第31話 本命の今頃 

「きっついなこの崖・・・!」



「黙って登れ、右翼はとっくにやり合ってんだぞ・・・」



右翼のブラド隊が必死に敵を引き付けている時、グレン率いる左翼部隊は、頑張って崖を踏破している所だった。



「くっそ・・・こっち・・・外れだったかな・・・右翼は・・・飛び降りるだけだもんな・・・」



「何なら今飛び降りさしてやっても良いぞ、ガラン」



「ばか言え・・・身内に殺されてたまるか・・・せめて戦闘中に死ぬわ」



「お前が死んだら子供は片親だぞ、ガラン。まだ二歳だろ」



その隣を頑張って登っているヴォルゲンからツッコミが入る。



「しかし・・・キツイなこの崖は・・・」



「だから元々見張りが手薄らしいぞ、斥候の話だとな」



上を見ると、とっくに登りきっているアイラとエリアが手を降っている。



「ガラン見ろよ、頑張れってさ。可愛い後輩達が」



「俺は・・・アイツ等を・・・可愛いと・・・思ったことは・・・・・・無い」



息も絶え絶えだが、自分の主張ははっきりとしているガラン。



「よいしょっと・・・よしガラン手ぇ出せ」



先に登りきったグレンが、天に召されそうなガランを引き上げる。



「ガラン大丈夫かお前、今から戦うんだぞ?」



続いて登りきったヴォルゲンが、水を飲みながら心配する。



「俺にも・・・それ、くれ・・・ヴォルゲン・・・」



「全部飲みきっていいぞ」



ゴクッゴクッと、一気に水袋の中身を飲み干すガラン



「何とか、大丈夫だ・・・戦える」



「礼を言えよ、まずはおまえ・・・」



「ありがとな、ヴォルゲン」



グレンの真っ当な突っ込みを受け、ヴォルゲンに感謝の意を伝える。



「隊長、まだ行かないの?」



先に登りきっていたアイラが尋ねてきた、すごく涼しい顔で。



「別に一人で行っても良いぞ、俺らはもうちょっと集まって来たら出るから。何なら一人で敵皆殺しにしてきてくれや。頼んだぞ?」



アイラを全く見向きもせずに答えるグレン。



「またそうやって意地の悪い事を言うなよ、グレン・・・」



辛辣な物言いのグレンをなだめるヴォルゲン



「ヴィクトル、今どのくらい登り切った?」



「・・・・・大体、七割ほど・・・です・・・・はい・・・」



今にも死にそうな顔のヴィクトルが答える。



何とか死に物狂いで登りきった上に、数を数え報告したのだ。



素晴らしい職業意識と言える。



アイラに見習わせたい。



すごく




「そうか、なら八割が踏破した段階で突撃を仕掛ける・・・準備しろ」



「・・・承知・・・しました・・・」



「大丈夫かあいつ・・・」



「立って喋れるから、問題ないだろ」



「・・・ん?あれ?エレナは?」



「・・・あそこでぶっ倒れてんの、エレナじゃないか?」



ガランが指差す方向を見るとそこには





「・・・あぁ・・・エレナだなありゃ・・・」



エレナがうつ伏せで倒れている所を、彼女の部下が介抱している。



「ありゃあ、無理じゃないか・・・隊長」



「・・・・・・八割方登り切ったな!?行くぞ!」



エレナは置いていくことにした。



❝城塞を開放してから迎えに来よう❞、そう思ったグレン達だった。


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