眠旅

明日葉

邂逅

これは夢の中の話。


夢の主に会った。


場所は丸い鉛筆型の塔の頂上、洋風の書斎のような部屋だった。


螺旋状の階段を登りきると、まず目に入ったのは大きな執務机だった。

赤茶色に金の模様が描かれた、大変立派な机である。

その後ろに、同じく赤茶色に金の施しがされた、とても大きな本棚が見える。

見上げるほど高い本棚に、隙間なく本が敷き詰められている。


本棚のてっぺんから両側に、大きな濃い緑(萌葱色)のカーテンがまとめられていた。

床には、カーテンと同じ色を基調とした、円い絨毯が敷かれている。

ペルシャ風の模様が美しく、曼荼羅のようにも見える。


そして、塔の石壁の向こう側の、夜の帳が透けて見える。

濃藍のキャンバスいっぱいに、溢れんばかりの星々が煌めいていた。


机と本棚の赤茶に、カーテンと絨毯の濃緑、夜の藍色。

その3色を彩る金銀の瞬きたちとの美しさに、少しの間 見とれていた。



気がつくと、誰かが執務机の席についていた。

(あれ?さっきまで誰もいなかったと思ったのだが…?)

この部屋の入り口は私の後ろの階段だけだ。

少し奇妙に思う。


その人物は燕尾服に身を包み、シルクハットをかぶっている。

性別はわからない。

というよりも、顔がわからない。

顔があるのはわかるのだが、目や鼻、口、髪型など、ありとあらゆる顔の情報がわからない。

記憶に残らないのか、あるいは見るたびに形状が変わるのか…?

手も顔も、黒く塗りつぶされて私の脳に記憶される。


「君の望みは、何だい?」

その人物…影は、そう問いかけてきた。

声のも性別がわからず、中性的な声だ。

その様子を不思議にも思わず、少し考えたあと私は返事をした。

それに対し、影は

「…そう、その望みはきっと叶うよ。」

と返してくる。

声に抑揚は無いし、表情も見えないのだが、嬉しそうにしているのがわかる。


その答えに私は不満の感情を抱く。

(叶う?)

(その望みの状態と今はかけ離れており、全然 関係のないところにいるのに?)

(いったい何を言っているんだ)


考えている私を見ながら、影は

「そろそろ時間だね。」

と続けた。

「また、会えるときを楽しみにしてるよ。」

そう告げられると、急に意識が遠のき………



私は目を覚ました。

ぼうっとした頭でさっき見た夢を思い出す。


最上階の景色はとても綺麗だった。

あそこにいたのは人ではなさそうだ。

あの物体は…そうか、あの影が夢の主か。

不思議とそう確信する。


ただ、会話の内容が思い出せない。

だけど、会話で私が感じた感情は、不満と、ほんの少しの嬉しさだと覚えている…。


寝ぼけながら寝室のカーテンを開ける。

朝日が眩しい。

今日も一日が始まる。

私はいつもの日常へと追われていくのだった。

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