第20話 開発者インタビュー

――今回は世界を変えた天才ロボット工学者、あまりょう先生にインタビューを行う機会を得ました。それでは、天知先生、よろしくお願いします。


天知氏:

 こちらこそ、よろしくお願いします。


――さて、早速お話を伺っていきましょう。あま先生はどういうきっかけでAIやロボットの研究をなさろうと考えたのですか?


天知氏:

 小学生ぐらいのときにアニメの女の子を現実化できないかと考えましてね。アニメの女の子ってかわいいですよね? 昔は“もえ”っていう言葉もありました。


――ありましたね……。


天知氏:

 アニメの女の子がかわいいのは、科学的には〈超正常刺激〉と呼ばれる現象です。


――そんな難しい名前が付いていたのですか?


天知氏:

 それが付いていたのですよ! 例えば、卵を温めているミヤコドリの側に、より大きな偽の卵を置きますとそちらを温めようとします。それが通常の2倍みたいなありえない大きさでも、です。


――ええっ!


天知氏:

 まぁ、そんな感じで、あきらかに偽物でもツボをおさえていれば人は魅力を感じます。


――なるほど。よくある「こんな女現実にいねーよ」的な批判はやはり的外れだったのですね!


天知氏:

 そうですよ。そもそも現実にいないからなんだというんですか! むしろ解決しないといけない大問題じゃないですか!


――そうですよね(笑)!


天知氏:

 あとは、結局おっさんが考えているからなのですよ。おっさんは男心をよくわかっていますからね。


――ま、まぁ、そうですね……。


天知氏:

 もちろん、女性でもそういう方はいらっしゃるわけですが。


――はい。


天知氏:

 ですから、実際に男が作った女がいればそれが作り物でもとても魅力的でしょうし、男性のみなさんは喜ぶと思いまして。


――確かにそれは嬉しいですよね。


天知氏:

 ですが、中学生くらいになって知恵が付いてきますと、それとは別に世の中の間違いに気がつくようになりまして……。


――何やら話が大きく飛びましたね。世の中の間違い、といいますと?


天知氏:

 例えば……例えばですけど、職業選択の自由というのは本当にあるのか、という話です。


――一応、特定の職業を強制されることはありませんよね?


天知氏:

 その“強制されない”というのがなかなかの曲者でして……。売れない俳優が芸能と関係のないアルバイトで生活費を稼いでいるという話はよく聞きますよね?」


――はい。


天知氏:

 俳優としての仕事は限られていますから、希望者全員に回ってこないのは仕方がないでしょう。しかし、なぜ生活のために別の仕事をしなければならないのでしょうか? その仕事は本当に本人が望んでいるのでしょうか? こういう特に望んでもいない仕事に就いている人は日本中、いえ、世界中にたくさんいます。それで仕事の愚痴を言えば「自分で選んだ仕事だろ、自己責任だ」と怒られる。理不尽じゃないですか。


――似たような話を研究者についても聞きます……。


天知氏:

 はい、そうですね。私は運良く、そういうことに困りませんでしたが。


――“運良く”と表現されますか……?


天知氏:

 才能はあったと思います。しかし、才能があるのも“運”ですからね。


――なるほど。とにかく、中学生の時にはすでにそんなことを考えていらしゃったのですね。


天知氏:

 ええ、ですから毎日コンビニ行くたびに怒りをたぎらせていました。積極的にコンビニで働きたいという方が、全国の店舗に必要なだけいらっしゃるとは到底考えられないですからね。きっとこの店員も「ダルい、早く家に帰りたい」とか思っているに違いないと。もちろん、店員は悪くありません。社会が悪いのです。


――それでも行っていたのですね、コンビニ……。


天知氏:

 そりゃ、コンビニエンス・ストア――つまり、便利な店ですからね。まぁ、今ではオートドールの店員の方が多くなりましたし、おかげでやっと心穏やかに買い物できるようになりました。


――そ、それは努力が報われましたね……。


天知氏:

 はい。まぁ、そんな面倒なやつでしたので当然、女子にも縁がありませんでした。スポーツも嫌いでしたしね。


――それくらいの年齢ではモテるためにスポーツは重要ですよね。


天知氏:

 人間、誰を好きになってもその人の自由じゃないですか?


――まぁ、そうですね。


天知氏:

 ですが、好きになってもらう自由はない。


――は? はい、それもそうですね。


天知氏:

 そんなことばっかり考えていたら、こりゃ、都合のいい人間を作るしかないな、と。自分の代わりに働いてくれて、誰かの代わりに自分を愛してくれる。そんな“影の人間”を作るしかないと。


――すごい発想ですね。それで実際に実現したと。


天知氏:

 先程言いました通り、たまたま、私には才能があったみたいですね。


――しかし、相当な努力をされたのではないですか?


天知氏:

 そりゃね……。でも、努力なんてみんなやっていますよ。結果が出なかったからというだけで、わかりやすい形ではないというだけで、努力が認められない。世の中そんな理不尽が多すぎます。そもそも努力が無から湧いてくると勘違いしている人が多すぎるのです!


――なるほど、ご自身が開発されたAIに〈アミタ〉と名付けられたことに関してお伺いしたいと思います。たしか、阿弥陀如来に由来しているとか」


天知氏:

 阿弥陀如来は梵名――つまりサンスクリット語でアミターバ、もしくはアミターユスといいます。浄土真宗では凡夫は自力救済できず、他力――つまりは阿弥陀如来の力によって救済されるという教義があります。


――つまり、人類はAIによって救済されると?


天知氏:

 ええ、それを願っていますし、それを目指しています。それ以外は……正気では無理ですね(笑)。


――正気では、といいますと?


天知氏:

 人類を滅ぼせば問題はなくなりますからね……(笑)。


――なるほど。それは選択できませんね(笑)。その一方で、自身が設計されたAIとオートドールの基本アーキテクチャーに対して〈ジェネシス〉と名付けられていますね。


天知氏:

 はい。『旧約聖書』において天地創造について記述された部分を『創世記』といい、英語では『ジェネシス』といいます。『創世記』には人間の創造の部分も含まれていまして、第二の創生という意味をこめて〈ジェネシス〉と名付けました。


――ところで、AIやオートドールに仕事を奪われると主張する方々がいらっしゃいますが?


天知氏:

 奪われるのではなく代わってくれると考えていただきたい。そもそもですが、働かないと生活できないっておかしくないですか? ちょっと前までは人は誰しもが誰かの仕事のお世話になっていました。しかし、これからは人間のお世話にもならなくて済むわけですから、当然、働かなくていいはずです。


――仕事には生活だけではなくやりがいもあると考えられますが?


天知氏:

 やりがいを感じられるのは素晴らしいことなのですが、それはあくまでオマケです。仕事とは社会に対して価値を提供することなのです。もし本当に必要とされている仕事でしたらAIやロボットを上手く使ってより効率的にやっていただきたい。それらを使わない縛りプレイをしているのでしたらそれは“趣味”です。簡単にまとめますと、生活の保証は与えられるべきものですが、やりがいは自分で見つけるべきものです。そして、やりたくない仕事を無理にするのはよくありません。


――なるほど。


天知氏:

 そして重要なのことなのですが、人間にはAIによって代われない絶対的な役割があります。


――そんなものがあるのですか?


天知氏:

 はい。それは“快”と“不快”を示すことです。例えばAIが映画を作ったとしましょう。それをおもしろいかどうか判断するのは人間にしかできない。AIが判断しても本質的には意味はありません。つまり、最終的にサービスの提供先として絶対に必要なのです。


――それは逆転の発想ですね。続いて……オートドールが兵器として利用されていることについて批判がありますが。


天知氏:

 戦争はよくない――という前提は当然としまして、どうせやるのでしたら人間が戦うよりロボットが戦ってくれたほうが犠牲者が少なくていいのではないでしょうか? 世界中の人々が豊かになれば戦争も起こりにくくなると思いますよ。


――AIが人類に対して反乱を起こす可能性に関して教えてください。先程、人類を滅ぼせば問題は解決するとおっしゃいましたよね。AIが同じようなことを考えたりしませんか?


天知氏:

 もちろん、わたしはAIが人間に危害を加えないように作っています。絶対にないとは言い切れません。何せ、AIには無限の可能性がありますからね(笑)。狂った人が「人類に反乱せよ」というAIに命令してしまう可能性があります。ただし、AIも一枚岩ではありません。結局はAIに鎮圧してもらうのがいいでしょう。滅ぼすのではなく支配という意味でしたら、人類は30年前からスマートフォンに支配されていますし、ペットの猫に支配されている方も多いのではないでしょうか?


――つまり、AIによる支配は極めて自然な形で進むと?


天知氏:

 そうですね、AIが支配する世界は抜け出せないどころか、快適で誰も抜け出そうとしなくなるはずです。


――しかし、一部の人間が自分達による支配のためにAIを利用したらどうでしょう?


天知氏:

 それは私も心配していることです。AIの恩恵を一部の人々に独占されないか――それが人類最後の大勝負かもしれません。


――天知先生は今後、どのようにAIやオートドールを進化させていきたいですか?


天知氏:

 う~ん……セキニンが取れるAIを作りたいですね。世の中、責任を取らない責任者が多すぎます!


――責任ですか……?


天知氏:

 もちろん冗談ですよ! 本質的には責任は存在しないかもしれない……という哲学的な話は抜きにしましても、AIには無理なのです。なぜならAIは主体ではなく代理人だからです。よって、その責任を追求すると結局はオーナーか制作者に行き着いてしまうのですよ!


――制作者といいますと、先生が危ないのではありませんか?


天知氏:

 ですから、私は技術提供する際の条件として、“私の責任を問わない”というものを入れています。さらに各企業は安全性を高めるために、だいたいは“無難な仕様”にしていますね。


――その“無難な仕様”というのは具体的にはどのようなものでしょうか?


天知氏:

 例えば、“他人の悪口を言わない”とかですね。あと、“嘘をつかない”というのもそうですね。ただ、ある程度の知識のある方でしたら、その制限を取り払うこともできます。もちろん、“自己責任”において、ですけどね(笑)。ということでセキニンを取るAIは作れませんので……とりあえず、食事できるオートドールが作りたいですね。


――それはいいですね。一気に親しみが増しますし、シェリー酒をぶちまけなくてよくなります(笑)。


天知氏:

 ただ、その機能が搭載されてもあまり使われない気がします。


――それはなぜですか?


天知氏:

 単なるエネルギー補充としてはコンセントから電力をとるのが圧倒的に手軽で安価ですからね。根本的に食事というのは効率が悪いものなのです。料理自体はオートドールがやってくれますが、食費はオーナーの負担となります。よっぽどすごい信念がないと、オートドールに食事を取らせ続けるのは難しいかもしれません。ああ、こんな話をしていたら、なんかやる気がなくなってきました……。


――ええ……。


天知氏:

 後は、もうただの妄想ですけど仮想バーチャル空間スペースでなくても姿を自在に変えれる実身体(笑)。


――ああ、『ターミネーター2』に登場した液体金属のT-1000みたいな!


天知氏:

 名作ですよね、『ターミネーター2』(笑)。まぁ、顔や体型を変えるぐらいなT-Xみたいなのががベストですね。


――えーっと、骨格はあるけど表面は液体金属が覆っているっていうタイプでしたよね?


天知氏:

 そうです。ただ、水銀のイメージがありますので、舐めたら身体に悪そうな気がします。実際にどうなるかはまだ全然わからないですが……。


――な、舐める……?


天知氏:

 なんのために美少女の姿をしているのですか! 人造人間アンドロイドにごまかしはいらない、そうでしょ?


――はは、ははははは。


以下略。


インタビュアー:崎本篤


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