第14話 新入生歓迎会
金曜日、授業を終えて集合場所の正門へ向かう。ついに今日は『FC RED STAR』の新入生歓迎会当日だった。『用事があるから』といって俺と健太は、そそくさと詩織と綾香に挨拶を交わして教室を飛び出した。そして、今は健太とワクワクと話しながら正門へと向かっていた。
正門に到着すると、多くの人だかりが出来ていた。人だかりの前に幹事の人と思われる先輩が立っていたので声を掛けた。名前を聞かれて出欠確認を終えると、人だかりの方で待機してくれと指示を出され、集団の端の方に入った。
集団には春香と同じように大学デビューだろうか、髪を金髪に染めてピアスを付けた、メイクばっちりな女の子の姿や、金髪にパーマをかけた、いかにも出会いを求めて来ました系男子も多く見受けられた。
健太は恐る恐る俺の耳に顔を近づけてきた。
「なあ、運動部系のサークルってみんなあんな奴ばかりなの?」
健太は嫌悪感丸出しの表情を、その集団に向けていた。
「まあ、ノリがいいというか。気さくな奴が多いだけだよ。見た目はあんな感じだけどいい奴らだと思うよ、多分」
「なんだよ、知ったような感じじゃん」
「それは、俺だって一応、伊達に運動部6年間やってないだけあるからな」
「なるほど、つまり大地はあいつらと同族ということか……」
「おい、その引いたような目をやめろ」
「あはは……冗談だって。お、移動するみたいだぜ」
集団の列が移動し始め、俺たちも列に混ざり遅れないようについて行く。
◇
俺たちが向かったのは、新入生歓迎会が行われる大衆居酒屋だった。
入り口で靴を脱いで、懐かしい番号札の木の板をはめ込む式のロッカーに靴を入れ、木の板を取りだす。
店の廊下を進んだ左側に、宴会場のような大きな座敷があり、そこには数名の先輩と思われる人たちが既に準備をして待っていた。
俺たち新入生たちは、各テーブルに4人ずつ配置された。全員が席についてしばし待機ということになった。
席で待っていると、先輩たちと思われる残りの人達が入ってきた。
同じ私服であるにもかかわらず、やはり先輩たちは新入生とは違い、どこか大人びた雰囲気があるから不思議だ。
先輩たちの列を眺めていると、宴会場スペースの入り口に3人ほどの女性の先輩たちが現れた。おしゃべりしながら入って来たその女性の中に、天使のような女性の先輩はいた。
今日は、黒のシャツに赤のカーディガンを羽織り、紺のジーンズを着こなして、こないだよりも大人びた雰囲気をさらに醸し出していた。
俺はその先輩が目の前を通りすぎるのをずっと眺めていた。すると、隣から肩をつつかれた。
「おい、あれ。こないだの人だよな? やっぱり美人だな」
健太が耳元で尋ねてきたので、俺は相槌を打って、また天使のような女性の姿を目で追う。
天使のようなその女性は、俺たちとは向かい側のブロックに座った。どうやら席は残念ながら違ったようだ。そう簡単に物事は上手く進まないわな。
俺たちのブロックには、黒ぶちの眼鏡を掛けた短髪の細身の男性と、髪をオールバックに固めて、耳にピアスをしたイケメンの先輩が座った。
「こんばんはー」
イケメンの先輩が俺たちにフランクな挨拶をしてくる。
「今日は参加してくれてありがとう。短い時間だけど雰囲気だけでもつかんでってくれると嬉しいかな」
「マジメか!」
細身の男性の発言に対して、イケメンの先輩がそうツッコミを入れていた。
「うるせぇ!」
細身の男性は、イケメンの先輩に突っ込まれてニヤニヤとしていたが、パンパンと手を叩きながら注目といって立ちあがる。どうやら細身の男性は、このサークルの代表者らしく、全員に向かって挨拶を始めた。
「えっと、今日は新入生の皆さん集まってくれてありがとうございます。短い時間ですが、雰囲気だけでもつかんでいってください。」
俺たちに先ほど言っていたことを、他の新入生にも言っていた。他の先輩からは、「真面目だぞ~」と、イケメン先輩と同じようなヤジが飛ばされていた。どうやら、そういうキャラの人らしい。
「先輩のみなさんは積極的に、新入生の人に声を掛けてあげてください。」
『はーい』と先輩たちの生返事が聞こえる。
「それじゃあ、みなさんグラス持ってください! グラスに注いで無い人は急いで!」
俺たちは手元に置いてあったピッチャーに入っていたウーロン茶らしきものをグラスに注ぐ。イケメンの男性が、細身の男性に瓶ビールをグラスに注いで渡してあげていた。
「みなさん、準備はいい?」
「ちょっと待って」
他の机からそんな声が聞こえてくるので、グラスを持ってしばし待つ。
先ほどの待ったがかかった机の方から、「いいよ~」という声が聞こえてきた。
「じゃあ、今日は楽しみましょう、かんぱーい!」
「かんぱーい」
俺たちは、机にいた他の新入生とイケメンの先輩と乾杯をした。何人かの先輩たちは、立ち上がって隣の机まで乾杯をしに回っていた。
グラスに口を付けてウーロン茶を口に入れると、少し甘いような感じがした。
「ぱぁ、うめぇ!」
ビールを飲んで、感嘆の声をイケメンの先輩はあげていた。
「あ、自己紹介まだだったね、2年の
そう言って軽い感じで自己紹介をした冨澤先輩は、グラスを持ちながら細身の先輩へ視線を移す。
「で、こっちがサークルの代表やってる。真面目こと長谷部でーす」
「誰が長谷部だ」
細身の先輩は、冨澤先輩に向かって、またツッコミを入れる。
そして、気を取り直すように一つ咳ばらいをしてから口を開いた。
「えっと、サークルの代表者やってます。
口角を上げて作り笑いを浮かべてながら、太田先輩は俺たちに挨拶を交わした。
「よ、よろしくお願いします……」
俺と健太は先輩たちのテンションについていけず、右往左往しながら一言返した。
「何か質問したいこととかある?」
冨澤先輩が俺たちに聞いてくる。
「はいはい!」
俺と健太の隣に座っていた、爽やかな男子が手を挙げていた。
「お、はい、どうぞ」
「あ、えっと、一年文学部の
「えっとね、基本活動日は金曜日の夜で、近くの中学校があるんだけど、そこのコートを借りて、いつも活動してる感じかな。3カ月に1回とか他のサッカーサークルとのリーグ戦やったりして、優勝したら本家のサッカー部との対戦権がもらえるんだよ」
「え? すごいっすねそれ」
「まあ、うちのサークルはそんなにガチじゃないから、優勝したことないんだけどね」
「なるほど、ありがとうございます」
「いいえー。他に質問ある方ー」
冨澤先輩が俺たちの方へ目を向けてきた。
すると、健太が恐る恐る手を挙げた。
「はい、どうぞ!」
「あ、1年の厚木健太って言います。男女比率どれくらいなんですか?」
「あー、そういうのはね、この人が良く知ってる」
冨澤先輩は太田先輩の方へ顔を向ける。太田先輩は、グラスに注がれていたビールを一口飲んでから話し始めた。
「だいたい比率で言うと男7の女3ってところかな、あっちの方に女性の先輩がいるけど、あんな感じでみんな仲良くワイワイとやってるよ」
太田先輩は天使のような女性がいる方を向きながら話してくれた。
「そうなんですね、ありがとうございます……」
恐らく女子部員の話題に持っていきたかったのだろうが、思っていたように持っていけなかったので、厚木が愛想笑いを浮かべながら返事を返していた。
太田先輩からの説明を聞いて、しばし色々な話をした後。俺は冨澤先輩に声を掛け、声が聞こえるように顔を近づける。
「あの、先輩」
「ん? どした?」
冨澤先輩は気さくに話しかけてきてくれた。
「えっと、
俺が思い切って単刀直入に冨澤先輩に尋ねると、冨澤先輩は俺の視線を追うようにして、天使のような女性の先輩の方を向いて確認する。
「あぁ、
「えっ!? いやぁ、そんな」
「いいじゃん、呼んできてもらいなよ」
健太が横で、イケイケとグイグイ押していた。
俺が謙遜していると、冨澤先輩は愛梨先輩と言っていた天使のような女性へ声を掛ける。
「愛梨先輩、ちょっと来て!」
愛梨先輩といわれていた天使のような女性は、こちらを振り返り、冨澤先輩が手招きしているのを見て、自分の席を立ち、こちらへ向かって来てくれた。
「どうしたの? 冨澤くん」
「いやぁ、この子が愛梨ちゃんのこと可愛いってよ」
「ちょっと先輩!」
俺は顔を真っ赤にしながら、アワアワとなってしまった。
愛梨先輩は俺の方を見つめる。すると、目をキラキラさせて手を振ってきた。
「あぁ、こないだの! 来てくれたんだ!」
「ど、どうも……」
俺は頭を掻きながら挨拶する。
「え? 何知ってるの?」
「私がチラシ配ったんだよ~」
冨澤先輩に事の次第を手短に説明して、また俺の方を向いて頬笑みを浮かべた。
「私は
天使のような女性は、俺の方に向き直り、丁寧に挨拶をしてくれた。
「初めまして、南大地っていいます」
「厚木健太です」
「南くんと厚木くんね」
愛梨先輩はじぃっと俺と厚木の顔を交互に見つめてきた。何度か見比べた後、最後に、俺の顔をじいっと見つめてきた。恥ずかしくなって目線をふいっと反らす。
「よし、顔覚えた!」
愛梨先輩はにっこりと笑って、微笑んでいた。
「これから、よろしくね!」
「はい、よろしくお願いします」
愛梨先輩は一言そう言い残して、自分の席へ帰って行った。俺は緊張から解放されて、ぶわぁと汗が出てきた。
すると、愛梨先輩を見送っていた冨澤先輩が、こちらへ振り返る。
「よかったじゃん話せて」
「はい」
「よかったっす」
しかし、先輩はすぐに真剣な表情になり、言ってきた。
「でも、愛梨先輩は気を付けたほうがいいぞ」
「え? どうしてですか?」
冨澤先輩は、俺と厚木を手招きして、小声で話してくる。
「愛梨先輩って他の人からも人気あるから、うちのサークルの男子も何人もの奴らが告白してきたけど、全員撃沈してサークル辞めてったんだ。噂によるとサラリーマンの彼氏がいるとか、他のサークルの男子とラブホに行ってやりまくってるとか、謎が多い人だから。愛梨先輩目当てでこのサークルに入るのは、おすすめしないぞ」
冨澤先輩は俺たち二人に忠告をしてくれた。やはり、詩織や春香が言っていたように裏があるのだろうか?
俺はそんなことを思いながら、俺は汗をかいて熱くなった身体を冷ますために、自分のグラスに残っていたウーロン茶らしき飲み物を一気に飲み干した。
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