13 異世界転移



 雪菜先生は最終的に理科室に向かった様だ。

 放課の残り時間はあとわずか、そこが決戦場になるのは自然な事だった。


 クラスメイトは選や緑花を中心に団結し、姫乃が持っていた便利道具を取り入れながら、順調に雪菜先生を追い詰めていく。


 けれども、相手の方にはまだまだ余裕が窺えた。


 そのまま、相手に逃げ切られるかと思ったところで、異変が起きた。


 学校中が、淡い桃色の光に包まれていたのだ。

 監視カメラの映像でも分かるが、それは校内の各所でも同じようだった。


 学校にいた生徒達や教師達は、一様に何が起こったのか驚いたり、困惑していたりしている。


 だが、僕には分かる。


 これは異世界召喚だ。

 ここから本格的に物語が始まって行くというそのスタート合図。


 校庭を俯瞰するように設置してあった、監視カメラからは、学校の敷地を囲む様に大きな魔法陣が光り輝いているのが見えた。


 そして、中庭に立っているのっぽの桜の木が、強烈な強い光を放った。


 次第に光がつよくなって、周囲の景色が塗りつぶされていくなか、意識の中に女性の声が響いた。


――私達の世界をどうか救って、白いツバサを持つ者達。


 悲しそうな、辛そうな声だ。

 それでいて、芯の通った力強さや凛々しさを感じさせる不思議な声だった。





 目を覚ますと、知らない街道のまっただなかに倒れていた。


「うん、別の場所だ」


 目の前にあるのは、今までいた学校の中とは明らかに違う光景だ。


 おそらく異世界転移したのだろう。

 まだ、ここが僕がさっきまでいた世界と違う場所だという証明はできないけれど、何となく分かる。


 僕の頭の中には、もうすでに物語が始まっているという知識があったからだ。


「さて、どうしようかな。ここで延々とカカシになっても退屈だろうし、せかっくだから、ちょっとくらい見て回りたいよね」


 数合わせとして生み出された僕の役目はもうないようだ。

 だから、あとは消えていくだけのはずなんだかけれど、それでも若干猶予があるらしい。


 いくら僕でも人並みの好奇心はあるし、ぼうっと過ごしていても退屈になるだけだろうから、とりあえずの方針としては町を目指す事にした。


 街道があると言う事は、どちらかに進めば人の住んでいる地域に辿り着けるはずだ。


 けど、周囲を見回していると、ポケットから何かが這い出てくる感触。


「どっちに行こうかな」

『なー?』


 僕の言葉に相槌を打ちながら顔をだしたのは、自作したカメの小型ロボットだった。


 確か転移する前は、机の上に置いておいたはずだけれど、いつのまにポケットいいれたのだろう。

 つぶらな瞳のメタルグリーンのカメは、眠そうな目をしながらのったりとした動きでこちらを見上げてきた。



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