第18話 幼馴染との昼間 (春香1泊目)

 今日は3限で授業が終わり、この後特に予定もなかったので、すぐに家へ帰ることにした。

 朝から優衣さん酔っ払い事件があったので、とても疲弊していた。

 

 大学の授業を終えてふとスマホを見ると、トークアプリの通知が届いていた。アプリを開くと、春香からメッセージが届いていた。


『今日家行っていい?』

 

 俺は、この後用事もなかったので、


『あぁ、別にいいぞ。何時ごろ来るの? 迎えに行くけど』

 

 と送っておいた。

 

 電車に乗り込んだ頃に返信が来た。

 内容を確認すると、


 『もう最寄りの駅に着いた』


 と返信が帰って来た。あいつ、絶対ダメって言っても来たやつだろこれ。

 

 トーク画面を見て苦笑いを浮かべながら


『分かった、もうすぐ駅着くから待ってろ』


 と送り、最寄り駅へと向かった。

 

 最寄り駅に到着し、改札口を抜けると、柱のところにスマホを操作しながら待っている春香がいた。相変わらずの金髪に、フリルの白いスカートとオレンジのカーディガンを羽織り、爽やかな感じがする格好で、ピンクのボストンバックを持っていた。


 俺は春香の元へ向かって手を振った。


「おまたせ」


 俺が声を掛けると春香は俺の方を向いて、ニコっと微笑んで手をあげた。どうやら今日は機嫌が悪くないようでなによりだ。


「お、意外と早かったじゃん」

「お前は、なんでこんなに早いんだよ」

「だって、今日全休だし」

「全休……だと!?」


 全休とは、大学の授業がなく、平日でも休みのことを言うのだが、土曜日も含めて週6で授業がある俺にとっては、夢のまた夢のワードだった。俺はおそるおそる春香に尋ねた。


「お前、大学週何回?」

「え? 週4だけど」


 週4だと!? 俺が絶望したように口を大きく開けていると、春香がキョトンとしながら首を傾げる。


「あれ? 大地もしかして週5?」


 春香はちょっと申し訳なさそうに聞いてきた。しかし、春香の頭の辞書に土曜日授業というワードはないらしく、当たり前のように土日休みは前提で聞いてきた。


「いや、週6なんだけど……」


 俺がそう答えると、春香はポカンと口を開け、頭の上にはてなマークが浮かんでいるような表情を見せていたが、週6という状況を理解したのか、驚いた表情に変わった。


「は? 週6って、土曜日も授業あるの?」

「そうだよ」

「何それ、高校の時よりも辛いじゃん。かわいそ」


 春香が俺に同情の目を向けてきた。


「やめろ、憐れむ目を向けるな。まあ、高校の時も部活で土曜日行ってたし、別にあんまり変わらねぇよ」


 俺は捨て台詞のようにそんなことを嘆いた。


「うわぁー……」


 すると、春香はジトっとした目で、俺を見つめてきた。


「な、なんだよ……」


 俺は睨み返し、何か言いたげにしている春香に言葉の続きを促す。


「社会の闇にドップリと染まってる~」

「うるせぇよ、とっとと行くぞ」


 俺は相手をするのも面倒くさくなり、スタスタと歩き出す。


「うわー誤魔化したぁー」


 春香はニヤッとした勝ち誇ったような表情を浮かべながら、付いてくるのだった。

 


 ◇



 スーパヘ立ち寄り、夕食の食材などを調達して、アパートへ向かっている途中、結局授業の話になり、お互いの時間割を見せあうことになった。


「うわっ、何この時間割、空き時間多! 授業の取り方下手くそなの!?」

「しょうがねーだろ、取れる授業が間に全然ねぇんだよ」

「あんたの学部鬼畜だね」

「ほっとけ」


 春香の時間割を見ると、授業がある日は基本的に3、4コマの授業が入っており、空き時間があっても1時間分のみで、効率よく授業が受けられるシステムになっていた。


 一方、俺の方は、週6のため1日1コマしか授業がない日もあったり、2限の後5限の授業まで膨大な空き時間があったりと、時間をかなり持て余してしまう非効率的な時間割となっていた。


「いいなぁー。俺もこんな感じに授業取りたかった」


 思わずため息交じりにそんな独り言が出た。


「ふふーん、いいでしょ!って言っても、ほどんど友達が教えてくれたんだけどね」


 自慢げに春香はそう話してきた。そんな春香を見て、俺はつい頬を緩めた。そんな俺が不思議だったのか、春香はキョトンとして首を傾げる 。


「どうしたの? ニヤニヤして、気持ち悪い」

「ひでぇな、お前。いや、あんなに心配してたくせに問題なく友達出来たんだなっと思ってよ」


 俺がそう言うと、春香はポっと頬を赤くした。思い出しているのは俺の部屋で不安な表情を見せていたあの時のことだろう。

 春香は俯きながら


「うん……ありがとね色々と……」


 そうボソっと呟いた。

 俺はそれに対して


「どういたしまして」


 と答え、和やかな沈黙が訪れつつ、アパートへ向かったのだった。

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