第137話 愛梨さんからの課題

 おっぱいによる、おっぱいのための、おっぱいによる処方箋を受けた俺は、愛梨さんと別れ、一人大学へと向かった。


「おはよう」

「おはよう大地くん……って、どうしたの? 顔凄いやつれてるけど!?」

「あはは……気にしないでくれ、これはお薬の副作用だから」

「えっ、副作用?」 


 首を傾げる綾香をよそに、俺はいつも通り綾香の隣の席へ腰かける。


「あっ、そう言えば綾香。今度、講義後に空いてる日ってある?」

「へっ? ええっと……ちょっと待って」


 慌てた様子で、スマホをポチポチと操作して予定を確認する綾香。


「明日と……後は週末の土曜日の夜なら空いてるけど……」

「おっけ。じゃあさ、両日開けておいてくれる? それで、授業終わり家に来れる?」

「へっ!? う、うん、いいけど……」


 唐突な俺からの誘いに、綾香は戸惑いを見せつつ、少し頬を朱に染めて首を縦に振る。


「じゃ、よろしく」

「う、うん……」


 だが、俺の誘いが軽かったからか、少々訝しむような視線で勘繰ってくる綾香。

 まあ、ただ単に添い寝をするために誘ったわけではないので、後ろめたい気持ちがありつつも、心の中だけで誤っておく。


 愛梨さんからのお薬を処方された後、俺は愛梨さんからもう一つ課題を課されていた。


「全員ですか!?」

「そうよ、大地の家に泊ったことある女の子全員。ここに集めなさい」

「で、でも急にそんなこと言われても……」


 戸惑う俺に、愛梨さんはじとっとした目で抗戦してくる。


「あらぁ? まだお薬が足りてなかったかしら?」

「あっ、いやっ、それはもう十分です……」


 愛梨さんのおっぱいにまた顔を埋められるのは嬉しいけど、真面目な話をしている時にやるものでない。


「わ、わかりました。でも、全員集まる日程聞かないといけないので、一応確認してみます」


 ひとまず、最優先に芸能活動をしている綾香から空いている日程を聞いてみたものの、果たして全員集まれる日なんてあるのだろうか?


 愛花は愛梨さんが連れてくるものだとして、直近だと、火曜日なら春香は元々家に来る日なので、残るは優衣さんと萌絵。


 明日都合よく予定空いていることなんてあるだろうか?


 うーん。頭で悩むより、本人に聞いてみた方が早いな。

 早速スマートフォンをポチポチと操作して、俺は萌絵と優衣さんに連絡を入れる。


『こんにちは! 突然ですが、明日って何か予定ありますか? なければ、家に来ません?』


 二人を騙しているような誘い文句に、俺も胸が締め付けられる思いだが、愛梨大魔王様からのご要望には逆らえない。


 すると、二人ともすぐに既読が付いて、『わかったわ! 今すぐに有給を取得するわね!』、『明日なら空いてるよー』と、二人とも快く快諾してくれたのが余計に俺の心を蝕んだ。


 ってか優衣さん、そこまでしなくていいですから!


『普通に仕事終わりでいいです!』


 慌てて優衣さんに返信を返すも、優衣さんは聞く耳を持たず。


『大丈夫! 今日はぎこちない感じで終わっちゃったから、明日は沢山……しようね♪』


 と意味深な返事まで返ってきた。


『あのぉ……普通に定時に上がってもらって帰ってきてくれればいいですから』


 と返事を送ったが、既読はつかない。

 す、すげぇ申し訳ねぇ……。


 俺がスマートフォンを持ったまま机に突っ伏すと、隣からどんよりとした声が耳に届く。


「おはよぉ……二人ともー」


 死に際の老婆みたいな声に、思わず顔を上げて振り向く。

 そこでは、詩織がまるでゾンビのように脱力したまま、荷物を机の上に無造作に置いて、その上にぐったりと頭を置いて突っ伏した。


「おはよう詩織ちゃん。だ、大丈夫?」

「お、おはよう詩織」

「ん? あぁ……二人ともおはよう……大丈夫……私は、もう……ここで息絶えるから……」

「ダメだよ! 正気に戻って詩織ちゃん!」


 慌てた様子で必死に詩織を宥める綾香。

 詩織がなぜこんなに落ち込んでいるのか、大体の察しはつく。

 昨日の合コンのショック。そんなに大きかったんだな……。


「ごめん、ちょっと私、お手洗いに……」

「あっ、うん……」


 席の後ろを通してあげて、綾香が席を外したところで、ふと突っ伏して項垂れている詩織を見てふと思う。

 そう言えば、こいつも一応俺の家に泊ったことあるんだったっけ?


 一応声かけておくか。


 俺は、詩織の耳元に口を近づけて、コショコショと小声で話す。


「詩織、明日空いてるか?」

「ん? 明日?」

「そのぉ……昨日のお詫びもかねて慰め会してやるからさ……俺の家来いよ」


 当てつけな適当な理由をでっちあげると、詩織はガバっと起き上がって、俺の方を向き直り、にやぁっとした笑みで自分の胸を抱いて身を捩る。


「何それ? もしかして、私の事、色んな意味で、誘ってる?♪」

「誘ってねぇよ。どんだけ欲求不満なんだお前は!」


 俺の反応に、詩織はけらけらと笑って手を振る。


「あははっ! 冗談だってば、おけおけ、それじゃあ明日は、大地がへとへとになるまで愚痴ってやるから覚悟してなさい」

「お、お手柔らかにお願いします……」


 まあ、理由はともあれ、これでまさかの全員集合。


 運がいいのか悪いのか……。

 果して、明日は天国になるのか地獄になるのか。

 まあおおよそ見当はついているけど、明日は返り血だけは見ない日にしたいなと心の中で願っておこう。

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