ゆ~ふぉー 異能に目覚めた私たちの日常奪還

@zantou874

第1話


 ココとは違う日本

 違うところがあるとすれば首都が大阪だったり3年ほど前から日本でだけ異能の力に目覚める若者たちがいるということだ

 

 そんな日本で物語は始まる

 

「あわわわ、寝過ごしちゃったよ~」

 一人の少女があわただしく朝の支度をしていた

 前髪の一部が跳ね、制服も若干乱れている

「遅れちゃったらハグする時間なくなるじゃな~い!」

 そう言うとテーブルの上のコーヒーを飲み干し、トーストをひょいと咥えると

「いっへひあ~ふ」

 扉を開け放ち、たわわな胸を揺らしながら家を飛び出していった


 陽気な日が差す桜満開の中、少女は走った。そして、

「ぜぇ…、ごめ~ん。遅れた~からの…ハグ~!」

 走ってきた先ほどの少女は、茶色い肩まで伸びる髪をなびかせ、坂を下りてきたところのT字路にいる二人組の少女にに合流したや否やその一人に突っ伏すように抱きつくのであった。走ってきた少女の方が多少背が高く見えるが、頭から飛び込んで抱き突いたので同じくらいの背丈に見えなくもない

「ゆのちゃん汗びっしょりだよぉ。タオルあげるからふこ?」

 そう言うと抱きつかれているのをうっとうしく言うでもなくハグを返すと慣れた手つきでカバンからタオルを取り出す黒いショートヘアの少女

「んあ~。由希はいつも優しいなぁ~」

 そう言うとハグを堪能するがごとく頬を摺り寄せる

「んもぉ、ゆのちゃん甘えすぎ。はいタオル」

 そう言って甘やかす由希であったが、

「そろそろ行かないと完全に遅刻しちゃうわ」

 少し冷ややかな声に刺された

「う~、そんなことを言う子は~、こうだ!」

 と言ってその声の主にもハグをするゆの

「ぬくい…わね。走ってきたからか」

 そう言って避けるでもなく受け入れるのだが、声の主は直立不動のまま突っ立っている白く長い髪の少女。二人の身長はペン1本分くらい離れているためか寄りかかっているようにも見える

「も~。唯もちょっとくらい返してくれてもいいじゃん!」

 ぷく~っと頬を膨らせるゆの

「いや、今返すとずるずる行っちゃうの見えてるし…」

 そう言って平坦な口調で視線を逸らす唯

「真面目だな~唯は。遅れた私が悪いんだし素直に聞いとくか~」

 そう言うと唯から離れるゆの

「それじゃあ」

「うん」

「いこっか!」

 そう言って3人は仲良く並んで学校へ向かって歩きだすのであった


 3人はどこにでもある普通の公立高校の2年生で幼馴染

 小学校からの縁でいつも3人一緒である


キーンコーンカーンコーン

「ん~。今日も学校終~わり!」

 と、伸びをしながら本日の学業終了を喜ぶゆの

 この後は3人でコンビニへ寄り道して帰る予定だ

 そのことが楽しみな故に、

「今日は~なにを~買おうかな~♪」

 などと陽気に歌っている

「ゆのちゃん不良っぽいけど、楽しそぉ」

 そう言いながら由希がカバンを持ってやってくる

「不良っぽいって、それはなくな~い?楽しそうなのは認めるけどさ~」

 へにゃっと脱力するゆの

「ゆのが楽しそうにしてないことなんてないでしょ。確かに不良っぽいかもだけど」

 と、唯もカバンを持ってやってくる。口調が平坦なのは相変わらずだ

 3人の席は若干離れている

「ふぐぁ!唯までそう言うこと言う~」

 と、胸を押さえるしぐさをするゆの

「そんなことないよ、唯ちゃん!ゆのちゃんだって授業中は死んだ魚みたいな目をしてるじゃない!」

 なぜか気合たっぷりに両拳を肩の高さまで上げて語る由希。不良とかそう言うことはどうでもよくなったようだ

「由希、授業中どこを見ているの?」

 と、つかぬ事を伺いますがみたいなトーンで唯が首を傾げツッコむ

「えへへぇ。ゆのちゃん///」

 ためらいもなく答える由希

「由希!」

「ゆのちゃん!」

 二人の視線がパッと合う

「はいはいご馳走様。それじゃあ今日はゆののおごりで」

 やや不機嫌そうに唯が場を崩す

「え~。なんでよ、ぷ~」

 頬を膨らませ応戦するゆの

「冗談よ。でも…」

 不意に言葉を止めた唯

『でも?』

 2人が声をそろえる

「あと3回遅れたら、その時はゆののおごり」

 そう言い放つ唯に対してゆのは

「え?!3回も待ってくれるの!じゃあだいじょうb」

「ゆのちゃん、『も』はフラグだよぉ」

 有希にツッコミを入れられるのであった

「はぐぁ~!ちょ、今のなしで~!」

 机に突っ伏すゆの

「ふふっ。おかしいね」

 笑い出す由希

「そうだね」

 と首を縦に振る唯。長い白髪がひらりと揺れる

「んふふ~。帰ろっか~」

 と、突如復活し楽しみにしていたコンビニへ向かおうとするゆのに

「はい!」

「うん」

 2人は同意し、帰路へ。もといコンビニへ向かうのだった





 目的のコンビニは朝3人が合流した場所と学校の中間よりも合流した場所寄りにある

 徒歩で約15分ほどの距離だ


 そこまで歩いていく道中、

「ところでさあ?2人に聞きたいんだけど~、学校で言ってた私が不良みたいってどっから湧いてきたの?」

 不意に疑問を口にするゆの

「えぇえと。あたしは単純に授業中にペン回し練習して、放課後部活もしないでこうしてコンビニに寄ってるところがそうだなぁって」

 人差し指を立てて説明する由希

「あのさ。授業中ずっとゆのを見てる有希は不良に入らない訳?」

 目を細め、平坦な口調で渾身のツッコミを入れる唯

「ゆのちゃんと一緒…。あぁ、いい響きぃ」

 ぽわわーんと自分の世界に入っていく由希

「あー、そうだねそうだね。分かったっから戻っておいで」

 ちょっとめんどくさそうに言うと有希の頬をぷにっと突っつく唯。途端に、

「はうぅっ!唯ちゃんやったなぁ。えい!」

 ぷにっと唯の頬を突っつき返す由希

「むう…」

 と言って視線を由希に向けずとも的確に頬を突っつき返す唯

「もぉ。唯ちゃん可愛いんだからぁ」

 そう言ってもう一回突っつきなおす由希

「あの~、私も混じっていいでしょうか~?」

 申し訳なさそうに間に割って入るゆの

「かはっ!ゆのちゃん、ごめんよぉおお!」

 一瞬でハッとなり崩れ落ちる由希

「ま、こうなるわよね…」

 予想していたことに、脱力しため息をつく唯に

「あの~、私は~?と、言っておいて~、え~い!」

 不意打ちを仕掛けるゆの

 ぷにっとなるのとハッとなるのはほぼ同時だった

「ふっふっふ~、私を置いてけぼりにするとこうなるのだよ~」

 自信気な声でドヤるゆの

 そして、未だ崩れ落ちている由希に近づくと、

「そんな顔しないで。せっかくの美少女が台無しだよ~」

 そう言ってゆのは手をさし伸ばすと、

「ゆのちゃん…。ありがと!」

 由希は手を取る

「と、まとまったところで。えいや~!」

 突然由希の手を引き唯のところへ強引に運ぶと、ゆのは2人に強引にハグするのだった

 そのハグにハグで返す2人。幸せな日常、ただそれだけが続けばいいと思う3人だった


 コンビニの敷地内まで足を運んだところで、

「着いた~!さ~て、今日は何買おっかな~」

 両手を広げて到着を喜ぶゆの

「急に大声出されるとこっちが恥ずかしい」

 目をそらし平坦な声で返す唯

「唯ちゃん、慣れが足りませぬなぁ」

 と落ち着いた表情の由希

「慣れって事は恥ずかしいのは認めるわけね」

 軽く声のトーンを落とす唯

「なんで恥ずかしいかな~。ほら、喜びを表してるだけなのに~」

 そう言ってコンビニ入り口前まで歩を進めるゆの

「いつも通りでいいのよね?」

 と確認する唯

「そだね~、それで~」

 承認するゆの

 3人はいつも買い物の時だけは別々になる。理由は由希が2人の買うものを見て優柔不断になるからだ


「いらっしゃいませー」

 店内に入るとレジのところから声がする

 ゆの、唯、由希の順に入っていく

「それじゃあ後で」

 と言葉を交わすと、ゆのは飲み物、唯は揚げ物、由希はお菓子のコーナーにそれぞれ迷わず向かう


「ありがとうございましたー」

 店員の声を後に最後の由希が出てきて再び3人がそろい、コンビニ前で喋り始める

「2人とも早ぁい。何買ったの?あたしはドライフルーツぅ」

 と言って袋からそれを取り出し見せる

「私はバナナマンゴーオレ!…だけどなんか微妙だった~」

 そう言ってすでに飲んでいるそれを見せる

「また微妙そうなものを…」

 唯が目を細めてツッコむ

「そう言う唯は言うまでもなくハッシュドポテトでしょ!」

 ズビシッと唯の手元の袋を指さしながらゆのが言った

「ふふふ、やはりこれに限るのだよ」

 と言い切るや否や袋からそれを取り出しかじりつく

 その姿はまるで小動物の様である

「今日も変わらないね、あたしたち。もぐもぐ」

 買ってきたドライフルーツを食べながら何気なく由希が言ったのだが、

「今日みたいな日はいつまで続くんだろうね~…」

 不意にゆのがうつむき声のトーンが下がると

「はぅっ」

 由希が声にならない声をあげ、

「どうしたのよ急に。由希が固まってるわ」

 変わらぬ平坦なトーンで唯が尋ねる

「いや、深い意味はないんだけどね。でも来年は進路とかあるし私たちはどうなるのかな~って、思っちゃって」

 うつむいたままゆのが答える

「先のこと考えすぎ。その時にならないとわからないことだってあるわ。それに…」

 一瞬躊躇うが、

「それに?」

 ゆのに聞かれたので

「この話題やめないと有希は固まったままなのは確定よ」

 固まったままの由希を見ながら唯が言う

「あ…。由希ごめん…、私たちはずっと一緒だから!」

 今度は申し訳なくなるゆの

「そうだよ、由希。私たちは離れ離れなんかにはならない、絶対に」

 と、続く唯

「ホントに?」

 小さく由希が口を開いたが、2人は聞き取れずにきょとんとしていたら、

「ホント、だよね?嘘は、嫌だよ?」

 今度は聞こえる、今にも泣きそうな声で言った

「ホントだよ~。だからこうして考えたりしてる~」

 にっこり微笑みゆのは言う

「そうだよ、3人一緒じゃない人生なんて絶対こさせない。プランは、ないけど…」

 強く言ったかと思うと失速する唯

「2人とも…。うん、そうだね。一緒なら何か浮かぶかもだよね。ごめんね、こんな空気にしちゃって…」

 目に涙を浮かべながら微笑む由希

「気にしな~い、気にしない」

「そうそう一緒に、ね」

 そう言って励ます2人

「うん!ありがと!2人ともあーんして」

 と言うと手に持っているドライフルーツを2人の口に放り込もうとする

「今日、だけだからね///」

 そう言うとあーんと口を開ける唯

「唯ちゃん、ありがと」

 と言うと唯の口にひょいっとイチゴのそれを放り込む

「ひょうひゃけひょ、もぐもぐ」

 食べながら何かを言う唯

「えっへへぇ」

 言葉を察したかのような由希

「由希~、私も~」

 それを見ていたゆのがおねだりする

「はぁい、ゆのちゃん」

 ゆのの口へひょいっとマンゴーのそれを入れる

「あひふぁふぉ~、もぐもぐ」

 頬に手を当て、満足そうなゆの。ゴクリとそれを飲み込むと

「由希~」

 とハグしようとするゆのだったが、両手の甲のあたりに違和感を覚えた

 しかしそんなことは気にせずハグしようとすると、


バチッ


 と強い静電気が走ったような感覚がそれを阻んだ

「きゃっ」

 と衝撃で由希はしりもちをついてしまう

「大丈夫、由希?今雷みたいなのが二人の間に見えたけど」

 有希を支えつつゆのの方を見る唯だったが、

「何…これ…?!」

 ゆのの手から電流のようなものが溢れているのがわかる

「ゆの?それ、なに?」

 わかっているが聞いてしまう唯

「異能…感染症…」

 由希もそれを見てその言葉を口に出す

「え…、え?!なんで?!」

 混乱している様子のゆの

 手の甲がどんどん熱くなっていくのがわかる

「いや、いやだよゆのちゃん!一緒にって言ったのに」


 異能感染症。それはこの世界の日本でのみ見られる異変で、異能の力に目覚める病気とされていた

 発症したものは例外なく政府から保護されることになっているが、治療法はなく再開も叶わないとされている


 しばし沈黙が流れたが、

「逃げよう、一緒に!」

 不意に唯が沈黙を破った

「どこへ?どこへ行ったらいいのかな…?」

 ゆのが尋ねる

「そ、それは…」

 唯は言葉を詰まらせる

「でも、ここに居ても何にもならないよぉ。逃げよ?一緒に、3人で」

 由希が決意を固めると

「そうだよ、3人一緒じゃなきゃってさっき言ったところじゃない!家帰って、着替えたらもう1回いつもの坂のとこに集合、でいいよね?」

 唯が提案する

「2人とも…。ぐすっ、いいの?ほんとに?私だよ?」

 泣きながら必死に言葉を探すゆの

「ゆのちゃんじゃなかったらこんなことしないよぉ」

「そうよ、ゆのじゃなきゃダメなんだから」

いつも通りに言う2人だが言葉の裏には深い決意を持っていた

「ぐすっ、うん、うん。ありがとっ!じゃあ、急ごうか!」

 涙を強引に振り払って前を向くゆのであった

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