第8話 ビースト
かばんさん、博士、助手主宰のお茶会は、時々漂う、仄かなケミカルフレーバーが独特な雰囲気を醸している
「アムールトラさん、お味の方は如何ですか?」
「ぐる……がう……」
手先の鋭い爪がティーカップを持ちにくくしているらしく、
「アムールトラさん、こうして持ってみて下さい」
「が……がうっ!」
かばんさんから習い、おみみではなく、両手で包み込むように添えて持ち、くんくんと匂いを嗅ぎつつ
「……がおっ!?」
「アムールトラ、ふーふーするのですよ!?」
「が、がうー……」
「ビースト、とは言え我々、フレンズと痛覚は変わらず、そして猫舌なんですね……メモメモ……っと……」
「キュルル」
「は、はいっ!?」
「いろいろきたいこと、あるかとおもいますがいまは、しばらくまつのですよ?」
「今聞くのは野暮、と言うものです。解りますね?」
食べられる側が食べる側に強く見つめられる
そんな視線
喉元まで出掛かった悲鳴は、つっかえて……
「げほっ……!」
噎せてしまった
ぼくの様子を見て、アムールトラさんが仕返しにとばかりに二人を睨み付けた
「アムールトラさん、ぼくは大丈夫だから、ね?」
鼻息は荒く、歯を強く噛みぎしり、そして今までより低く唸る
ぼくは何となくだけど、ほんの少しでも刺激したら取り返しの付かない事になると思い、二人の間に立ち塞がった
「……ッッ!!」
「キュルルさん!!」
テーブルには、鮮やかな紅が乱暴に塗りたくられる
「コノハ博士、ミミ助手!今は近寄っちゃダメだ……!!」
あぁ、かばんさん……ぼくをかばったばっかりに……
「アムールトラ!待つのです!!」
博士と助手さん慌ただしくなり……
それにしても今日は、夜が来るのが早いなぁ……
な……んだか……眠く……なってきち……ゃった……
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄………
お父さんとお母さんに連れられ、ぼくは、ジャパリパークへとやって来た
とても大きな船に乗って
お父さんとお母さんはお仕事がとても忙しくて、家族が揃うことはとても珍しかった
お友達がそこに行った事をとても楽しそうに話してくれるのが羨ましかった
でも、本当は、ジャパリパークに行ったからじゃなくて、お父さんやお母さん、兄弟、なによりも家族みんなで行ったと言う事が何よりも羨ましかった
だからぼくは、お父さんが「みんなで行くぞ!」と言ってくれた時は幸せな気持ちでいっぱいになった
「ねぇ、お父さん!」
「なんだい……?」
「ありがとう!でも良かったの?お仕事忙しいんでしょ?」
「それは、大丈夫だよ!たまにはお父さんらしい事、してやりたくてなぁ……いつもごめんな?」
「そう言えば貴方、私達、結婚してからもう十五年も経つのよ?早いものねぇ……」
「……も、大きくなった。それに、……ちゃんにも、プレゼント……したくてな」
「ふふ……貴方ったら、またカッコ付けちゃって……」
「わんっ!」
今日のこの日は、家族、なによりぼくにとってとっても幸せな一日
朝一番で着いたから、一日をとても長く遊ぶ事が出来る
ジャパリパークはあまりにも大きすぎて、とてもじゃないけど、今日一日使っても、このパーク・セントラルを回るなんてとうていできっこない!
「……、明日はモノレールに乗って他行ってみようか!」
「うん!楽しみだよ!!」
ぼくは、持ってきたスケッチブックに思い出を描く事にしたんだ
「……、忘れ物は無い?」
「ばっちりだよ!」
スケッチブックを持って、リュックの中には色鉛筆、ハサミ、定規……
「じゃあ、しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!」
「ふふ……出逢ったあの頃に戻ったみたい……とてもいきいきしていて、私も嬉しい!」
「そうだね!……でも、恥ずかしいからあんまり言わないでよ……」
お父さん、お母さんと……、一緒にモノレールに乗って、色々な所を回って風景を切り取ってみたり
「はい、ちーず!」
お父さんは、カメラが好きみたい
ここに居れる日にちは、一週間
とても長いようで、もう明後日にはこの楽しい日は終わってしまう……
その日ぼくは、はぐれてしまう……
きっかけは、足を何かに引っ掛けてしまって、土手を転げ落ちてしまったんだ
「いたた……」
気がついた頃には、もう夕方になっていていた……
「お父さぁん……お母さぁん……」
あてもなく、暗くなった森の中
怖くなって、訳がわからなくなって、どこまでも歩き続ける
「はぐれてしまったの?」
「お姉さん、だぁれ……?」
暗くてあんまりよく見えない……
だけど、目だけは少しの明かりに反射して光輝いている
「だってここ、普通なら誰も寄り付かない所なのよ?それくらい分かる。あ、私……宜しくね?」
「うん……」
「大丈夫よ!だって私が着いているんだもの!ほら、泣かないで?」
手を牽いてもらいながら、夜の森の中を歩く
お姉さんは楽しいお話をいっぱいしてくれた
「今日はここまで!続きはまた明日ね?」
結構長い距離を歩き、ぼくはくたくた……
「ほら、こっちおいで?なでなでしてあげるよ」
お姉さんに寄り添い、ぼくは眠る
不思議と怖くなくて、ぐっすりと眠る事が出来た
翌日も歩き、お昼ごろ
「じゃあ、私はここまで!後はガイドさんの言うこと、ちゃんと聞くのよ?」
「うん!お姉さんありがとう!!」
もう、会えないかも知れない
「ねぇ、お姉さん」
「何かな?」
だからぼくは手を握ってもらった
とっても力強くて、そして、とっても大きかった
バスの後ろからぼくはお姉さんに手を大きく振って、見えなくなってもいつまでも振っていたんだ
「ごめんな……父さんがしっかりしてなかったから……」
「ううん、そんな事ないよ?」
ぼくは今まで有った出来事を話した
「よし、明日ありがとうを言いに行こう!」
「貴方、流石にそれは止した方が……」
そして、その日の夜、あの事件が起こった……
 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄………
「はっ……!」
ぼくは、また寝ていたみたい
なんだか、ぼんやりと思い出してきた気がする……
「みんなが、おまえのためにちをわけてくれたのです」
腕には、管が繋がれている
「がうぅ……ぐるる……」
「アムールトラさん、そんな顔しないで?……っ!うえ……!?」
「これは、仲直りのしぐさなのかもしれないね……!」
アムールトラさんは、ぼくのほっぺを一回ぺろりとなめる
「キュルルさん、なんだか昔のボクを思い出します……これ、サーバルちゃんもしてくれたんだ……」
かばんさんは、大分前、サーバルさんを庇い、二度も命の危機に晒された事が有ったとその当時を振り替える
故郷を離れ、旅の途中でフレンズじゃなくなってしまったサーバルさんは、意識の無かったかばんさんを守護りながら、起きるまでずっとなめ続けてくれたと話してくれた
手袋を普段から着けているのは、その時以外にも誰かを庇い、傷付いた腕や首筋、背中を見られてしまうのが嫌だと苦笑いしながら話す
「まったく、ヒトはバカばっかりでこまります……」
「博士だって、あの時……」
「いいですかじょしゅ?あのことはいってはいけないのです!!」
「そうでしたね博士……ってキュルル!お前はまた死にたいのですか!」
ぼくは、無意識にアムールトラさんの手を握っていた
強くは無い、でも、包み込むように握り返してくれた
「……あり、……がぁ、と……」
「どうしたの?」
「こ……わ、か、がぁっ、た、た……」
上手に話す事が出来なくても、それは言葉の一つ一つを、絞り出すように……
「やはり、そうでしたか……」
「ビースト、謎が多き存在でしたが、1つ謎が解明されましたね、博士……トリガーを弾いたのは我々だったのです……」
「こんご、こうどうは、いまいじょうにしんちょうにおこなわなくては……きがゆるんでしまっていたわたしを、わたしがゆるせない……!」
「不慮の事故、だったとは言え……かばんが居なかったらどうなっていた事か……」
「やはり、かばんにはわれわれ、あたまがあがらないのですよ」
「コノハ博士ミミ助手も、色々やってくれたじゃない」
「と、とうぜんなのです!われわれは、シコいので!」
「博士、噛んでますよ?」
「しっ……また、なにかはなそうとしていますよ……?」
「ご、……め……ん、な、さ……い……」
「いいんだ、もういいんだ……」
「がうぅ……」
「みんな、ぼくはこの通り無事じゃなかったけど、もう、許してくれないかな?」
「われわれは、べつにおこっているわけではないのです……」
「そうなのです!と、一段落したところで、お腹が空きましたね、博士……」
「そうですねぇ……じょしゅ……」
にやり……
コノハ博士、ミミ助手、かばんさんに生暖かーい視線を……?
「た、たうぇえ!?」
「かばん、お前達で美味しい物を作るです!!」
「しけんてき、ではありますが、かがいじゅぎょうとして、そのこもつれてってやるのです!」
と、言うわけで……
カラカルさん、サーバルさんが呼ばれ作戦会議!
「キュルルあんた、もう大丈夫なの?」
「うーん……」
立ち上がろうとすると、ふらふら
「がるる……っ!?」
「ご、ごめんね!?」
どきりとした
倒れたぼくを受け止めようと手を差し伸ばしてくれたんだけど、目の前には鋭い爪が!
「がるる、ぐるる……」
そーっとぼくを座らせてくれた
「ありがとう!」
「がおっ!」
ちょっと悔しい、いや、かなり悔しいけど今回ぼくはまたまたお留守番となった
「キュルルちゃん……ほんとは、わたしも一緒にいきたかったの……」
「サーバルさん、今日はこの日しかないんだけど、また明日だって、楽しい事たくさんあると思う。ぼくが元気になったらまた一緒に。もちろん、みんな一緒で」
「……そうだね!じゃあ、とびっきりのやつ、待っててね!キュルルちゃん!!」
「善は急がば回れ!行くわよ!!サーバル!かばん!!」
「あはは……ちょっと違う気がするな……」
↑←→↑←→↑←→↑←→↑←→A
「さて……そろそろ、ですかね?」
ぼくは、部屋を移してもらい、外を眺めながら絵を描いていた
窓の外を眺めるぼくとコノハ博士
そろそろ、とは?
ふははははははは!!
「その声は……ッッ!!」
窓の外が急に暗くなる
「僕だよ。驚かせてごめんね?」
「アライさんウーマンなのだ!」
「フェネックウーマンだよー」
「あ、アライさんとフェネックさん、それに、セルリアンさん。こんにちは」
やっぱり誰と分かっていても、あの後だからか、ドキッとする……
今日のアライさんとフェネックさんは、目だけ隠してるのは変わらないけど、ねじり鉢巻姿できりりと決まっていた
「アライさんとフェネック、ちゃんと玄関から入るんだよ?」
「はいなのだ!」
「アライさん、まってー」
「おじゃましますなのだ!!」
二人が入った事を確認したら……
「……アライさんは、アライさんウーマン。フェネックは、フェネックウーマン。いいね?」
「アッハイ」
一体、どこから声が出てるのかな?
「それからコレはサービス。先ずはコレを飲んで落ち着いてほしい……前にアルパカから頂いたおすすめの紅茶だよ」
「アッハイ」
セルリアンさん、どこからか魔法瓶を取り出し、触手を器用に使い、ぼくに渡してくれる
飲み終えた後、ミミ助手より……
「……キュルル、動けますか?」
「一応……」
「そうですか」
のだーッッ!!
すーごいよ!アライさーん!!
「始まりましたね」
「ミミ助手……一体、何が始まると言うのです?」
「食の…」
第三次ジャパリ大戦なのですッッ!!
「な、なんだってー!?」
しゅっぱつしんこー!ジャパリパーク!!
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