本編

〇話

#0「かこからはじめる、ものがたり」

「アレハ、ゴコクエリアダネ――」





例えば、実験のために研究施設へと連れていかれた女性が、若返り、何も食べずに数年を過ごしたとする。





――それはボクが、キョウシュウエリアで生まれる、十数年前に起きた出来事だった。

とある研究施設、その一室で、大爆発が起きた。

死傷者は7000人を越え、連日、報道陣が挙ってその場所へと詰め寄った。

だが、その事故から数日後、政府はその研究施設がある区域で住み、働く多くの人々に避難勧告を出した。

その研究施設の中にあったウランから排出された放射能の量が、基準値を超えてしまったのだ。

超えた量は少なかったものの、放射能が収まり切るまでは数ヶ月を要した。

やがて政府の避難勧告は解除されたのだが、その研究施設を受け持つ委員会の驚くべき発表に、日本……いや、世界中が目を見開いた。

なんと、あの爆発を受けながら、数ヶ月食物の摂取も行わずに生き抜いた女性達が複数人いるという発表。

だが、長い間放射能に晒されていたためか、その姿は通常の人間とは異なって――……


……いや、そもそも人間ですら無かったのだ。

それは動物が、人間の女の子の様な姿になった生命体。

後にフレンズと呼ばれる、アニマルガールの誕生。

既に跡地となってしまった研究施設の中から最初に出てきた彼女は安易に、その元の動物の種の推測からこう名付けられた。

“サーバル”と。

彼女サーバルは、研究施設から出てきて間もなく、別の場所にある研究施設へと連れて行かれた。

彼女の安全は保証されたが、その後に潜むリスクに、誰一人気付く事はなかった。


……そして数ヶ月が経ち、学会は記者会見を開いた。

そして彼らはそこで、驚くべき発表をした。

数ヶ月、ウランから排出されていた放射能。

なんと、その放射能の影響により、研究所内で別室に保管されていたIPS細胞が異常をきたし、複数の新たな元素を作り出したというのだ。

そして、その新元素の一つ、サンドスターが、動物だった彼女……サーバルに触れ、現在の姿へと変貌させたのだった。

そんな発表から数年が経ち、サンドスターはどんどん増殖を続けていた。

それに伴って、ヒトの姿へ変貌する動物の量も、次第に多くなって行った。


やがて彼女らは、その友好的な性格から、こう呼ばれる様になった。

“フレンズ”と。

そして更に1年後、研究施設があった区域……その跡地に、1つの施設が建設された。

その施設こそ、現ジャパリパークの原型となる、ジャパリ動物園だった。

フレンズとなった動物達が世界中から集められ、人間のように暮らす場所。

最初は規模も小さかったのだが、新種のフレンズが見付かる度に、その規模はどんどん拡大、現在のジャパリパークの広さにまで成長した。

そして、ジャパリ動物園として開業して十年後、1人のヒトが、ジャパリパークに革命を起こしたのだという。

……最初は飼育員として働いていたその職員……“ナナ”……そんな名を持った人物は、一つのエリアを残して、十一もあるエリア内の、ほぼ全ての設備を撤去し、より野生に近い生き方が出来る環境を作りあげた。

だがそれが皮切りとなり、それまで研究員達に抑えられていた闇の勢力が逃げ出し、増殖を始めた。

だがそれは、なんとかパークの園長とサーバルたちが収めた。

だが、幾年かの時が経ち、彼らはまた動き出した。

より強く、俊敏になって。




これは、そんな戦いの真っ只中に生まれ、サーバルとのキョウシュウエリアの旅を終えた、ボクの――




――かばんの、物語。






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