第44話 亡者の遺言
グレンの刃は重厚な甲冑ごと、ボルゾフの右肩から胸部を抜け、左の脇腹までを袈裟懸けに切り裂いた。
余りに体格差が大きかった為か、完全な両断は出来なかった。
たが、腹の傷口からは内蔵と共に、大量の血液を垂れ流している。
ボルゾフは片腕で傷口を押さえ、もう片腕と両膝を地に着いた。
「ごばっ!・・・ぐっ・・・うっ・・・」
口から大量に吐血し、呼吸が荒い。
最早、落命までは時間の問題だ。
「素晴らしい・・・グレン・・・本当に、よくぞ・・・その若さで・・・そこまで練り上げた・・・ものだ」
荒い呼吸の合間と合間に、勝者であるグレンを、手放しに褒め讃える塞将ボルゾフ。
「申し訳ありません、ボルゾフ将軍。即死させられませんでした。今、止めを・・・」
「いや・・・いいんだ・・・」
ボルゾフはついに自身の体を支えられなくなった。
そのまま仰向けに倒れ込む。
「しばらく、苦しむことになりますよ・・・」
「ふっ・・・亡国の・・・苦しみは・・・こんなものでは・・・なかった・・・私は、無駄に・・・生き長らえて・・・しまったんだ・・・今まで・・・」
「え?」
「隊長、聞いてやれ」
「ヴォルゲン?」
「かつての・・・❝ガルディア王国❞の英雄の最期だ」
「あぁ・・・そうだな・・・」
「あの時、家族を・・・部下を、人質を取られた私は・・・戦いもせず、敵に降った・・・だがボルドは、違った・・・戦った・・・戦ったんだ!・・・自分も傷ついて・・・大怪我を負っていたのに・・・最後まで・・・殿を務めたんだ!」
過去の亡国の悪夢が、ボルゾフの脳裏に蘇る。
「ボルドは・・・やはり、私の憧れだよ・・・常に、誰よりも強かった・・・・・・私も❝皆❞も・・・アイツみたいに・・・なりたかったんだな・・・」
グレンとヴォルゲンは、静かに聞き続ける。
「グレン・バルザード・・・」
「はい」
ボルゾフの呼び掛けに、グレンは素直に応える。
「お前は・・・私みたいに、なるな・・・」
「・・・ええ」
英雄からの忠告を受ける。
「ボルド・・・済まなかった・・・」
大将軍ボルドへの謝罪の言葉を遺言に、帝国軍塞将ボルゾフ・グラバス・オイゲンは敗死した。
「・・・・・・ヴォルゲン」
「あぁ、良いのか?」
「直ぐにやってくれ」
「わかった、任せろ」
ヴォルゲンは大きく息を吸い込み、叫ぶ。
「帝国塞将、ボルゾフの首!我らが“戦闘龍”、グレン・バルザード隊長が!!自ら討ち取ったぞォオオオオ!!!」
城塞内に、歓喜の叫びが鳴り響いた。
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