不思議な香りの中であなたの心の声に包まれて・・・
あかり紀子
第1話 不思議のはじまり①A面
これからここで綴る物語は、平凡な毎日を繰り返していた私に突然訪れた不思議な出来事の物語。
私が通う高校は、全国的にも知名度が高い有名な進学校。
毎日放課後にテストがあり、成績は翌朝各学年階の廊下に貼り出される。そのストレスに耐えられず、生徒は一年生の前期が終わるころには約半数が退学するという過酷な学校。
廊下に貼り出されるのは成績優秀者と劣等者。それが各20人ずつ貼り出される。劣等者は、ほぼ毎日夜遅くまで補講がある。学校が休みの日にも補講で登校しなくてはならない。
劣等者は毎回名前が違っていた。一度でもそこに名前が載ってしまうと、同級生からも教師からも〔劣等者〕のレッテルを貼られ、差別的な扱いを受けてしまう。約半数の退学者は〔劣等者〕から抜けられなかったり、抜けられたとしても〔元劣等者〕という目で見られるため、この扱いに耐えられなくてリタイヤしてしまうのだった。
この学校で劣等生でも、他の学校に行けばそこそこ、いや、上位だって狙えると言われている。
そんな学校で、私は残念ながら成績優秀者の順位には名前は載ったことがない。もちろん劣等者の順位にも名前が載ったことがない平凡な成績を保ったまま2年生を迎えた。
2年生になった年、珍しくこの学校に転入生がやってきた。
編入試験は想像以上に難しいとの噂で、転入生など滅多に来ないこの学校に新しいライバルがやって来ると、朝から教室ではみんなが落ち着かない様子だった。そんな時でも私は特に危機感もなければライバル意識もないままいつも通り、参考書の問題を黙々と解いていた。
そこに担任が入ってきた。この担任、私たちと同じ昨年この学校に赴任して来た50少し手前の独身男。超上から目線のイヤな奴。【高見沢】と言う名前から私たちは【イヤミ沢】と呼んでいる。そのイヤミ沢に続き、情報通り転入生も入ってきた。教室は一瞬にして静まり返る。担任はその張りつめた空気が心地良かったのか、少し笑ったようにも見えた。相変わらず気持ち悪い顔。
「今日からひとつ学年が上がったわけだが、お前らに新しいライバルを紹介する」
なんて嫌味な紹介の仕方。
イヤミ沢は黒板に転入生の名前を書いた後、転入生本人に自己紹介をするよう促した。しかし転入生はそれを拒んだ。イヤミ沢は少し不満そうだったが、そこには触れず席を指示し、いつものようにホームルームが始まった。
転入生は、一番後ろに用意された席に座り、黙ったまま窓の外を見ている。クラスメイトたちは興味はあるが、転入初日に担任に反抗的な態度をとる転入生とは関わらない方が利口だと悟ったかのように誰も話しかけようとはしなかった。
もちろん私も。
そしてそのままホームルームが終わり、転入生を含めた全員で体育館へ移動し、始業式が始まった。
式が終わり再び教室に戻ってきたが、やはり誰も転入生には話しかけなかった。転入生も特に困ったこともないのか、自分から話しかけることはしない。私はそんなクラスメイトや転入生の様子を見ているだけ。
もともとまとまったクラス、仲の良いクラス、というわけではなかったから、ひとり増えただけで他は何も変わらない。観察材料がひとつ増えた…くらいの気持ちかも。
普通始業式の日くらいはやらなくても問題ないだろうと思うんだけれどその日もいつものようにテストがあった。そして、クラスの空気が変わったのは翌日の成績発表の時だった。
私のクラスには常に1位の座に君臨し続ける優等生、
入学式では新入生代表で挨拶をし、それから一度も1位の座を誰かに譲ったことはなかった。それは全国模試でも同じことだった。
全国で1位を誇る超優等生だったのだ。ちなみに出席番号順でも一番だったから、英田が一番に書かれていないものを見たことがなかった。
翌朝登校すると、廊下は生徒たちで溢れていて、順位の確認はおろか、その廊下を通ることも出来ないほどだった。なんと、英田が、1位の座を転入生に奪われてしまったらしい。生徒たちはいつになくざわついていた。
成績が貼り出されてこんなにみんなが興味を持つことなんて今までなかったと思うけど…と思いながら私は、どうにか廊下を通り抜け教室に向かう途中にチラリと順位表を見た。
どうせ自分はまた入っていないのだから。
その時、1位に英田の名前が書かれていなかったのを見たのは初めてだった。
教室に入ると、初の2位転落に生気を失っている英田が見えた。いつも腰巾着のようにその周りにいたクラスメイトも何となく近寄れない空気だったのか、みんな離れている。
その代わりに転入生の席の周りには、初めてクラスメイト達が集まっていた。
所詮、クラスメイトなんて、勉強を教えてくれる人のところに人が集まる集団なのかもしれない。
『ん?てことは1位は転入生だったの?』
転入生は、クラスメイトに色々聞かれてもそれに答えることはしなかった。ずっとイヤホンをして机に伏せている。
『聞こえないフリ作戦?』
「すごいな!」
「前はどこの高校だったの?」
「どこの塾に行ってるの?」
などなど、まるでマスコミに囲まれた有名人か?と思うほどの人気ぶり。何ひとつ答えず黙っている転入生。やがてひとり離れ、またひとり離れて数分で転入生の席の周りはスッキリした。
『不思議な子だな』
と思ったけど、それ以上の感情は何も起きなかった。でも異色だし同じ一番後ろだし観察対象としては見やすいから、ついつい見てしまう。
授業が始まり、いつもと変わらない時間が流れ始めた。超優等生、英田は、まだ現実を受け止められずにいる様子で視線は黒板に行っているように見えるが、実は全く見ていない…そんな感じだった。ノートを取るわけでもなく、それどころか筆記用具すら持っていなかった。
『そんなに1位じゃないことがショックなのかな?』
『1位以外認められないというなら私はとっくに人生終わってるってこと?』
『頭のいい奴の考えることは分からないなぁ』
『平凡の何が悪い?』
とひとり、頭の中でぐちぐち言ってしまった。
授業が終わり、次の授業の準備をしていると、
「お前、うるさい!」
と、頭の上から声がした。
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