「ほぼ男子校」の生徒だった俺は、気づいたら「ほぼ女子校」の生徒になってました。

大津ヒロ

第1生徒 「ほぼ男子校です。」

「後悔」

なぜそれは生まれるのか。

なぜそれはみ嫌われるのか。

なぜそれを皆が経験するのか。

それは、後悔が不変的な過去の遺物であるからだ。

すなわち、過去はもうどうにも変えることができず、未来永劫みらいえいごう変わらない事実なのである。

そんなの当たり前だ。

しかし、もしもその事実がことになれば・・・

そう、俺が体験した出来事の様に。









昼間の陽光が執拗しつように人の体温を上昇させた中学3年の夏。

俺、神領篤斗じんりょうあつとは部活動の練習を終え、部員達6人ほどと下校を共にしていた。


「高校入ったらやっぱりみんな彼女とかつくるの?」


帰り道の途中、急になにを言いだすんだよと思ったのと同時に、他のやつらも答える。


「いや、お前は彼女つくんのなんてヨユーかもしんねぇーけどさー、みたいなヘタレ野郎じゃ、そう簡単にはつくれねぇっつうの。」


お前と一緒にして欲しくはない。

しかし、俺もどこかで中学での恋愛には諦めの心情を抱いていた。

認めたくは無いが正直俺の見た目はパッとしない部類に入るだろう。

さらに女子側から声をかけてこない限り、基本的に話はしない。

というかできない。

それゆえなのか、可もなく不可もない中学生活を送っていた。


「おい、お前と一緒にすんなよな。俺はつく

れないんじゃなくて、つくらないだけだ」


よくぞ言ってくれた。

俺がその同士の発言に共感したと同時に反論が飛んでくる。


「いや、お前は選べる立場じゃねーっしょ!」


「お前よりはまだ選べる立場だと思うけどな」


自分が関わらない討論を見るのは嫌いじゃない。


「おい、篤斗はどうなんだよ」 


どうしてだよ。

こいつはいつも俺に話をふるよな。

そう思いつつ、当たりさわりのない返答をする。


「俺は・・・よく分からないな。あはは!」


これが俺が中学生活で培ったその場しのぎの返答スキルだ。


「だけど、共学だったらどの高校にも女子はいるわけだし、出会いの可能性は0では無いよね」


俺が心の中で誇っていると、一人がそう言い放った。


「だよな!そうだよな!結局女子はいるんだよな!心配する必要ねえっつーの!」


「だな、まぁ少人数とかじゃないなら、一人くらいとは付き合えるだろ」


うん、今の中学で誰とも付き合えていない君のどこからそんな確信が生まれたのかな。


「そうだよな!篤斗!」


だからなんでこいつはいつも俺に話をふるんだ。


「そうだな、共学だったら出会いはあるよな。俺も漫画みたいな青春に憧れてるし、ちょっと期待してるかな」


俺はそう答えたが、正直ちょっとばかりではない。

大いに期待し、また渇望かつぼうしていた。

高校に入学して、まずは女子と気兼ねなく話せるようになる。

そしてイイ感じになる。

それからその子以外の女子とも仲良くなっちゃったりする。

そんな高校生活を謳歌したいと思っていた。

そう、俺は花の高校生活に胸を膨らませ、うれいなど微塵みじんもない透き通った眼差しで夢見ていた。

憧れの学園生活を-





-1年後-



今更いまさらだけどさ・・・なんで・・・この高校は・・・共学なのに・・・共学なのに・・・共学なのに・・・ほぼ男子しかいないんだぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は昼休み中の教室でそう吠えた。

しかし、周囲のクラスメイトもそれなりに騒がしくじゃれ合ったりしているので、俺の咆哮ほうこうはそれほど響いていないようだった。


「どうした篤斗、急に叫んだりして」


隣に座っていた拓真たくまが俺にそう尋ねる。

葛原拓真くずはらたくま

俺のクラスメイトであり、現在バスケットボール部のキャプテンを務めている。

雑誌のモデルによく見るナチュラルな髪型に豊麗な目つき、まさにその風貌はイケメンと呼ぶに値する。

そのうえ学校内外に問わず、多くの友人がいるが、その中でもパッとしない俺によく話しかけてくれ、さらに対等に接してくれる。

正直俺が女だったら惚れていただろう。


「叫んだんじゃないよ。吠えたんだよ」


「フフッ。そんなのどっちでもいいだろう。本当に面白いな篤斗は!」


拓真はいつもこうだ。

笑いのツボが浅いのか?それとも俺の返しがピンポイントでツボにはまるのか。


「それよりさっき篤斗が吠えてたことだけどさ」


「なんだよ?」


「ウチのほとんどが男子生徒だってことを今更後悔してもしょうがないと思うよ」


そう、この県立翔博しょうはく高校は今年から共学化されたものの全校生徒数386人のうち375人が男子生徒というまさに「男子校」であった。

俺は本命だった高校の受験日当日に、たまたま通りかかった川で溺れていた小型犬を救った。

その結果、試験開始時刻には間に合わず、入学への道は絶たれた。

そして偶然にも定員割れを起こした翔博高校に入学したのだった。


「でもさ、やっぱり3年生になっても考えちゃうよなー。もしもこの高校の生徒の半分くらいが女子だったらって」


「んー、僕は別にそこまで女子生徒に執着しゅうちゃくしてはいないし、そういう事はあまり考えないかな」


拓真は自分がどれほどモテる人間なのか分かっているのだろうか。


「でもいいよなー、拓真みたいにモテるやつは気楽で。学校内だけじゃなくて他校の女子からもモテるもんな」


「ハハッ!何言ってるんだよ篤斗は!僕がモテたらこの学校の全生徒はとっくにモテモテだよ!」


マジか、こいつマジか!マジで本心なのか!それ!

俺は本気で言ったねたみを冗談に受け取られて驚愕きょうがくした。


「でもまぁ、辛いことばかりじゃないと思うよ。これから体育祭もあるし、気合い入れて楽しんでいこうぜ!」


俺は拓真の励ましに頬を緩ませる。

すると拓真は鞄を探り始め、次の授業の準備に取り掛かった。


「体育祭か・・・」


女子生徒が多かったらさぞかしもっと賑やかになるんだろうという考えを脳内で巡らせた。

そして中学時代の体育祭の情景を思い出し、懐かしんだ。

それと同時にあの子の姿が一緒に思い浮かんでくる。

俺が唯一自ら話しかけることのできたあの子の姿が。


「おーい、席につけー。授業始めるぞー」


チャイムが鳴り始めると同時に教師が教室に入ってくる。

せめてこのまま中学時代の思い出に浸っていたいと思ったが、その希求もこの騒がしい教室では叶えられないものだと感じ、授業に集中することにした。









「はぁ・・・」


放課後、俺は自分の机に頬を乗せ、脱力感をはらんだ溜息を一つついた。

窓の外から差し込む陽の光。

そして耳の中に入ってくる運動部の威勢の良い声。

今日もここには普段と変わらない日常がある。


「帰宅部はとっとと帰りますか」


俺は椅子から立ち上がって、誰もいない教室からでようとした。

その時、教室の何処どこからかチャポンと、しずくが水溜りに落ちたような音が鳴り響いた。


「え、なに今の音」


思わずそう呟いた。

教室を見回したが、何処にも水溜りのようなものは無く、水気を感じとることもできない。

聞き間違えかと思い、体を扉の方に向け、また歩きだした。

すると再びチャポンという雫の音が聞こえる。

やっぱり聞き間違いじゃないよね!

俺はそう断定し、どこから音が鳴るのかを探ろうと試みた。

再び教室の中央付近に戻り、耳をすませながら辺りを見渡す。

そしてまた、先程さきほどと同じ音を耳が拾う。

うん、きこえた。

確かにまた聞こえた。

それも教室の掃除用具入れであるロッカーの方向からだ。

そしてさらに音が教室に響く。

よし、場所は特定した。

この音の源はロッカーの中だ!

俺はそう考え、すぐさまロッカーの前に向かい合わせになるように立ち、取手に手を入れた。

雫が落ちたような音はまだ止まない。

そして、ただロッカーの中を確認するだけであるのに興奮を抑えきれない自分がいるのを感じた。


「開けるぞ」


俺は不退転の決意を固める。

それゆえに早くなる心臓の鼓動。


「いくぞ、せーの!」


俺は勢いよく扉を開けた。

そしてそれと同時に反射的に身構える。

しかし、ロッカーの中にはほうきちり取り、バケツなどが入っており、本来あるべきはずの姿をそこに見せていた。

正直安心したが、警戒して身構えた自分が恥ずかしい。

ていうかだれも見てないよね。


「となると、さっきの音はどこから・・・」


そう呟いた矢先、突如としてロッカーが大きな音を立て、ガタガタと揺れ始めた。


「え!なに!なんなの!」


目の前の遭遇し得ないに事態に対して困惑どころか狼狽うろたえた。

先ほど中身を確認したばかりなので、人がいないことは確かだ。

しかし、逆にその事実が恐怖心を駆り立てる。

俺がそう怯えていると、急にロッカーが一人でに動き出した。

さらにそこから飛び跳ねるようにして教室の中央に移動し始める。

机や椅子が跳ねけられる。

そうして教室の中央にたどり着くと、急に動きを止めた。


「なんで急に止まるの!?怖い、怖いよ!」


恐怖心に支配される中であるテレビ番組の映像が脳内に浮かび上がってくる。

それは芸能人がドッキリを仕掛けられるという番組のワンシーンだった。

そうだ!これはドッキリなんだ!

一般的な男子高校生にドッキリを仕掛ける企画なんだ!きっと!

その考えしか思いつかなかった。

というよりその考えのみにすがりつくしか無かった。

しかし、動きを止めていたロッカーは突然強い音を立て、膨張し始めた。

そこからさらに形を変え、立派な両開きの扉へと姿を変える。

もう意味がわかりません。

俺はこの状況に唖然とした。

自身のドッキリ説はことごとく粉砕され、脳の思考は止まり、数十秒の放心状態が続く。

そして、しばらくしてやっと我に帰った。

目線を扉の方へ向けると、扉は完全に開ききっていた。

さらにその奥には見ていて癒されるような光が充満している。


「もう何がどうなってるんだよ、まったく・・・」


俺はこの状況が理解できない感情を吐露とろした。

途端とたん、扉からグググと妙な音が鳴る。


「え」


扉は突如、風をなびかせ、不穏ふおんな音を響かせながら俺を中へ吸い込もうとした。


「うぁ、うぁぁぁぁぁぁぁ!いゃゃぁぁぁぁぁぁぁ!」


俺は吸い込まれていく。

突然現れた意味のわからない扉に。



































































































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