ティーカップを買いに行ったのだが



 ち〜ん


 今日も朝から我が家では、トーストの音が鳴り響く。


「強敵と書いて『とも』と読む。まさに死闘だった……いたいから?蹴らないで」

 俺がトーストにバターを塗って独り言を言ってると彼女がローキックを放ってくる。


「・・・・・・」

 ああ、そうね。勝負になってませんとも。


 彼女はよいしょっと俺の膝の上に乗ってトーストを齧る。

 うちのリビングはかなりの広さー24畳あり絨毯が敷いてあるーでテーブルや椅子も置いてあるのだが、基本的には床に座っている。


「・・・・・♪」

 この可愛い彼女がおよそ俺の膝に乗ってるのが主な理由だ。


「今日はティーカップ買いに行くんだっけ?いつものアンティークショップでいいのか?」


「・・・・・♪」

 口周りとほっぺたをジャムだらけにして頷く。


「どんな食べかたしたらこうなるんだ?」

 ジャムを拭いてやり、コーヒーを渡す。


 ふぅ〜ふぅ〜


 相変わらずの猫舌で、ティーカップを両手で持って冷ましてる。


「なら、行くか?冴草ちゃんはまず服を着ような?」


 膝の上からひょいと抱き上げて、とんと床に戻す。

 てててっと自分の部屋に駆け込んで行く。

 さて、俺も着替えこようかな。



 しばらくして彼女が出てくる。


 にぱっと笑ってスカートを持ち上げてカーテシー。

 ミニスカメイドだから、パンツ見えてるからな?


 今日も標準装備の彼女を連れてーといっても俺の腕にぶら下がっているーお出掛けする。



 からんからん


「おっさん、いるか?」

「あら?いらっしゃい。それからアタシはおっさんじゃなくて、乙さんよ。」

 アンティークショップ『ハンプティ』俺と彼女の行きつけの骨董品屋だ。


「冴草ちゃんが新しくティーカップが欲しいらしくてな、なんかいいのない?」

 俺はおっさんに尋ねる。

 彼女は、妙な鳥の置物とにらめっこをしている。


「う〜ん、そうねぇ、今月はまだ欧州に買い付けに行ってないから代わり映えしないのよねぇ」

「ああ、そうか、出直した方がいいか?」

「それの方がいいけど……」

 おっさんは彼女の方をチラ見して

「新しい豆でも仕入れたんでしょ?新しく買わないときっと暴れるわよ?」


 確かに。以前も大暴れして大変だったものなあ。


「ちょっと待っててねぇ。」

 そう言っておっさんは、倉庫の中へと入っていく。


 彼女は、妙なカラフルな帽子をかぶって踊ってる。うん。見なかったことにしとこう。


「これかこれくらいかしら。お嬢さんが気に入りそうなのは」

 テーブルに置かれた2人の箱を開けて中身を取り出す。

 片方は、白の陶器に淡い青の装飾が施されている。

 もう一方は薄い翠の透明感のある光沢が美しい。


「お〜い、冴草ちゃんはどっちがいい?」


 とててて


 彼女がこっちにきて俺の膝に乗ってティーカップをじっとみつめた後、そっと手にとって確認している。


 普段の彼女からは想像出来ないような真剣な表情だ。


「・・・・・・」

 彼女はカップをテーブルに置いて首を横にふる。


「お気に召さなかったみたいね」

 すると彼女はカップをこんこんとつついて俺を見上げる。


「・・・・・・」

「ああ、なるほど、おっさん。こっちの白いのはちょっと好みが違うそうだ。そいでこの翠のは悪くないけど……ここだな」

 俺は彼女がつついた場所を指す。


「ここ?まさか……」

「ああ、ニュウ。つまり修復された可能性があるみたいだって」


「これは、完璧な修復じゃないかしら、全く気がつかないレベルね。鑑定に出してみるわね」


 彼女は、こくんと頷くと膝から飛び降りて扉に歩いていく。


「今回は諦めるみたいだから、仕入れしたら電話でもくれや」

「ええ、ありがとうね。」


 からんからん



「流石はデザイナー。よくわかったな?」

「・・・・・・」

 俺にぶら下がってドヤ顔で見上げてくる。


 はいはい。


 まぁ機嫌も悪くないみたいだし今日の夜は3Rくらいで勘弁してくれそうだな。




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