けして予約のできない料理店

ちびまるフォイ

キャンセル1件入りましたァーーー!!!

「いやぁーー予約のできない店、最高だったよ」


「なんていう店なの?」


「『予約のできない店』だよ」

「注文の多い料理店みたいなネーミングだな……」


「でも、そこの料理はホント最高だったよ。

 あれを味わっちゃったらもうほかを食べれなくなるね」


「マジか……!」


これまで自称グルメを気取り、

ことあるごとにお店の料理を「イマイチだな」と

ドヤっていた知り合いがそこまで褒めるから流石に気になった。


「予約のできない店」というのも気になる。


「"予約のできない店"っと……」


ネットで軽く検索しても関係ない情報しか出てこなかった。

店の名前が店の名前だけにノイズが多すぎる。


「あーーもうどれだよ。わからないなぁ」


それでも必死に探すこと数時間。

やっとそれらしいお店を見つけることができた。


あまりの美味しさにテンションが上がって、

SNSで投稿された内容が糸口になった。



プルルル。プルルル。



「……出ないなぁ」



――おかけになった電話は電波がつながらないか

  電源が切られています。発信音の後に今の感想をどうぞ



「ふざけんな!!」


電話もネット予約も当たり前だができなかった。

「予約がいっぱいだから」ではなくそもそもつながらない。


「いや、待てよ。予約ができなくても現地ならなんとかなるかも!」


飛行機でも当日にキャンセルされて空きができることもある。

予約がギッチギチということはそのチャンスもあるはず。


店の住所を確認して向かった。


「こ、ここかよ……」


なにもなかった。

ジャイアンがリサイタルしそうな土管があるだけの

無残な荒れ地だけが店の住所の場所にはあった。


「そんな……もう潰れたのか……?」


でも知り合いはつい最近言ってきたような口ぶりだった。

日が経っているなら、あんな風に熱をともなった感想は言わない。


店が移転したのかと、近くの住民に聞いては見たが誰も知らなかった。


「八方塞がりかよ……」


食べれないとわかるとかえって食べたくなる。

あの知り合いを唸らせただけの食べ物を味わってみたい。


「……そもそも、あいつどうやって行ったんだ?」


店はないし連絡手段もない。

嘘でないのならどうやって訪れたのだろう。


そこから数日は知り合いを毎日24時間観察し続けた。

仕事はもちろんプライベートの時間もけして目を話さない。

きっとなにかしら行く方法があるはずだ。


ストーカーを初めてしばらくしたとき、

知り合いは忘れ去られたようにおいてあった公衆電話ボックスに入った。


どこかに電話をかけるとボックスにいた知り合いの体が瞬時に消えた。


「な、なんだ!?」


慌てて電話ボックスに駆け込むと、

早かったのが幸いしてまで液晶に電話番号が表示されていた。

すぐに表示は消えてしまったがその番号を備え付けの電話帳で検索する。


電話帳には「カコ」とだけ書いてあった。


同じ番号に電話をすると電話ボックスから見える風景が一瞬で変わった。


高層ビルが立ち並んでいたはずのビル街が、

活気づく平屋ばかりの商店街になっていた。


売っていた新聞でここが過去の時代にだと気づいた。

あの電話ボックスはタイムワープ装置だったらしい。


電話ボックス近くにある「予約のできないお店」に向かうと、

空き地に変わる前の店がまだ残っていた。


「やった! やったぞ! ついに見つけられた!!」


過去にある店だから電話もつながらないし店舗もない。

訪れるためには過去に戻る必要があった。


店をのぞけばすでに席にぎっしりと人が詰まっている。


「いらっしゃいませ。ご予約のお客様ですか」


「いえ、そうじゃないんですけど。キャンセル待ちってできますか?」


「ごめんなさい、うちは予約専門なんです」


「それじゃ予約します!」

「いつにしますか?」


「明日の〇〇年の△△月××日で!」


俺は現実時間の1日先を設定した。

これで現実に戻ったとき、明日が予約の日になる。


「すみません、その日は予約がいっぱいで」


「その次の日は?」

「いっぱいです」

「次の次は?」

「いっぱいです」

「1週間後」

「いっぱいです」

「1ヶ月後」

「いっぱいです」

「1年後」

「いっぱいです」


「どんだけ取れないんだよ!!」


「10年はかかりますね」

「ええ……」


過去に行っても予約のできないのは変わらなかった。


「ちょっと……考えます……」


なかば諦めて電話ボックスで現実に戻ろうとしたとき、

ふと頭の中にひとつひらめいた。


「そもそも予約したやつよりも先に予約すればいいんじゃないか!?」


まさに天啓。

手元には過去に戻れる電話マシーンがある。


電話ボックスを使って最大限の過去まで戻ってから予約すれば、

俺の方が先に予約したことになる。


「すごいな。このボックスはどんな過去にも戻れるのか。

 それじゃ、確実に予約勝ちできるほどの過去に戻ってやる!!」


電話番号の下3桁を変更することで指定の過去に戻ることができる。

俺は「999」とボタンを押して電話ボックスをワープさせた。


風景は移り変わり、まだ武士が歩く時代へとワープした。


「よし、さすがにこれくらい戻ればもう大丈夫だろ!」


そのまますぐに電話すると店につながった。


「あの、予約をしたいんですけど!

 〇〇年の△△月××日に! 可能ですか!?」


「はい、まだ1件も予約入ってないですから。

 それでは当日にお待ちしておりますね」


「やったーー!! ついに予約できたぞ!!」


最大限まで過去にさかのぼって正解だった。

他のやつらでこれ以上過去に戻った奴はいなかったらしい。バカめ。


「あーー、予約できたらすっかり安心しちゃった。

 せっかくだしこの世界も少し観光して回ろうかな」


電話ボックスから出て街をふらふらと歩いて回った。

この時代にも「予約のできない店」があった。


「おいおいまじかよ! この時代にもあるなんて!」


予約専用なので客は誰も店にいなかった。

店に声を掛けるとその場で予約し、その場で食事にありつけた。


その美味しさたるや言葉を失うほどだった。


「店長、本当に美味しかったです。

 こんなの食べられるなんて、生きててよかった」


「私も嬉しいですよ。この時代まで店に来てくれる人がいるなんて。

 他の人はここまで過去に行きませんから」


「こんなに空いてるのに、ホントもったいないな。

 もっとくればいいのに」


「みんなそこまで自分を犠牲にできないんでしょうな」


「犠牲?」


店主の言葉にひっかかった。

店主は料理の下ごしらえを続けながら語った。




「知らないんですか? この時代に電話ボックスはない。

 だから一度ボックスの外に出ると、電話ボックス消えちゃうんですよ」



999年後に予約された1件のキャンセルが確定した。

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