第六章 寝泊りフェチズム開発・発展・・・?編

第92話 萌絵の素の姿(萌絵5泊目)

 木曜日、愛花を学校へと無事に送りだし、大学へと向かった。

 今は明日の課題を詩織と二人でしているところだ。


「はぁ……なんでこんな毎週レポート書かなきゃいけないの? マジきついんだけど……」

「まあ、必修だし仕方ないでしょ」

「それにしてもだよ~GW中は出さなかったくせに、GW明けからこれよ! 長期休み明けで、全くやる気が出ないわ~」


 詩織はついにPCを眺めるのを辞め、グデーンと机に突っ伏した。


「ちょっと休憩する? もう少しで健太も来るだろうし……」

「う~ん……」


 詩織は唸りながらはっきりとしない返事をする。

 俺は、ふぅっとため息をついて、PCから目を離した。スマホをポケットから取りだして、スマホに目を移すと、トークアプリからの通知が届いていた。トークアプリを開くと、萌絵から連絡が来ていた。内容を確認すると、


『やっほ~。今日泊りに行ってもいい?』


 と書かれていた。


『いいけど……また家帰れないの?』


 俺は、心配した素振りの内容を送ると、すぐに既読が付き、返信が帰ってくる。


『あっ、違う違う! ただ単に、大地君の家に泊まりに行きたいだけなんだけど……ダメかな??』


 どうやら理由もなく、俺の家に泊まりに来たいそうだ。

 どうして俺の家に泊まりに来たいのだろうかと疑問に思っていたが、もしかしたら、何か問題が発生したのかと思い。


『わかった。いいよ』


 と返信を返した。


『ありがとう、何時ごろ行けばいい?』

「う~ん……」

「随分と悩んでるようですが、どうしたのかな~?」

「うわっ!」


 俺がビックリして声へ振り返ると、いつの間にか詩織が俺の後ろに回り込んでいたらしく、ニヤニヤとしながら俺のスマホを覗き込んでいた。


「何、悩みながらスマホ操作してんの? さては女? 女なのか!?」

「ちっ……ちげーよ」


 詩織にスマホを見られないように、胸の辺りに隠し、顔を逸らした。


「えぇ~? でも、トーク名に『萌絵』って書いてあったけどぉ?」


 見られてたのか……俺はじとっとした視線で、詩織に対して手をしっしっと振って追い払った。


「あ~もういいから戻った、戻った」

「ちぇ、つまんないの~」


 口を尖らせながらも、詩織は大人しく自分の席に戻っていった。

 俺は再びスマホの画面を開いて、萌絵にササっと返事を返す。


『大学で課題やって帰るから、20時くらいに来てくれ』


 そう返事を返して、スマホをポケットにしまい、ふぅ……っと、ため息をついた。

 視界の端の方で、視線を感じたので、その人物の方を向くと、頬杖をつきながらニタニタとして詩織がこちらを眺めていた。

 俺は苦笑いを浮かべた後、PCに向き直り、再び課題を始める。


「いいから、とっとと課題終わらせるぞ」

「はーい」


 何かを悟ったかのように、意味ありげな返事を詩織は返し、自分のPCに向き直った。


 萌絵が来ることが決まり、俺は超特急で、課題をパパっと終わらせることに努めるのだった。

 健太が授業を終えて、こちらへ来たところで、俺は課題を提出して詩織と健太と別れ、帰途へとついた。


 時間ギリギリになりそうだったので、駅から小走りでアパートへと急いだ。

 アパートの前に到着すると、道の電柱のところで黄色いリュックサックを背負い、スマホを見ながら俺のことを待っている萌絵の姿を発見した。


 俺の足音に気が付いた萌絵は、姿を見つけると、ニコっとした笑顔を向けて手を大きく振ってきた。俺もそれに返すように手を振る。


「ごめんね、お待たせ」

「いやいや、こっちこそごめんね、急に~」


 そんな会話をしつつ、俺と萌絵はアパート2階の一番奥の部屋に向かう。

 玄関の前まで到着し、バックから鍵を取りだして鍵を開けた。


「どうぞ」

「お邪魔します」


 俺が無造作に靴を脱ぎ捨て、トコトコと先に部屋の中に入り、電気の明かりをつけた。

 萌絵はしゃがみ込んで、靴ひもをほどきながらスニーカーを脱ぎ終えると、俺が脱ぎ捨てた靴を丁寧に並べてから部屋の方へと向かってきた。


「今日はどうしたの?」


 俺が荷物を置きながら萌絵に聞いた。


「え? 何が??」


 萌絵は質問の意図が分からないといったようにキョトンとしながら首を傾げていた。


「いやっ、だから。どうして俺の部屋にわざわざ泊りに来たのかなって。別に今日は、両親に家に帰ってくるなって特に言われてないんでしょ?」

「あぁ~! そのことね!」


 手をポンと叩いて、質問の意図をようやく理解した萌絵は、ニコっと口角を上げて俺を見つめた。


「理由もなしに泊まりに来ちゃダメなの……?」


 あっけらかんとしたその表情は、純粋無垢な萌絵の素なのだろう、キョトンと首をかしげながらも、わずかに上目づかいのような視線を俺に向けていた。

 俺はその自然な萌絵の表情に、つい見入ってしまい、言葉を返すことを忘れてしまう。


「やっぱりダメ……?」


 今度は、少ししょんぼりした口調で萌絵が言ってきた。俺は、はっとなって、我に返り、手を頭の後ろに置いて頭を掻いた。


「いやっ……ダメではないけど……」

「ならよかった」


 ほっとしたように萌絵は、ニコっと微笑みを返した後、よいしょっと言いながら黄色いリュックを下ろしてテレビの横に置いた。

 それにしても……あの素の表情を魅せられて、NOとは言えないだろうが……

 俺は顔を背けてつい頬を掻いた。


「あ、そうだ! 大地くん夜はもう食べちゃった?」


 荷物を置いて、再び俺の方を振り向いた萌絵が、話題を変えて質問をしてきた。


「え? あ、いや、まだだけど……」

「そっか、丁度良かった! 私もまだだから何か作ってあげるね! あ、冷蔵庫の物、勝手に使わせてもらうね~」


 俺の同意を得る前に、萌絵はキッチンの方へと向かい、冷蔵庫の中身を物色し始めた。

 俺はそんなどこか晴れやかで嬉しそうな萌絵の姿を見ていると、なんだがほっとした気分になった。おそらくはこれが萌絵の本当の姿なのであろう。明るくて、可愛くて、俺と同い年のまだ少し子供染みた感じが残る年相応の女の子。俺が初めて会った時は、家庭の不安を抱えていたため、どこか取り繕っていしまう部分がどうしてもあったのであろう。


 鼻歌を歌いながら、まな板と包丁を用意して、野菜を切っている今の萌絵の姿を見て、俺はどこか安らぎさえ覚えるのであった。

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