第70話 お風呂(大空2寝目)
愛梨さんは朝起きると、飛行機の時間があるとのことで、すぐにお暇してしまった。
そして、あっという間に時が過ぎて夜、夕食を食べ終わった俺は明日の飛行機で都内へと戻るため、トランクに荷物を詰め込んで荷造りを終わらせたところだった。
すると、コンコンとドアがノックされる。
「はい」
「お兄ちゃん」
ドアを開けて入ってきたのは大空だった。
「おう、大空どうした?」
「お風呂一緒に入ろう!」
「え?お。おう……」
大空が急に驚きのことを言ってきたので、キョドった反応をしてしまう。
一緒にお風呂入ろうとか言ってきたのは久しぶりだな……一年くらい前だろうか?流石に裸を見られるのは恥ずかしいと一緒にお風呂に入るのを辞めたのは。
おそらくそれ以来ぶりに妹がお風呂を誘ってきたのだ。
「どしたの?」
「え? あ、いや、珍しいなと思ってな」
「ああ~……」
大空が俺が言いたげなことを理解したように意味深な表情をした。
「なんかね、久しぶりにそういう気分になったの」
「そっか、丁度荷造りも終わったしいいぞ」
「ホントにやった! じゃあ、先に行ってるね」
大空は喜びながら部屋の扉を開けっぱなしにしたまま、階段を降りてお風呂場へと向かって行った。
俺も大空の姿を見送ってから、荷造りを終えたトランクを部屋の端に寄せ、寝巻きと下着をタンスから取りだしてお風呂場へと向かった。
洗面所の奥にある脱衣所に到着すると、大空が丁度服を脱ぎ終え、お風呂へ先に入るところであった。
可愛らしい小さな丸っこいフニフニとした身体つきに、思春期特有の膨らみが少しずつではあるが、膨らんだ小さな胸がちょこんと出ていた。
久しぶりに見たスラっとした白い妹の身体は、前よりも少し大人びたような感じがした。
「じゃ、お兄ちゃん先に入ってるね!」
「おう」
タオルを持ちながら妹はそのまま風呂の扉を開けて入っていた。
俺が服を脱ぎだすと、シャワーの音が聞こえてきた。
服を脱ぎ終え、お風呂の隣にある簡易用の小さい椅子とタオルを持って扉を上げて中に入る。
大空は少し茶髪がかった肩の辺りまで伸びた真っ直ぐな黒髪を、丁寧に洗っているところだった。俺はそんな大空の後ろに椅子を置いて座る。
髪を洗い終えた大空が鏡越しにこちらを見てきた。
髪をほどいた大空はあどけなさがさらに増し、普段よりどこか女の子らしい可愛い目を向けてきていた。
「お兄ちゃん石鹸使う?」
「おう、サンキュ」
俺は大空から石鹸を手渡してもらい、自分の身体を洗った。その後、大空も石鹸を俺から受け取り、自分の身体を洗いだした。
泡をスっと細くてしなやかな腕に染みこませるように洗っていく。
「背中洗ってやろうか?」
「うん、ありがとう! じゃあ、お願い」
前を洗いながら大空が背中を俺の方に向けてきた。白くてスベスベとした大空の背中が眼下に広がる。
俺はタオルで大空の背中をゴシゴシと洗ってやる。柔らかい弾力と共に、滑らかにタオルが肌を滑っていく。昔に比べて感触は変わらないものの、背中の面積が増えた気がして、改めての成長を感じられた。
背中を洗い終えてシャワーで体を流し終えた大空は、椅子から立ち上がり、湯船へと浸かった。
それを追うように、俺もパパッと体を洗い、髪をシャンプーでササっと洗い終えて、湯船へと浸かった。
大空の後ろに入り、足を広げて大空を抱え込む形になって湯船に入る。
浴槽から大量のお湯が溢れだして流れていく。
ようやく流れるのが収まったところで、大空が背中を俺に預けてきた。
「お兄ちゃんとこうしてお風呂入るのホントに久しぶりだね」
「そうだな」
一年ぶりくらいに入る大空との風呂は、少し狭い感じもしたが、懐かしさも感じていた。
「でも……」
すると、大空が少しトーンを落として顔を湯船に向けながら言った。
「お兄ちゃんとこうやってお風呂に入るのも、これで最後になるかもしれないね」
そう言いえおると、どこか寂しさを覚えるような表情で俺の方へと振り返った。
「……」
俺はその表情にどこか妹の決意というか、何か決心を感じられたような気がして何も言うことが出来なかった。
すると、ニコっと大空が破顔して、再び俺から顔を逸らし前へ顔を向けて身体を俺に預けた。
「ま、お兄ちゃんは彼女さんとこうやって仲良くまたお風呂に入るんだろうけどさ!」
「ちょ大空ちゃん、そう言うこと言うのは止めなさい」
「エヘヘヘ」
ニコニコと笑いながら、大空はからかうように言ってきた。
「お兄ちゃんにもし彼女が出来たとしても、私のこと甘えさせてくれる?」
大空は身体を縮こませながら不安そうな声で湯船を再び見つめていた。
そんな妹の姿を見て、俺は呆れたように鼻で笑った。
「当たり前だろ、妹は大空しかいないんだからぁ!」
「キャァ!!」
俺は大空を後ろから思いっきり抱きしめる。
ふざけたように大空が悲鳴を上げた。
「帰ってきたらまた、こうしてお風呂入る……かもしんないし、いつものように頭撫でてやるよ」
俺はそう言いながら大空の頭を撫でてやる。
大空のシャンプーの甘い香りが漂って来て、俺は思わず息を吐いた。
「そっか……」
大空は何か納得したような吐息を漏らすと、フゥーっと肩の力を抜いてグデーンとなった。
「シスコンのお兄ちゃんは、いつになったら彼女を連れてきてくれるのかな~」
「お前が言うなっつーの」
撫でていた手でペチンと頭をたたいてやった。
「痛い~暴力反対~」
「ッフ……」
「ンフフ」
そしてお互いに顔を見つめ合わせ、笑い合った。
こうして俺に甘えられる日々も大空はそう長くはないと感じたのであろうか? 真相は分からないが、今は最愛の妹を目一杯甘えさせてあげよう。そう思う出発前最後の夜となった。
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