プロローグ 持つ者は友達

 大学の授業が始まって一週間が経過した。お試し期間も終わり、本格的な授業が始まる中、俺は空き時間に一人コミュニティールームのPCで、次の授業のレジメを印刷しながら、とあるチラシを眺めていた。それは、あの天使のような女性から受け取った、サッカーサークル『FC RED STAR』のチラシだった。

 今週末には、新入生歓迎会、通称『新歓』が行われるらしいのだが、俺は未だに行くかどうか悩んでいた。


 詩織しおり春香はるかに辞めておいたほうがいいと忠告されたとはいえ、やっぱりなぁ……

俺はどうしても、あの天使のような女性が気になって仕方がなかった。

 頭を抱えながら悩んでいると、ふと後ろから声を掛けられた。


大地だいちどうした? そんなに頭抱えて」


 振り向くとそこにいたのは、厚木健太あつぎけんただった。どうやら前の授業は早く終わってここに来たらしい。


「おう、健太か」


 健太は俺が手に持っていたチラシを見て、うーむと頷く。


「わかる。わかるぞ、大地。俺もその新歓行こうかすげー悩んでる。でも、詩織から絶対行くなって止められてんだよなー」


 健太は首に手をやりながら苦笑いを浮かべていた。


「うーん」


 俺は唸ってから、健太の方に体を向け姿勢を正す。


「健太頼む、一緒にこの新歓ついてきてくれない?」

「ふふ……その言葉を待ってたぜ大地」


 健太は悪い笑みを浮かべながら肩を組んできた。


「やっぱり、ダメといわれちゃ余計に行きたくなるってもんだよな」

「うん」

「それに、結局は大地も、あの先輩目当てだろ? やっぱりあれだけ美人の人がいると、少しでもお近づきになりたいって思うよな」

「おう」

「よし、じゃあ。これは、俺とお前だけの秘密ってことで、詩織たちには内緒でこの新歓行こうぜ」


 小声で俺にしか聞こえないように、健太が魅惑の提案をしてきた。


「マジで!? いいの?」

「いいってことよ。俺も気になってたって言ったろ?」


 健太はニコリと白い歯を見せながら、グッドサインをしてみせ、肯定の意を示す健太。


「サンキューな」

「いいってことよ」


 健太は組んでいた腕を外して隣の席に座る。


「じゃ、行くって決まったなら連絡しねぇとな、えっとアドレスは……」


 健太はそそくさと俺が手に持っていたチラシを見て、アドレスをスマホに登録しはじめた。俺も慌ててスマホを取りだして、アドレスを入力する。お互いに登録を終えて、スペルが間違っていないかを確認する。

 そして、学部と名前を入力して、新歓に参加したいですという意を伝える文章をメールで打ち、連絡先の元へ送信した。


「よし、おっけい。これで、あとは連絡待つのみ!」

「ほんと、ありがとうな」

「いいってことよ! あ、じゃあその変わり、レジメもう一部印刷してくれね?」

「おっけ」


 持つ者は友達だな……ホントに健太と仲良くなってよかったと改めて実感した。

 俺は健太のレジメを印刷するために、印刷機の元へ歩いていく。


 これで、あの先輩と会える。期待に胸を膨らませてつい笑みがこぼれているであろう俺の表情は、周りから見れば変な人に見えるかもしれないが、そんなことは今はどうでもいい気分である。


 今週末が待ち遠しくて、俺はワクワクがとまらなかった。

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