SKY CREATOR
@peroronpe
第1話 転生
キーン、コーン・・。
チャイムが響き渡ると、教室の中へ一人の男性が入ってくる。
「はい、では本日の講義を始めます・・。」
「まずはテキスト103ページ、ローマ帝国の編纂について・・」
男はそう言うと黒板に向き、恐らくほとんどの者が聞いてはいないだろう歴史の講義を始めた。
この教室にいる多くの者は単位のために出席している者がほとんどであり、教鞭をとる男もそのことは百も承知である。
「・・・1077年に起きたこの出来事をカノッサの屈辱と・・」
はぁ・・。今日も出席率が悪いなぁー・・。
まぁ俺の講義は出席も取らないし、試験も簡単にしている。
こうなるのも無理ないか。
俺の名前は轟翔とどろきしょう、36歳。東京にある、ここ帝人大学で准教授として歴史を教えている。
俺の講義は簡単に単位が取れる、略して「楽単」と言われ、このようにほとんどの生徒は真剣に聞いていない。
まぁ、その辺りは自覚しているし全く問題ない。むしろ真剣に聞かれた方が逆にしんどい・・。
この位の生徒数、真剣さがちょうどいい・・。
キーン、コーン・・・。
「では本日の講義はここまでとします。」
ガラガラ・・。轟はチャイムが鳴るといつものようにすぐさま教室を後にし、自身の教授室へと戻ろうとした。
「先生! 今日の講義の事なのですが・・。」
一人の女生徒が轟の元へと走ってくる。
はぁ・・。またあの子か・・。
「はい、何でしょうか?」
轟は小さく息を吐くと、満面の笑顔で生徒へと振り返った。
「はい、カノッサの屈辱の発端となったハインリヒ4世の・・・」
この生徒は立花里香たちばなりかといい、俺の講義を真剣に聞いている数少ない生徒だ。
このように講義が終わると毎回俺に分からなかった個所を質問にやってくる。
はぁ・・。時間が無くなるから面倒なんだが、生徒の手前無下には出来ないしなぁ・・。
「なるほど!! 先生、ありがとうございました!!」
「いえいえ。今後も頑張ってくださいね。では。」
轟は里香に頭を下げると、足早にその場を後にした。
「ねぇ里香。なんであんな教授が好きなわけ? まぁ確かに単位は簡単に取れるみたいだし楽なんだけどさ。」
里香の元に背の高い女生徒が現れる。
「そう? あの幸薄そうな感じがいいと思うんだけどなぁ。」
「はぁ・・。やっぱりあんたの趣味は理解できんわ。それよりほら、学食に早く行こ。」
女生徒はそう言うと、里香の肩を持ち食堂のある棟へと歩いていった。
その夜。
「ふぅ・・。やっと終わった。」
ドサッ・・。轟は自身の家に到着すると、整理された部屋に置かれているソファーへと倒れこんだ。
あぁー! 大学の教授がこんなにしんどいなんて思わなかったー!!
論文も書かないといけないし、全然時間が足りない・・。
「はぁ、だめだ!! ストレスで頭がおかしくなる。こんな時は・・・。」
ガチャッ・・。轟はしばらくしてソファーから立ち上がると、もう一つある部屋の扉を開き電気をつける。
「はぁ、やっぱりこの部屋は癒されるなぁー・・。」
パッ!! 電気に照らされた部屋には、自動車、バイク、戦艦などの船舶、そして部屋の大部分を占める航空機のプラモデルがそこら中に飾られていた。
「それじゃ、仕上げにかかるとするか。」
轟が腰かけた椅子の前にある机の上には、ほとんど完成している戦闘機のプラモデルが置かれている。
やっぱり航空機はかっこいいよな・・!
この空気抵抗を考えたフォルム! この中には人類の英知が全て詰まっている!
そう、俺 轟翔とどろきしょうは自他ともに認める航空機オタクなのである!
俺が出来るだけ講義を早く切り上げるのは、一秒でも多くプラモに囲まれたいからだ。
航空機は・・・、いや、この話はまた今度にしておこう。
「・・・ふぅ。やっと終わった。」
コトッ・・。 しばらくして轟がプラモデルを置き時計を見ると、既に23時を回っていた。
「もうこんな時間か・・。論文を書かないといけないし、今日はこの辺りにしておこう・・。」
もういっそのこと大学をやめようかな・・。
そうすれば講義や生徒の質問、その他に費やす時間を全てプラモ製作に注ぐことが出来る。
ふっ・・。轟はそこまで考えると、小さく笑った。
そんなこと出来るわけないのにな・・。
無職じゃプラモを買うことも出来ないし、何より・・・。
轟は隣の机に置かれているパソコンの電源を入れ、一つのファイルを開く。
【航空機製作 参考】
その言葉と共に多くの航空機の設計図、写真、その他多くが映し出された。
そう、いつか原寸大の航空機の模型を作るのが俺の夢だ。
そのためには大学教授だろうと何だろうとやってやるさ!!!
轟は映し出されている様々な時代の航空機を見つめながら口を緩ませると、パソコンの電源を落とし、論文を書き上げるため部屋を後にした。
翌朝。
「ふあぁー・・。眠いな・・。」
あの後論文を書き上げることは出来たが、1時間も眠れなかった。
まぁ、幸運にも明日は休日だ。帰ったらすぐに寝て、明日は航空機の図面でも書いてみようかな。
「先生! こんな時間に珍しいですね!」
「これは立花さん、おはようございます。」
轟の元に、後ろから里香が駆け寄ってきた。
「少し寝坊してしまいまして・・。講義が午後から出助かりましたよ。」
「はははは。先生でもそう言うことあるんですね!」
二人はしばらく歩いていくと交差点にある信号で立ち止まった。
この子はなんでいつも俺に構ってくるんだ??
まさか俺からお金を巻き上げようっていうんじゃ・・。
「先生? 青ですよ、早く行きましょう?」
「あ、そうですね。」
里香は轟を見ながら、後ろ歩きで横断歩道を歩いていく。
「立花さん、ちゃんと前を見ないと危ないですよ?」
「大丈夫です! 私は後ろにも目が付いているので!!」
ハハハハハ。 里香は笑いながら轟に答える。
いや、そんなわけないだろう・・。ここは止めさせるべきだな・・。
・・・ん? あれは・・・。
ブォォォォォォ!! 轟が道路へと視線を向けると、どう考えてもスピードが出過ぎている自動車が前方からこちらへと突っ込んできているのが目に入った。
おいおいおいおい・・! まじかよ!!
「立花さん! 危ない!!!」
ドンッ!!! 轟はとっさに里香へと走り出し、力いっぱい突き飛ばす。
「きゃぁぁぁ!!」
里香は吹き飛ばされた衝撃で頭を打ち、気を失っているようだった。
よし、あそこなら車はギリギリ大丈夫だろう。
俺も早くここから離れないと・・。
「・・・ッ!!!」
ぐらっ・・。轟が立ち上がろうとすると、視界が歪む。
なんだ・・? くそ、こんな時にここ数日寝不足のつけがきたってのかよ!!
嘘だろ?? こんなとこで俺は死ぬのか??
轟が車へと視線を向けると、すぐそこまで迫っていた。
ドンッ!!!!
凄まじい衝撃と共に、轟の意識は途絶えていった。
「・・・・・はぁっ!!!」
轟が目を覚ますと、そこは薄暗い蝋燭の光に照らされた部屋だった。
なんだ?? 一回死んで霊安室にでも入れられたのか???
そうならまず無事なことを伝えないと・・!
ズルッ!! 轟が立ち上がろうとすると、床に広がる何かに足を滑らせた。
「・・・なんだよこれ!!!」
轟の周りにはおびただしい血痕と、複数の死体が転がっていた。
「一体どうなってんだ・・。」
ま、まずここを出よう。
それから今後のことを・・。
ガチャッ・・。轟は遺体に当たらないように部屋の端まで進んで扉を開くが、そこで自分の異変に気が付く。
あれ・・? なんでこんなドアノブと目線が近いんだ???
それにこの手・・。どう見ても大人のものじゃないだろう・・!
「くそ! 今は外に出るのが先だ!!」
轟が部屋から出ると、そこには石造りの大きな廊下があった。
「やけに広い部屋だな・・。」
それに電気もないし、一定の間隔で蝋燭が置いてあるだけ・・・。
一体ここはどこなんだ??
轟が廊下をしばらく歩いていくと、大きな広間が現れ、そこには人影が一つ見ることが出来た。
「・・・おーい。すみません!!」
バッ!! 人影は轟の声に振り返ると、金属音を響かせながらゆっくりと近づいてくる。
・・・な、なんだ??
人影が窓から差し込む月明かりに照らされると、そこには鎧と思われるものに身を包み金属棒を持ったマスクの男が現れた。
「生き残りがまだいたのか。敵も既に到着している。悪いが子供とて見逃すことは出来ん。」
バンッ!! マスクの男が金属棒を轟に向けると、その先端が光を放つと同時に何かが轟の頬をかすめる。
「ちっ! 外したか・・。」
な、なんだ・・? 頬が熱い!!
轟が頬を触ると、その手には血が付いていた。
ち、血?? てことはあの金属棒は銃か・・!!
なんで日本で銃持ってるやつがいるんだよ!!!
それに子供って言ったよな??
ガチャガチャ・・。何が起きているのか掴めない轟を尻目にマスクの男は手元で新たな玉を込めている。
「・・・元込め式。単発銃か・・?」
よく見れば、以前戊辰戦争時の銃を手に取ったことがあるが少し形が似ている気がする・・。
一発しか打てないのなら逃げるチャンスは・・。
「くそっ!!」
轟は通ってきた廊下に誰もいないのを確認すると、力の限りその方向へと走り出すが、それに気づいたマスクの男にすぐに捕えられ床へと倒れこむ。
「・・悪いな、坊主。」
ガチャ・・。 轟が頭を上げると、既に銃口がこちらを向いていた。
くそ、ここまでか・・!!
ドォンッ!!
「く、くそ・・。さっきの音を聞かれた、か・・。」
ドサッ!! 轟が目を開けると、自身の隣に先ほどまでのマスクの男が倒れこんでいた。
「敵兵、これで全て倒しました。」
「君、大丈夫か?? 伯爵!! 生き残りを発見しました!!!」
轟の元に先ほどの男とは違う鎧を纏った兵士が数人近づいてくると、頬の怪我に布を当てる。
「・・生存者がいたか。この子以外は??」
「はっ! 今だ発見されておりません!!」
「そうか・・。ここは私が引き受けよう。お前達は引き続き敵兵と生存者の捜索を続けよ!!」
『はっ!!!』
兵士達は後ろからやってきた男に敬礼をすると、広間を後にした。
俺は助かったのか???
少なくともこの人達は敵ではなさそうだが・・。
「そなたの顔は・・。いや、それよりも怪我をしているようだな・・。」
ブゥゥゥ・・。男が武器を置き左手を轟の頬に当てると、その手は光を放ち始める。
「よし、これでいいだろう。」
なんだ、痛みが・・・。
轟が頬に手をやると、先ほどまであった傷が綺麗に消えていた。
「え・・、なにこれ・・・。」
「なんだ、魔法を知らんのか??」
魔法・・? そんなものあるないいだろう!!
え、あるの???
「ではそろそろ参ろうか。立てるか?」
「あ、は、はい!」
あれ・・・?
ぐらっ・・。轟が立ち上がろうとした瞬間、再び視界が歪みそこで意識を失った。
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