弓ピットの恋

313

プロローグ

「じゃあ、わたしと勝負しなさい!」


わたしは言った。

そこは体育館の裏。


定番すぎる....。

内心突っ込み、金髪の男に大声を張り上げた。

何故、こうなってしまったのだろう。


「あぁ?」


そんなに、睨まなくてもいいと思う。

でも彼を再復活させなければいけないのだ。


「おまえ、うぜぇ」


そんなこと知っている。


でもここで引いたら後がない気がした....。

だって、あんたは隣の席なのにここ一週間。



教室ですら姿を見たことがないからだ。


「おまえ、あいつにいわれたんだろ?」





そう低い声で睨まなくてもいいと思う。


「......。そうだけど」


素直に答えた。


彼は、スッと立ち上がった。


高い......。


私が150センチってのもあるのかもしれないけれど。


彼は180はとうに超えているだろう。


わたしを見下した彼は鼻で笑った。


「勝負?馬鹿だろおまえ....。俺に勝負で勝てる奴はいないぜ」


彼は口を釣り上げた。

大きな拳をゴキゴキとそんな感じでならした。


「ちょっと、待って!」





声が上ずる。

ケンカで勝負なんて一言も言ってない。

その言葉に彼は「あぁ?」と不満満載の単語ですらない声を発した。


「わたしは、ケンカで勝負したいんじゃない。分かってるでしょ!」


彼の整った顔。

眉間に皺を寄せると恐ろしい。

でも負けたくないのだ。


ここからまたわたしはスタートしなければならない。


「弓道で勝負を申し込む。

巳釘秀夜くん(みくぎ しゅうや)。一週間後の放課後、弓道場で待ってるから」


「はぁ?俺がか?」


彼は何勝手に決めてんだこいつと言いたげに、私をずっと睨んでいる。


「もちろん、逃げないよね」


にげないよね...わたしは念を押す。

すると、舌打ちが聞こえた。


「........」


「じゃあ、来週の水曜に弓道場で一立(ひとた)ちの四本で勝負しましょう」


そういって、立ち去ろうと背中を向ける。


わたしは、握りしめていたまだ新しいスカートをゆっくりと離す。


そして全力で家まで疾走したのであった。



「なんなんですあの女。ケッコーいい面してやしたが。」


「秀夜さんの女っすか?てか俺ら空気あつかいっす....」



げらげら笑う群れに彼は眉間に皺を寄せた。

その顔に全員が息を飲む。

一人は飲み物を買ってきますと走り出す。

他にも理由をつけてその場を退場していく。


彼は舌打ちをする。


「なんだあの女。おもしれーヤツ。」


彼は口の端を釣り上げた。


彼のそんな言葉は私の耳に届くこともなく......。





20××年5月初旬。


それがわたしとあいつの

サイヤクな出会いだった。

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