第47話 嵐の予感(春香3泊目)
今日も授業を終えて、いつものようにアパートへの道を進んでいた。
天気予報で夕方から雨が降るという予想通り、薄暗い鼠色のモクモクとした雲が空一面を覆っていた。
俺は雨が降る前に買い物を済ませ、そそくさと帰宅した。
アパートに到着してしばらくすると、外からザーっと音が聞こえてきた。
どうやら本格的に雨が降りだしたみたいだ。
部屋の窓に雨粒が当たり、パラパラという音が部屋に響いていた。
◇
俺は夕食の準備に取り掛かろうと、キッチンへ向かった時だった。
ピンポーンとインターフォンが鳴った。
俺が玄関の方に歩みを進み始めた直後、今度はドンドンと玄関の扉を叩く音が聞こえてくる。こんなことするやつは一人しかいない。俺がガチャっとドアの鍵を開けると、扉を俺が開ける前にガチャっと無造作にドアが開かれる。
「あーもう。雨ヤバイ!」
そういいながら赤い傘を折りたたんで、急ぎ足で玄関に春香が入ってきた。
傘を畳んだ時に、玄関の床には、大量の雨粒がしたたり落ちた。
「うぇぇ……気持ち悪い……」
春香は傘を差していたのにもかかわらず、びっしょりと濡れており、それが気持ち悪いのか心底いやそうな表情を浮かべている。
薄ピンクのストライプスカートは雨に濡れて変色し、上に羽織っていたグレーのパーカーも袖の部分が肩の辺りまで色が変色してびっしょりと濡れていた。
「ちょっと待ってろ、タオル持ってきてやるから」
その姿を見た俺は慌てて洗面所へと向かい、タオルを取って来てあげる。
「ありがと」
春香は俺から白いタオルを受け取って、濡れてしまった服の上からポンポンとタオルで拭いた。
手や足先などもタオルで拭き終わり、タオルをヒョイっと手を伸ばして返してきた。
「服気持ち悪いから、先にシャワー浴びていい?」
玄関に上がりながら春香が尋ねてくる。
「あぁ、構わないぞ」
「じゃあ、悪いけどそうさせてもらうね」
春香はそう言いながら、荷物を下ろすと、鞄の中から着替えを取りだして、そそくさと風呂場の方へと向かっていった。
俺は、春香が濡らしていった玄関回りを、春香から受け取りなおしたタオルで拭いて水滴をとり、再びキッチンへと戻った。
◇
夕食の準備を終えると、ちょうど春香がシャワーを浴び終えたところで、髪をバスタオルで乾かしながらリビングへと向かってきた。
「今日は何作ったの?」
金髪の髪の毛を丁寧にタオル拭きながら、鍋の中身を覗き込んでくる。
「今日はポトフ、雨でちょっと寒いし」
俺が鍋のふたを開けると、湯気がフワっと立ち込めて、中から美味しそうな煮込まれたポトフが姿を現した。
春香は、その湯気を浴びるように鍋の中の匂いを嗅いだ。
「うん、おいしそう」
春香は顔を緩め、ポトフの香りを堪能してご満悦の様子だ。
「もうすぐ米も炊けるから、先に髪ちゃんと乾かして来い」
「はーい」
俺がそう言うと、春香はおとなしく洗面所の方へ戻り、ドライヤーで髪を乾かしに向かう。
春香が髪を乾かしている間に、机の上のものを整理して、箸と水を用意し、完成したポトフを二人分お皿に盛り付けて机に置いた。
すると、ピピピっと言う炊飯器の音が鳴り、白米が炊けたことを知らせてくれる。炊飯器を開けて、白米を少しほぐしてからお茶碗によそって、また机へと持っていく。
食事の準備が完成したところで、ドライヤーで髪を乾かし終えた春香が机にやってきた。
「ありがとー」
一言そう言いながら、机に座った。
「食うか」
「うん」
お互いに手を合わせて、
「いただきます」
「いただきます」
と、挨拶をして食事を楽しんだ。
◇
食事を終え、のんびりしているとさらに雨がザーっと激しくなる。
アパートの屋根に大量の強い雨粒が打ち付けられ、ドザドザとものすごい音を立てていた。
「雨すごいね……」
「そうだな……これはしばらく続きそうだな」
俺たちは天井を見上げながらそんなことを口にする。
「シャワー入ってくれば?」
「うん、そうするわ……」
俺は机から立ち上がり、タンスから寝巻きと下着を取りだしてシャワーへと向かった。
春香はスマホをいじりながら、時折天井に打ち付けられる雨の音の方をチラチラと心配そうに見つめていた。
「大丈夫だって、雨だけだから」
俺がそう言うと、春香は
「うん……」
と、雨の音でかき消されるくらいの心細い声で、ぼぞっと頷いた。
しかし、春香の不安そうな表情は変わらない。だから、俺はそれを尻目に、急ぎ足で風呂へと向かった。
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