南港追撃編3 逃走

黒スーツ男は鷲掴みの河童を、

救命ボート目掛けて投げようとした。


河童は最後の抵抗か、首を伸ばす。

黒スーツはとっさに河童を離さなかった。


びたーん

河童は単に地面に叩きつけられた。


河童を掴んでいる黒スーツの爪が伸びる。

河童のこめかみに爪が刺さり、血が滴りはじめた。

途端に河童が大人しくなった。

黒スーツが河童の首に噛みつく。


犬神は謎の虐待を見ながら、岸壁へたどり着き、

岸に上がろうとした。


黒スーツは再度河童を投げる。

今度はきれいに放たれた。


犬神は小太刀を握りしめ、ぎりぎり飛び上がって躱す。

すれ違う河童は明らかにしおれていた。


『吸血鬼です、逃げて』

乙姫は上空へ去っていった。


犬神は仕方なく黒スーツ吸血鬼に向かって走りだす。

直前で飛び上がり、飛び越える。


黒スーツも飛び上がり、爪を振るう。

躱しきれず、太ももをかすめた。


着地して一目散に逃げる。

黒スーツが追いかける。


太ももの傷の分、逃げ足が鈍る。

すぐに追いつかれた。


振り向いて小太刀を構える。


黒スーツの鋭い爪は10センチほど伸びている。

貫き手で突き刺してきた。


躱しながら小太刀で手首を切る。


黒スーツは切られながらでも構わず、その手で掴みかかる。

小太刀を持つ腕を掴まれた。


もう一方の手も貫き手。

犬神は躱しながら、空いている手で手首を掴む。

互いに手首を掴む形。


背負い投げか、巴投げか。

吸血鬼という言葉が気になり、巴投げをかけた。


お互い掴んだまま倒れる。


犬神は横に転がりながら、腕を交差し、思い切り掴まれた手を引くと、

黒スーツの手首は千切れた。


対人間であれば絶対的有利。

犬神は掴んでいる側の腕を引き寄せ、小太刀で上腕を切り飛ばす。


両手を失ったはずだがしかし、

同時に吸血鬼は拘束から自由を取り戻している。


噛みつきが浅く右腕の肉を噛みちぎる。

犬神はけりで間合いを開けた。


逃げるか攻めるか。


切り飛ばした手は動かないが、

黒スーツが噛みちぎった肉を飲み込むと、

失った腕が再生を始めた。


絶対的有利は無くなった。

逃げ足は切り傷で鈍り、

噛みちぎられた利き腕には激痛。


気付けば夕焼け。

河童達もこちらに気付いて囲み始める。

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