あの夏。

ふじの

プロローグ

プロローグ

 僕と龍之介は一体いつから親しくなったのか。田端がもっと青々としていて空が広かった頃から馴染んでいた。田端の風が今よりももっと強くて家々を震わせるように通り過ぎていた頃にも僕らは一緒にいた。


 昭和2年のあの夏を迎えるまでは。


 脳裏をひらめくように通り過ぎている思い出は数多にあるが、まずは僕と龍之介の前に異国の色彩を鮮やかに広げてくれたあの女性の話から始めよう。


 あの日も情熱的な暑い夏の夜からはじまった。

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