お前には敵わぬな! こうも私の心を見透かされているとは。」
「ふふふっ・・。何年あなたの妻をしていると思っているのですか。」
「それにあの子の姿、そっくりなんですもの。」
「・・・そうだな。」
ゴルバルトはそう言うと、首にかけるもう一つのペンダントを取り出しそこに収められている写真を見つめる。
そこにはロイの容姿に酷似した青年の姿が写っていた。
お前が死んでからもうすぐ8年か・・。
彼はお前の生まれ変わりなのか?
なぁ、ダリアン・・。
ゴルバルトはペンダントを握りしめると、ミリアと共に屋敷の奥へと歩いていった。
「なんだこれ・・!」
轟の前には目にしたことがない豪華な料理が並べられていた。
すごい! これが貴族の食事なのか??
中央にはよく分からない動物が丸焼きで置かれてるし・・。
そんな目で俺を見ないでくれ・・。
「待たせてしまったな。」
バタンッ。 部屋の扉が開き、鎧から服へと着替えたゴルバルトがミリアと共に入ってきた。
「もう、遅いです! 私お腹が空きました!!」
「ハハハハハ、すまんな!」
「マリー、はしたないですよ? あなたはもう少し、しとやかさを身につけなさい。」
「・・・・はい。」
ゴルバルト達はメイドが引いた椅子に腰かける。
なんとなくだがこの家族の力関係が分かってきた気がする・・・。
恐らくあの母親が影の支配者なんだろうな。
「さぁ、それでは食事を始めよう。」
ゴホンッ・・。 ゴルバルトの言葉でマリーは食事を始めようとするがミリアが咳払いでそれを制止した。
「そうだ、その前にリリアン。そなたに言いたいことがある。」
「・・何でしょうか?」
ゴルバルトの真剣な表情に、轟も姿勢を正す。
なんだ話って・・・?
まさか俺殺されるんじゃ・・。
「そなたは家族を失った。ツラいだろうがこの世の中、後見人となる親がおらねば生きてはいけぬ。」
「既に貴族院には報告している。近いうちに養子先となる貴族も見つかるだろう。」
「・・そうなのですね。」
確かにその通りだ・・。
俺はなぜかリリアン・ブルトワという子供に乗り移ってしまった。
過去に来てしまったのか、それとも異世界に来てしまったのか、いまだ全く何も掴めていない。
だが子供が生きていくなら、保護者が必要になる。
貴族ならなおさらだろう。
「そこで相談なのだが、我が家の養子になるつもりはないか??」
「へ?!」
ゴルバルトの予想外の言葉に、轟の声が裏返る。
「養子となる場合、本人の意思が最も尊重される。そなたが私達の養子になりたいと望めば恐らく認められるだろう。」
「どうだろうか? もちろん無理強いはしないが・・。」
「すごい!! リリアン、そうしましょうよ!!」
マリーがゴルバルトの提案に目を輝かせる。
ゴルバルトさんの養子・・。
確かにこの家の人達は俺に好意的だ。
だが他の貴族がそうとは限らない。ブルトワ家の血筋を利用したいだけかもしれない。
いや、それはゴルバルトさんも同じと考えられるが・・。
轟がミリアにも視線を向けると、ミリアは笑みを浮かべ頷く。
この人達はそれ以外の何か別の理由がある気がする・・。
轟はしばらく考えた後、結論を出した。
「・・・いいのでしょうか?」
「あなた方の家族になってもいいのでしょうか?」
「ハハハハハ、もちろんだ! のぉ、ミリア!」
「えぇ。こちらからお願いしたいくらいです。」
ゴルバルトとミリアは轟の言葉に笑みを浮かべながら答える。
「うわぁ!! 弟が出来るなんて!! それにこんな可愛い弟が!」
マリーは席を立つと、轟の頭に抱き着いた。
「こらマリー! またあなたはそんなことを・・!」
「ハハハハハ、よいではないか。今日は新しい家族が出来た祝いだ、大目に見てやれ。」
「はぁ・・。分かりました、今日だけでけですよ?」
ミリアは轟に抱きつく娘を見て、小さくため息をついた。
これでいいんだろうか・・・?
でもこの世界の事を知るためには伯爵家の後ろ盾があるのは色々都合がいいかもしれない。
それに魔法という存在・・。上手くすれば俺の夢も・・。
轟はマリーによって頭を揺らされる中、この世界でリリアン・ブルトワ・・、いや、リリアン・バーリントンとして生きていくこと、前の世界では達成できなかった航空機製作という夢をこの世界でも追いかけていくことを胸に誓ったのだった。
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