全てのはじまりは、俺、ユーシアの十六歳の誕生日だった。

 朝起きたら思い出したんだ、戦いに明け暮れてばかりのおっさんだった前世のことを。

 名前は……勇者、勇者って呼ばれてばっかりだったから忘れちまったけど。


 お姫様らしい言葉遣いをしなさいと言われても妙にムズムズしておっさんみたいな喋りになっちまうことも、なんかやたら酒のツマミみたいなものが好きだったり……まあ城じゃ滅多に食えないから騎士団のおっさん達にわけて貰ったりするんだけど、そういうのもいわゆるフラグだったワケだ、たぶん。


 そもそも騎士団のおっさん達にやたらと親近感おぼえてたのも、中身がおっさんだったからなんだなーと今は納得している。




……そして、衝撃的な出来事はこれだけじゃあなかった。


「姫」


 身支度を終えて、護衛のファイを伴って城の廊下を歩いていると、ふいにやたらと爽やかな声に呼び止められる。


「……げっ」

「ユーシア姫、お誕生日おめでとう!」

「ラグード、王子……ありがとう、ございます……」


 燃えるような真紅の髪に情熱を宿した金茶の目。

 笑いかけるだけでキラキラが飛び散る、このイケメン王子様は……


「ラグード王子、リオナットからわざわざこちらまで?」

「ユーシア姫の誕生日を祝いたくてね。ほら、君が好きだって言ってた『チータラ』だよ。よくわからなかったから取り寄せて貰ったんだ」

「えっ……?」


 そう言って、魚のすり身をチーズで挟んだおつまみが入っているであろう袋を差し出すのは、隣国リオナットの爽やかイケメン王子ラグード。

 王子様がわざわざ取り寄せたってつまり最高級の……?


「姫様、よだれ……」

「はうっ!」

「ははは、いいんだよファイ。ユーシア姫のこの素直さは他国の姫にはなかなかない、素敵な魅力だ」


 うっ、まぶしい!

 おっさんはイケメンに笑いかけられ慣れてないんだからそのキラキラを加減しろ!


「これが俺と死闘を繰り広げたクリムゾンドラゴンの生まれ変わりか……」

「何か言ったかい?」

「いいや、なんでも……ありませんわ」


 あぶねえあぶねえ、素に戻るところだった。


 このラグード王子、前世は魔王の城にいた凶暴な赤竜……火炎竜クリムゾンドラゴン。

 吐き出す炎の熱さは、平和な世界に生まれた現在では違う方面での暑苦しさに変わってしまったようだ。


「まったく、姫様はもう少し淑やかさをですね……」


 ちなみにこっちで溜息を吐いてるファイも、前世で一緒に戦った仲間の戦士だったりする。


 まあ、どっちも俺のことも前世のことも覚えていないんだけど。


 そんな訳で、十六歳の誕生日と共に俺を待ち受けていたのは前世のむさ苦しく汗臭い記憶と、何の因果か同じ時代同じ世界に転生してきた因縁の相手達との転生同窓会だった。


 ここ一年で何人かこういう前世の縁と再会したんだが、なんでこんなに俺の周りに密集してるんだ……

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